誰にも愛されなかった俺、全てを諦めたら周りの様子がおかしい
Haru
亀裂
目覚まし時計の音で目を覚ます。今日も一日が始まる。
なんの代わり映えもない一日が。
ベッドから体を起こし階段を降りてリビングに向かう。リビングには母さんと妹の奈那(なな)が居た。
「お、おはよう」
なぜこんなぎこちない挨拶をしているのかって?それは直ぐに分かる。
「あぁ、愛斗起きてたの。朝ごはんはテーブルの上に置いてあるお金で買ってね。それじゃあ母さんは仕事に行ってくるから」
「あ、行ってらっしゃい…」
そう言って母さんは玄関を出て車に乗りこみ会社に向かってしまった。どうやら母さんは会社ではかなりの偉いさんらしい。
いつも忙しそうにしている。家族の会話なんてそんなにすることが無い。
「おはよう、奈那」
「…」
無視、か。最近はずっと奈那に無視されている。
年頃の女の子なのだから反抗期のようなものなのかもしれないがもう半年も口を聞いていない。
俺そんなに怒らせることしてないのにな…
「朝ごはんどうする?」
テーブルの上には2000円が置いてあった。朝ごはんだけで2000円は多い気がする。
たまには母さんの手作りが食べたいな…
そんなの父さんが生きていた時だけだった。
「…」
相変わらず奈那は無言だった。
できることなら奈那とまた昔みたいに仲良くなりたい。奈那は昔よく懐いてくれていた。何処へ行くにも俺にベッタリでとても可愛かったことを覚えている。
「…俺、1000円だけ持っていくから奈那は残りの1000円で好きな物買えよ?」
そう言って俺は二階に上がり学校へ行く準備をする。
制服に着替えてカバンを持つ。そして奈那から逃げるように玄関から出て学校へ向かう。
「どうして私は…」
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「あ、来た」
「ごめん沙也香(さやか)待った?」
俺は近くのコンビニで立っていた幼馴染の綾乃 沙也香(あやの さやか)に軽く謝りながら声をかける。
「全然待ってないから気にしないで」
俺に気を使ってくれているのかと思ったが本当に気にしてなさそうな顔をしていたから本当に気にしてないのだろう。
「ごめん、朝ごはん買ってきていいか?」
「…また買うの?」
また、と言うのは毎回沙也香と登校する時にコンビニで朝ごはんを買っているせいだろう。
「まぁ、な」
当然寂しいという気持ちはある。だがそんなことを言って母さんを困らせたくなかった。
そんなことを言ってしまっては本当に愛してくれなくなる。
「そっか。じゃあ私も何か買おうかな!」
「え?でも沙也香はちゃんと食べてきたんじゃ…」
「いいからいいから!一緒にご飯食べながら学校行こ!」
あぁ、本当に俺は沙也香のこういう所が好きなんだ。
俺が落ち込んでいても落ち込む暇を与えぬような強引さが引っ張ってくれているような気がして嬉しく感じるんだ。
そうだな。俺は沙也香と一緒に居られればそれでいい。
だってこんなにも沙也香のことが好きなんだから。たとえ誰にも愛されなくても彼女にさえ愛されていればそれでいい。
そう思っていたのに。
「愛斗、私好きな人が出来た」
それは唐突だった。何の変哲もない学校からの帰り道。
その言葉を聞いた瞬間、俺は頭が真っ白になった。
「そう、なんだ」
そんな簡素な言葉を返すだけでで精一杯だった。
きっと俺のことでは無いのだろう。もし俺のことだったら本人にそんなこと伝えたりしないはずだから。
「うん」
沙也香は顔を赤らめながら嬉しそうに語った。
「その人はいつも私のそばに居てくれて、頼りがいがあるの。でもどこか危なっかしくて放っておけないような人」
沙也香は嬉々として語っているが俺の耳には何も入ってこなかった。何も考えたくたなかった。
「…へぇー」
ただ返事をするだけ。それが今の俺にできる精一杯のことだった。
「…その人と上手くいくと良いな」
「…愛斗?」
直ぐにここから逃げ出したかった。正確に言うと沙也香から。
「俺、用事思い出したから帰るわ」
「え?あ、ちょっと!」
早足で歩き出す。後ろは振り返らない。
どれほど歩いただろうか?もう目の前には家が見えていた。
そして母さんの車が目に入る。
母さん、今日はもう帰ってきてたのか…
何となくそう思う。
玄関を開けて家に入る。リビングから母さんと奈那の話し声が聞こえてきた。
何を話しているのかと扉の隙間から覗いてみる。
そこでは母さんと奈那が楽しそうに話していた。
「俺と話す時はそんな顔しないだろ…」
母さんは本当に楽しそうだった。俺と話す時はいつもしんどそうなのに。奈那と話す時は楽しそうだ。
この時から俺の心には少しのヒビが入った。
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