第134話 妖怪パワー、メイクアップ(明海サイド)
あたし達は、助けたカッパさんに連れられて隠れ里へと進むことになった。
妖精達と同様、式神で鴉天狗の姿になった状態での接触だ。
一人忘れてる気もするけど、必要ならあとで回収すればいいということになった。
それもこれも喧嘩っ早いあの人がいけないんだよ。
秋乃さんはもっと手綱を握っておくべき!
幼馴染なんだったらさ!
『カーカカー、カカカ(妙な気配が混ざっておる。もしや妖精どもの手先か?』
河童の隠れ里に向かう道中のことだ。
あたし達の操る鴉天狗とは別の、この世界で生き残ってきたであろう、本物の鴉天狗が舞い降りてはそう呟いて、こちらを警戒したのは。
『カパカパーカーカパ(この人はアッシを助けてくれた人たちでさぁ、あまり変なことを言わないでくださいよ。それに、見てください、あなたの同胞ですよ?)』
『カカーカー(ワシの勘がそう囁いておるのよ。よそ者を決して郷に入れてはならぬと。それで過去に何が起きたか忘れたか?)』
『カパー(ですが、妖精じゃなくこちらに与してくれると約束してくれました)』
『カカカカ(うつけが、盗人は皆そういうのだ。郷に入れた後、気が変わることがよくあった。それで九尾様が死んだ。キュウ坊もそれを忘れたわけではあるまい?)』
『カパー(疑い深いなぁ。少しお待ちください、流れの人。この分からず屋を黙らせますので)』
なぜか口喧嘩が始まってしまう。
昼間は力が発揮できないんじゃなかったのかな?
キュウ坊と呼ばれたカッパさんは、懐からきゅうりを取り出すと、それを齧り肉体を変化させた。
『キュキュキュキュキュキュキュ!!(みなぎってきたぁ!)』
あれ、このカッパさん? もしかしていじめられるほど弱くない?
『カカーカ(キュウ坊、貴様……恐れを得たか? この地で、我らを恐れる存在が現れた。それを伝えにきたか?)』
恐れ? 妖怪って恐れられないと力発揮できないの?
「我も詳しくは知らないが、妖怪は人々の恐れから生まれ出でたもの。なので人の近くで活動しておったと聞くぞ。しかしながら妖怪を打ち倒す存在も出てきて、やがて隠れ住むようになったのだそうだ。ババ様はそうおっしゃられていた」
「あ、そうなんだ。でもあたし達? カッパさんに恐れるようなことなんてしたかなぁ?」
「どちらにせよ、その素質があると認められたのでは?妖怪とは伝承。名声によって名を受け継ぐ。この地においては名前すら朧げだが、過去に妖怪と繋がりがある我や、我から知識を得て、そんな存在がいるんだと伝承されて彼の方は力の一部を取り戻されたのだろう」
「あ、そっか。ここじゃ妖精にも劣る存在で、自分のことすらよくわからなくなった。だから弱い存在になっていたの?」
「うむ、皆も妖怪の存在など知らぬだろう? 妖怪はな、名を忘れられると滅ぶのよ。己の存在意義を忘れての。今はその肉体的特徴だけ残っておる。いつ滅んでもおかしくはない。狩を忘れた獣は牙も弱くなるという詩の」
シャドウのよくわかんない例えにわかったフリをしながら、頷いていると。
「動くぞ!」
初理ちゃんの指摘に場が急変したことに気づく。
「キュエエエエエエ!」
カッパさんの手元に水の塊が現れる。
それが巨大になりながら、鴉天狗の全身を覆う。
が、それを振り払うように羽ばたき、水球の中から脱出してしまった。
「ここまで力を落とした状態で、これほどの空術。我の先祖はとても勇ましかったらしい。これはババ様が惚れるのも無理はなかろうて」
ねぇそれ、フリ? フリなの?
さっき恐れを得た妖怪はパワーアップするって言ってなかったっけ?
「カカカカカカカ!(愉快、愉快ぞ! 全盛期の頃のような力がみなぎってきよるわ。キュウ坊、貴様が得たのはこれのことか?)」
ほらー、やっぱりパワーアプしてるんじゃん!
乾いた笑いを浮かべるシャドウの肩をガクガク揺らしながら、あたしはどうやってこの戦いを止めるべきかと悩む。
「カパカパー?(その力を得てもなお、この方々を信用できぬと?)」
「カカカ(そうよのう、ここまで我らを理解し、恐れてくれる存在。今まで会ったこともない。相わかった、この鉾は収めるとしよう。ようこそ、恐れを知るものよ。今は歓迎しよう。しかしゆめゆめ忘れるな、我らを裏切ればどうなるか。恐れは汝らに帰ることを)」
今すごく言語を圧縮してなかった?
