クラス転移に巻き込まれ用務員は魔力が0だった。
ぐっちょん
第1話
「エール一つね!」
「はいよ。エール一つ」
俺はコップを手に取ると、そのコップの中にアイススキルを使って氷を入れ、次にエールの入った樽からエールを掬い先に氷を入れていたコップに注ぐ。
「はい、エール一つ上がりです」
すると女性客の相手をしていた若い男が俺の作ったエールを手に取りまた女性客のテーブルに戻る。
「こっちもエール一つ!」
「はいはい。エール一つですね」
酒場のマスターみたいな仕事してるけど、俺、男娼、男娼なんだ。それも異世界で……
なぜかというと、俺、山畑太郎(ヤマハタ タロウ)24歳は、とある高校で用務員として働いていた。臨時のため一年更新で正職ではないが、これは勤め先として公務員を狙ってのことで、でも結果は不採用ばかり、そろそろ公務員を諦め俺でも勤めれそうな会社を探し始めていたところだった。
そんなある日俺は、教室の空調の調子が悪いから朝のうちに見てほしいと、できれば直してほしいと、そのクラスの担任から頼まれ、その教室に行った。
すぐに原因をつきとめ作業はスムーズに終えたが、それでも朝のホームルームが始まるギリギリの時間だった。
生徒たちはすでに着席し先生も教卓の前に立っている。みんなの視線は部外者である俺にちらちら。ちょっと居心地が悪い。
俺は作業が終わったことを担任の先生に告げ慌ててその教室からで出た。いや出ようとしたがドアが開かない。
この時の俺は、今度はドアの修理が必要だな……とそんなことを考えていたんだが、そんな時だった。
「?」
突然辺りが真っ暗に。停電? あちこちガタがきすぎじゃない? と一瞬だけそう思ったが、すぐにそうじゃないと気づく。
え、なんだよこれ……
そう周りを見渡すと、ここが真っ暗な空間の中で、俺は、いや俺たちはそんな空間をふわふわと漂っていたのだ。
担任の教師や生徒たちが口を大きく開けて何やら叫んでいる風だが、何を言っているのだろう。全く聞こえてこない。というか何の音も聞こえてこない。
痛っ。
この状況をどうにかしたくて辺りをきょろきょろと見渡していると、突然ズキリっとした頭痛がしたかと思えば、締め付けられるような胸の痛みに襲われた。
ぐっ……
同じタイミングでみんなも同じように頭や胸を押さえてもがいている。
それからは……たぶん意識を失っていたんじゃないかな、気が付いた時にはどこかの床に転がっていた。
「はい、エール一つ上がり!」
で、気づいた先が異世界だったわけで俺、いやあの教室にいた全員が召喚されていたというわけだ。
その召喚者は魔力至上主義のマホマホ王国の魔法使いたち。
そしてそこは、そのマホマホ王国で王都マホーンだった。
しかもその魔法使いたち小躍りしている奴や、「成功し…j@3%ぉ!」とか「うほぉ…m☆€ぉー」とか言葉になってない奇声を発していて近づき難い。
見るからに興奮している。何をされるか分からない恐怖がある。
ただ先生が、しつこく問いただしている姿が目に入り「戻す術はない」とか「その必要ない」とか、言われて顔を真っ赤にしていた。
というのもこの召喚に至った目的が、召喚されし者は揃って魔力量が高く、その血を自分たちの一族に取り込むためという勝手極まりないものだから。
これは後から部屋に入ってきた偉そうな男が言っていた。
それからすぐに俺たちはオークション会場に強制的連れていかれた。ウソだろと思うがホントのことだ。
もちろんほとんどの者が逆らって抵抗しようとしたが両サイドから本物の鎧を着た騎士に挟まれば、すぐに大人しくなった。俺もそうした。
縛られたりとかはなかったが、常に本物の剣や槍の先端を向けられていればしょうがないと思う。あれは無理だ。動きようがない。
そして、着いた会場では王族やら多くの貴族たちで埋め尽くされていて、司会進行役(今回異世界召喚を発案した中心人物)がマイクのような物を手にして一言挨拶してから鑑定のオーブなるものを会場の中央に設置するよう質の良い立派な鎧を着た騎士に指示を出し、すぐに運び込まれ設置された。
俺たちは一列に並ばされ、合図と共に一人ずつ中央に、鑑定のオーブが設置された台座がある所まで歩かされる。
もちろん俺たち一人に対して二人の騎士が着いてくるので逃げることはできない。
その鑑定のオーブに触れるとその上空に魔力量と使える魔法、そしてスキルが表示されていた。
これにはびっくりしたが会場からも驚きの声。その声を拾えば、予想以上に魔力量が多かったらしい。すぐに平静を取り戻した司会進行役もそう言っていたので間違いない。
ちなみに後から聞いた話だけど今回の召喚は実に100年振り、というか100年に一度しか実行できない行為だったとか。月の満ち欠けやこの星全体を覆う魔素? の関係。よく分からんけど。召喚を成功させた魔法使いたちは興奮のあまり鼻血を出して倒れていたらしいけど、それはどうでもいいか。
まあそんな感じの召喚されし者を実際に目の当たりにしたわけだから、当然にオークション会場は大盛り上がりだった。
先生も生徒たちもとんでもない金額で落札されていく。
で俺の番。
あ、思い出したらなんか涙が……
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