第11話 更生者



「決まり、ですね〜」


 それだけ口にすると立ち上がり初めに会った時と変わらない笑みを見せ、身動きを止められている俺の周りを歩く。


「ボールス様、申し訳ありません〜実はわたくし達は嘘をついてました〜」

「え? 何を言って…」

わたくし達はこの街ルクセリアに来る理由があったのは本当なのですが〜」


 動きと言葉を止めると俺に振り返りニッコリとスマイルをおくる。


わたくし達が探しているお方は「救世主」ではなく〜「」なのです〜「更生者」を見つけてわたくし達の手で「」をさせると言うことが目的なのです〜」


 目を瞑り、神に願いを注ぐ。お芝居のように両手を天に上げながら。


「あぁ、神は言いました。"汝 赤茶髪で茶色の衣服が似合う人の子 更生させろ"と。それはボールス様のことだったのですね〜」

「……」


 楽しそうに、それはとても楽しそうに囁く。今も「やはり運命なのです〜」と言いくるくるとその場を危なげなく回っていた。


 は? 「救世主」ではなく「更生者」? 何を馬鹿なことを言って。それが本当だとしても俺に更生させるところなどないだろ。


「あ、お金は回収しますね〜そのお金で借金を返済して「ルクセリアこの街」から逃げられても困るので〜」

「ボールス様。お金は預かりますね」

「あ、あぁ」


 コルデーの言葉に従う申し訳なさそうな顔をしたレイアの手によりせっかく手に入れた「5000万ベル」が奪われる。お金を取られ情けない声を上げてしまう。


「大丈夫ですよ〜ボールス様がしっかりと「更生」できたらお金は戻ってきますので〜それと私達はこのホテルに泊まりますが〜ボールス様は他で泊まってくださいね〜」

「え? それはどういうことですか?」

「決まってます〜ボールス様には普段の生活を過ごすように自由にして欲しいからです〜ただし「逃げる」なんて思わないことです」

「――ッ」


 言葉を止めるコルデーは虫のような無機質で感情一つ湧かない目で真顔を向ける。その顔を見て嫌な汗が垂れる。


 ただそれも一瞬。直ぐにニヘラと笑う。


「この街の人達には既に協力をお願いしてますし、街の中にも他の騎士さん達が見張っていますので〜と思ってください〜」


 笑顔で言われてしまう。他にも「「更生」の件で街の人に聞いたらペナルティですよ〜」とニコニコとしていた。

 ただここまでの話の中で何となくきな臭いというか事が上手く運びすぎだと思っていた自分の考えに納得もいく。


 一つ、聖女との出会い方。

 二つ、聖女の対応の仕方。

 そして…三つ、「」と言う言葉。


 初めその言葉を聞いた俺は「自分のことを好きなのかな?」と思ったがそれは出来の悪い勘違いだ。神の信託通りにことが進んでいるから嬉しさから高まり頰を染めていたのだ。自分のことを狙うように見てくる視線も視線がやけに気になったのだろう。

 その他にもルクセリアに来る際に噂を聞き「ボールス・エルバンス」という男が怪しいと始めから目星は付けていたのだろう。コルデー聖女レイア女性騎士が俺の取り合いをしているようにのもこちらの油断を誘う作戦。お風呂に入浴させたのも神の信託にある「」が似合うか確認する為に入浴させた。


 ――そして"俺の話"と合致した俺をと確定だと思った聖女一派は神の信託の通り俺を「更生者」だと決め、試練に挑む、と。ハァ、してやられたわ…ただ一つ気になることもあった。


