第35話「ジェラシー! プリティー! エクスタシー!」

 まさか謝罪行脚一発目で、いきなり偉い人に罵声を浴びせる場面を見ることになるとは思いもしなかった。芸能界は魔界か。


「ハァハァハァ……! 他社の社長さんたちも菜々美ちゃんが罵れば絶対に許してくれるよぉ~! 我々の業界ではご褒美だから! がんばってねぇ、菜々美ちゃんっ! はふはふはふぅ~!」


 なんだと……。

 俺の思っている以上に偉い人は特殊性癖の持ち主だらけなのか。


「一流の経営者さんは一流の変態紳士変態淑女さんでもありますから~♪」


 神寄さんが言うと説得力があるかもしれない。

 というか、この人もかなりの変人だしな……。


「…………瑠莉奈ごとき凡俗では、この世界で生きていくのは大変そう……」


 早くも瑠莉奈は芸能界の恐ろしさと厳しさを思い知らされていた。

 兄としては、こんなエキセントリックかつデンジャラスなワールドには行ってほしくないところだ。


「それでは、萌豚社長さま~♪ まだまだ謝罪行脚は続きますので~、後日また改めて~♪」

「うん、うんっ! 僕はもうオッケーだよぉ~! ……って、ところでだけどさぁ! そこのふたりは何者くんと何者ちゃんっ?」


 床から立ち上がった萌豚社長は、俺と瑠莉奈に視線を向けてきた。


「あ、はい、申し遅れました~。こちら弊社のマネージャー見習いであり菜々美ちゃんが結婚を約束していた越草修人くんと、その妹の瑠莉奈ちゃんですぅ~」

「むぐぅ!? 菜々美ちゃんが叫んでいたあの婚約者ぁあああああああああああ!? ジェラシィイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 萌豚社長は血走った目で俺を見ながら絶叫する。

 危うく「ひぃいっ!?」と叫びそうになった。


「そして、妹ちゃんメチャクチャかわいいぃいいいいいいいいいいいいいいいい! プリティィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイーーーーーーーーーー!」


 本当になんなんだこの人は。


「……こちらをキモい目で見ないでほしい……」


 ちょ、瑠莉奈! 偉い人に向かってなんて発言を!

 しかし――。


「我々の業界ではご褒美ですぅうううーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 とことんダメな人だ!


「ふふふ~♪ 瑠莉奈ちゃん、かわいいですよねぇ~♪ 菜々美ちゃんが騒動を起こしたおかげで、とてつもないダイヤの原石を見つけてしまいましたよ~♪」

「いいよ! この子すごくいいよぉ! この子クールなのにかわいい! ナチュラルに僕を罵ってくれたのもいい! 才能あるよぉ!」


 俺の妹に対してそんな興奮しないでほしい。


「……キモイ、キモすぎる……」


 そんな萌豚社長に対して、さらに蔑みの言葉をつぶやく瑠莉奈。


「ぶっひぃいいーーーーーー! 『キモい、キモすぎる』いただきましたーーー! エクスタシィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 両手を突きあげて歓喜する萌豚社長。

 ……もうこれ以上この場をカオスにしないでほしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る