強欲の章-Ⅴ【嫉妬】

第81話 契約者特典

「ん、んん……あれ、ボク?」


「お目覚めですか真琴さん。どこか気分のすぐれない場所はおありでしょうか?」


「はぅわ!」


 起きたみたいだから、意識確認したら飛び上がって後退りされた。

 解せぬ。人の顔見て驚くって酷くないか?


「元気なようでよかったです。途中笑わせてくるから契約失敗したかと思って焦りましたよ」


『海斗、あなた顔は良いのだから目覚めの直後に目の前にあったら誰でもびっくりするものよ。自覚なさい』


 早速寧々のお小言が念話で送られてくる。

 俺の顔がいい? そんなの急に言われたって困る。

 何しろ今までこの顔でいい思いをしたことなんて一度もないのだ。

 イケメンだなんて自覚もないし。


『そもそも彼女は片思いの相手がいるだろう? 俺の顔なんかでドキドキするものか?』


『理想はあくまで理想よ。あんたに優しくされたらころっと落ちるかもしれないって言ってるの』


 日に日に寧々の俺に対する毒吐きレベルが上がってきてる気がするのは気のせいか?


「それより明海は?」


「明海さんでしたらお花を摘みに行かれましたよ」


 トイレか。別に兄妹なんだし、そこはトイレで良くない?

 お嬢様だからか、凛華はたまに素っ頓狂なセリフを言う時がある。

 そして何故か俺の寝室から出てくる明海。

 一仕事した! みたいな顔で額を手の甲で拭う素振り。


「勝手に部屋入るなよ」


「えっちな本ないかなって」


 オイ!


「成果は?」


 寧々も何聞き返してるんだよ。久遠も興味津々だ。

 なんだ? 女子って結構そう言う本に興味あったりする者なのか?

 俺だけ枯れてる? まさかな。


「全然ないの。お兄、女子に興味ないの?」


「アホ。俺は今とても忙しいの。それに、そんな本買わなくたって凛華で十分だろ?」


「だ、そうです凛華お姉ちゃん?」


「あ、あまり人前でそのようなこと言わないでください!」


「顔赤くしちゃった!」


「そうやってあんまり虐めてやるなよ。凛華、うちの愚妹が悪かったな」


「愚妹とは何かーー!」


 俺の裁定に文句があるのか、妹が暴れ出す。

 病み上がりなのに元気いっぱいなことで。


「そんなに動き回ってすぐにバテても知らないぞー?」


「うーん、そのことなんだけど。こっちきた時は結構歩くだけでもゼエゼエ言ってたんだけどね? お兄と契約を交わしてから、全然疲れなくなっちゃったんだよね」


 床から上半身のバネだけで立ち上がり、そのまま側転をしながら部屋中を移動する。

 数ヶ月前まで五年間ベッドで寝たきりだった妹が、ほとんど体力のない妹が……


「あの、その事ですが」


 そこで凛華がおずおずと挙手をする。


「どうした?」


「私、元旦に海斗さんと契約したじゃないですか?」


「ああ、したな」


「実はその日から制御しきれない能力の制御が容易になったんです。今までは何処か加減の聞かない力、ダンジョンチルドレンの皆さんには心当たりがあると思います。私の場合は闘気開放。このスキルは一度使うと時間制限が来るまで意識を失い、リミッターを外して威力を上昇させる系統なのですが……」


「それを意識を失わずに操れた?」


 寧々の質問に凛華はこくりと頷いた。


「それってウチのリミッター解除でもできるの?」


 今までその能力のおかげで周囲から厄介者扱いされてきた久遠が尋ねる。しかし凛華は首を横に振る。


「それはわかりません。ですが、海斗さんの持つ能力の中に意識を定めて、力を制御する能力があるのなら……」


「ああ、そういえば契約者には俺のパッシブスキルが反映されるって話だな。取り敢えず秘匿するもんでもないし、情報の開示をしておくか。俺のスキルは生徒手帳に乗らないタイプだから、今メモを書くな? 少し待ってくれ」