「レイア。なのか?」

「…聖女様の言葉が、絶対なので」

「――そうか」


 少しいじわるだがあえて「自分の敵」という言葉を選び話しかけた。すると面白いように肩を震わせ気まずそうに肯定した。

 レイアだけは記憶にある通り自分が昔助けた少女で間違いないのだろう。ただそれでもラクシアの住民は『聖女様の言葉が絶対』という認識があるからか離反出来ない。


「――はぁ、わかりましたよ。の更生でも何でもやれば良い。ただどうやって更生なんてやるつもりだ?」


 さっきまでの「敬語」をやめて「タメ語」でコルデーに話しかける。体はこの世界のものでも魂は別人。なのでこの世界の規定ルールになど縛られる言われはない。


「なッ!? 聖女様に向けてなんて口の聞き方を――「いいのですよ〜」――ッ、わかりました」


 コルデー聖女に止められ騎士は渋々下がる。その時に俺を一睨み。

 コルデーは自分に「タメ語」で話す俺を見て一際笑みを増す。その笑みはどうもきな臭く不気味に見えた。


「そうですね〜まずはこの魔道具をお渡しします〜」

「聖女様、私が渡しましょう」

「ありがとうございます〜」


 コルデーの近くにいた茶髪の騎士オーラスが魔道具を受け取る。


「エルバンス殿、こちら魔道具です」

「あ、どうもご丁寧に」


 コルデー経由で騎士オーラスから日本にもあったような茶色の腕時計に似ている形状のものを渡される。画面のようなものもありそこには「−1000」と数字が記載されている。


「これは?」

「はい。それは人の「善意」と「悪意」を計る魔道具。名付けて『善悪計君一号ぜんあくはかるくんいちごう』です〜」 

「……」


 俺の質問に簡易的に説明してくれる。ただ「わたくしのお手製なんですよ〜」という言葉を聞いた俺は受け取った『善悪計君一号』とかいうわけのわからない魔道具を投げ捨ててやりたい衝動に支配されたが、何とか押さえる。


「…どうやって扱う?」

「それはですね〜――」


 前置きを置き俺の「更生方法」とやらの話を楽しそうに話す。



 【更生方法】


 ・ボールスには「更生」の為にその『善悪計君一号』を常に身に付けて生活してほしいとのこと。手首に巻くか手に持つと魔道具の効果が得られる。


 ・『善悪計君一号』の初期設定は「−1000」となっている。それはボールスが「ルクセリア」の人々に悪さをしてきた数字を四捨五入して数値化した数字だとか。


 ・「善行」…善良等。良いこと又は人助け等をした時に「+1」される。


 ・「悪行」…悪事等。又はだと思った時に「−1」又は「−その時の気分」になる。


 ・「善行」を働き初期設定の「−1000」を「100」に戻したら「更生」は終了。


 ・一日に「悪行」が多いとコルデー直々のキツイペナルティ。

 


「――ということです〜早く解放されたいのなら頑張ることです〜」

「……」


 話を全て聞き理解すると共にコルデー聖女のことが嫌いになった。


 いや、まあ、神の信託でそれを行っているだけだと思うのだがなんかノリノリ過ぎて…絶対楽しんでるだろ。


「ぼ、ボールス様、ファイト!!」

「れ、レイア…」


 敵だと思っていたレイアだが今後の自分の生活に落ち込む姿を見て応援してくれる。その健気な姿に涙が出そうになっていた。


       ピロン!


 何か電子音のような音が聞こえた。


「あぁ〜ボールス様さっそくやってしまいましたね〜『善悪計君一号』を見てください」

「……」


 何か嫌な予感がして手に持つ『善悪計君一号』の画面を見た。


       「−1200」


「……」


 いやおかしいだろ。何で俺がレイアに応援されただけで「−200」されてるんだよ…あぁ、「気分次第」って奴か。クソ機能乙。


 しょうもない機能に肩を落としているとコルデーが説明を加える。

 

わたくしの目の前でなことをしたら直ぐに数値はマイナスですよ〜」

「……」


 「不埒」の程度がわからんわ。害悪過ぎて草。てかコルデー聖女が絶対操ってるだろ。自分で魔道具作ったって言ってたし、その事実が正しいとゲンナリとしてしまう。


わたくしの温情で今回はペナルティをなしにします〜次からは適応しますからね〜?」

「はぁ、わかった」

「ん?」

「…わかりました」

「♪」


 素直な態度にコルデーは満足と言った様子。


「あ、あとそのご洋服もボールス様にプレゼントしますので着てあげてくださいね〜」

「ありがとうございます。でははこれで帰らせて頂きます」

わたくしは迷える子羊を救済することが目的なのでいつでも顔を見せてくださいね〜」

「…機会があれば」


 その場から一刻も早く離れたかった俺は話も終わりだと思いその場を立ち去る。背後から「また会えたら話しましょうね〜」という間延びした声が聞こえる。


 「誰が会うか!」と言ってやりたいが色々と疲れたし、面倒臭いので本当に我慢した。





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