シャドウの翻訳がなかったら聞き逃すレベルだったよ。
何はともあれ誤解は解けた。
カッパさんもありがとうね。
ちょっとマッチョな姿は、可愛いとは程遠いけど。
隠れ里というだけあって、場所は随分と山の中。
なんなら、この世とは別の世界にその場所はあった。
「これは
「かくりよ、って何?」
「簡単に言ってしまえば死後の世界みたいなものであるな。因果律の及ばぬ、停滞した世界だ。ここでは死への境界線が朧げになり、死ぬこともない。故にここでひっそりと暮らしておるのだ。恐れの体現者である妖怪がな」
「それってつまり?」
「外に出れば最強のダンジョンモンスターが家を持って暮らしていると例えればいいか?」
「なんか想像つかなーい」
「最強、といえども相性の都合上で天敵が存在するものだ。それから身を隠す上では最適の場所であろうな」
「つまり負けるのが怖くてビビって逃げた負け犬の家ってことだろ? そんなありがたがるもんでもねーだろ、くだらねぇ」
初理ちゃんがあんまりなことを言う。
「どの口がそんな言葉をほざくのやら。負け犬はあなたじゃない?」
「うううううるせーやい!」
紗江ちゃんってすぐ初理ちゃんと喧嘩するよねー?
仲悪いのかな?
むしろ良すぎて衝突しちゃってる感じ?
「よくわかんないけど、その天敵の目を欺けるくらいすごい場所ってことなんでしょ? それを作れる人ってすごい人だよ。尊敬しちゃうなー」
「常に停滞してる空間を作れるのはライトニング殿も同様ではあるがな?」
「あれ? じゃああたしって結構すごいことしてるの?」
自分じゃ実感わかないけど、なんだかすごいことらしい。
「しかも移動が可能ときている。すごいかすごくないかでいえば、喉から手が出るほど欲しい。それくらいであるぞ?」
と、言うことであたしの空間に妖怪さんを居候させてみました。
なんでそうなったか?
だってここで見過ごしたらシャドウに心残りができちゃうからね。
だったらあたしが引き受けましょうってことになった。
妖怪は肉体を持たないから、実質スペースは減らないから大家としては扱いやすい存在でもあった…
問題は妖怪を奪われた妖精達がどう出てくるかなんだけど……まぁその時はその時でどうにかするとして。
問題はこの鴉天狗さんだよね。
カッパさんと戦ってた鴉天狗が、新しい隠れ家の主人であるあたしに、力を貸したいと願い出たのがことの始まり。
忌々しい妖精と敵対しているだけにとどまらず、さらには妖怪を匿う救世主。
だから力を貸したいと言われてあたしとシャドウは契約を交わした。
お兄との契約と違い、あたしが主人の契約。
相手が主人だったら、お兄との契約が上だからこの契約は破棄されちゃうんだけど、あたしが主人なので問題ないようだ。
しかし問題はまた別にあって……
「それで、どうしてこうなっちゃうわけー?」
「ワハハ、似合っておるぞライトニング殿」
「これでオレ達お揃いだなぁ?」
「アタシたちだけ恥ずかしいかっっこをしなくて済むってわけね」
現役魔法少女から賛同されるほど、あたしとシャドウの格好は魔法少女のそれだった。
カラフルな髪とは程遠く、真っ黒な濡れ髪に山伏衣装のようなドレス。
魔法のステッキに至っては扇子のような葉っぱがついている。
「なんか思ってたのとちがーう!」
「これはこれでイカすと思うのでござるがな?」
「なんか、こう! もっとオシャレな感じを想像してたんだけど」
「正直、古臭いよな」
「言わないでよ初理ちゃん〜、アタシもそうじゃないかって思ってるんだから〜」
「でも、まぁ似合ってるぜ? お前にこっちの派手派手衣装は早い。こう言うのは、オレらですら恥ずいからな。そっちで慣れてから着られるようになったほうがいいんじゃねぇの?」
「うう、慰められてるんだか、貶されてるんだかわからないよぅ」
本人は一応慰めてるつもりみたいだけど、遠回しすぎて素直に受け取れなかったよ。
『それとは別に、同胞を救ってくれた暁には、呪符によるサポートもお約束しよう』
すっかり威厳を無くした鴉天狗が、マスコットとなったあたしの周りに浮遊する。
なんかこういうのを見ると、あたしも日曜朝の番組の主役になった気がするよね。
『アッシもお手伝いするでさぁ』
カッパさんもありがとうね。とりあえず生活水はこれでなんとかなったし、あとは野菜の確保かなぁ?
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