 そう言って、記したメモを見せると全員の表情が凍りついた。


「ちょっと海斗、これ本当なの?」


「嘘ついてどうすんだよ」


「通りで、ムックンに攻撃が通じないわけよ」


「なになに? これって凄いの?」


 一人だけ話についていけない明海が、俺のパッシブスキル群を見てクエスチョンマークを並べた。


「凄い、と言うより異常だよ。ボクはギルドマスターをしているからいろんな人のステータスを見る機会があるけどね、こんなに高位スキルを複数所持してる人は見た事ないよ? もし持ってたって二つ。多くたって三つだ。それでもDやEが殆ど。六王君みたいにAを複数はまず見ないね。しかも状態異常すら無効と来てる。つまり意識を失う系列は状態異常のデバフがかかっていたんじゃないのかな?」


 答えを出してくれたのが、自称この中での最年長。貝塚さん。


「つまり?」


「久遠の制御不能系スキルもこれからは重いのままってことよ。もう誰も暴走に巻き込まなくて済むようになるわ。でも、その力を扱うのは私達が一緒にいるときになさい。私達にならダメージが無効になるから練習相手にはいいでしょ? モンスターに使う時も同様よ。私達なら、きっと上手い使い方を提示してやれるわ」


「そだね。寧々の言葉は間違ってないよ」


「寧々お姉ちゃんって実はすごい人?」


 コソコソしながら耳打ちしてくる明海。

 そんな態度取るから警戒されるんだぞ?


『念話で聞きゃいいのに』


『そう言えばそだね。すっかり忘れてた』


『寧々は世話焼きしすぎて小言が多くなるのを除けばいい子だよ。ただし意識も高いから話が合う奴が少ないな』


『お兄は?』


『俺もしょっちゅう小言言われるぞ? 全部ありがたく受け取ってるけどさ。彼女もいい人ができたらいいのにって思うんだが』


『ふぅん。でも世話を焼くのは見込みがある相手だからこそじゃないの? 私に対してはお兄の妹ってだけで特に煩くは言ってこないよ?』


『そうかよ。正直彼女の気持ちも分かってはいるんだが、女子二人の思いに答える訳にもいかないだろ?』


『お兄も悩んでるんだ?』


『おかげさまで悩みの多い人生を送らせてもらってるよ』


『なんか安心した』


『お前だってこれから学園行ってそう言う青春送るんだぞ?』


『送れるかな?』


『そいつはお前次第だ。兄ちゃんは応援しかできん』


 妹との念話を打ち切ると、でへへ時持つ悪い笑みを漏らす明海。

 どんな妄想をしてるか知らないが、俺と凛華は清いお付き合いだからな?



「と、言うわけで能力の検証にいきましょうか」


「こんな時間に?」


「近くにちょうどいいスポットあるから」


「あの場所を丁度いいって言えるのは貴方だけよ?」


「どこどこー?」


「三重のAランクダンジョン。その深層と、うちの押し入れが繋がってるんだ」


「アニメみたいな仕様だね?」


「人が来た時に、シャスラを緊急脱出させる時用の非常口として作ってたんだがもう使わないからな。今なら全員俺と同じパッシブ持ってるし、割と大丈夫な気がする」


「あたし、ダンジョン初めて!」


「流石に才能も開花させてない子を連れてかないわよね?」


「明海次第だ。お前はどうしたい? ついてくるなら兄ちゃんが守るぞ?」


「行きたい!」


 そんなわけで、俺たちはピクニック感覚でAランクダンジョンに赴いた。

 

「ここがダンジョン! あっついね!」


 明海が体全体で熱さを表している。元気でいいことだ。


「分かっていたが、稚内ダンジョンとは大きく異なるねー」


「こっちのモンスター分布図はドラゴン系統が殆どだ」


「北海道では何が出たのー?」


「ゾンビ?」


「幽霊もいたよー」


 両手を肩の位置でぷらぷらさせながら貝塚さんが久遠を脅す。

 久遠はお化けがダメなようで必要以上に怖がって見せた。


「久遠ちゃん、だらしないね」


「むぅ、明海は見た事ないから平気でいられるんだよ!」


 きゃっきゃと駆けていく二人。

 お前ら、ここがAランクダンジョンである事を忘れてないか?

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