第70話 【怠惰】の提案
凛華達と交流したのち、ダンジョンを踏破して引き返す。
『王よ、少し話がある』
そんな時、シャスラから久しぶりの念話を聞いた。
『どうした? お兄さんについて何か不備でもあったか?』
『いいや、兄上は大層この待遇を気に入っておるよ。王とは基本孤独じゃ。話というのは我の事よ。我のテイムを一度解除して欲しいのじゃ』
『また俺たちに襲いかかってくるつもりか?』
シャスラの突然の提案を俺は訝しむ。
ここ最近の付き合いで仲良くなれたと思ったが、こいつにとって人間は所詮下等種族だって事なのか?
『違う、兄上の手伝いをしたいのじゃ。それに妾は既に汝の契約者。妾が汝を傷つけることはできぬ。そして兄上は汝にすっかり気を許しておる。このもてなしをすっかり気に入っておると言ったであろう?』
『分かった。何をするかだけ話してくれ。こちらでも出来る限りのことはする。お前もそれでいいか? 俺は序列の順位が一番低い。下手な真似はしたくないんだ』
『分かっておる。兄上はどうも序列六位の使いっ走りとしてこの度この地にやってきたそうじゃ』
『使いパシリ?』
『左様。序列上位者にとって下位世界は取るに足らない土地。しかし欲深い物は全ての土地を余すことなく欲する。序列六位は強欲と色欲の二つの権能を持つようでの。序列上位者ほど複数の権能を持つのじゃ。兄上は、配下を奪われ、その座すら奪われそうになっておる。妾はたった一人の兄を救いたい。だから、一時的に王の元を離れる事を許して欲しいのじゃ』
何てこった。
序列八位ですら赤子の手を捻るほどの上位者がこの世界を狙ってる?
ただでさえ凛華の親父さんが待ち受けてるっていうのに。さらに相手にしなきゃいけない敵が待ち構えてるのか。
一人倒して終わりじゃない、延々に挑戦する地獄。
それが序列戦か。親父さんがダンジョンチルドレン計画をゴリ押しするのもわかる気がした。
王として、この星を守る為の犠牲が凛華や久遠達なのだ。
だからってそのやり方に賛同は出来ないが。
シャスラとの念話を一度切り、凛華へと接続する。
今の俺には情報があまりにも足りない。
序列への意気込みも、凛華の親父さんが何をやろうとしてるかも。
全く知らないのだ。
それじゃ王としてあまりにも稚拙。
知らないままで何もかも奪われるのはもう御免だ。
『凛華』
『どうされました、海斗さん?』
『親父さんはダンジョンブレイクに備えていると言ったな? それが来年に迫っていると?』
『はい、詳しくは知りませんが、普段以上に焦っている様子でした』
凛華がシャスラを抱っこしながら頭を撫であげる。
すっかり赤ちゃんモードのシャスラを気に入ったようだ。
『実はシャスラのお兄さんよりも上位者がこの世界に興味深々らしい』
『待ってください。相手は序列八位だと聞きます。それ以上? 父がどのランクの襲来を想定しているかは分かりませんが、予測よりも上位の存在が来るのですか?』
『二つの権能を持つ、序列六位がこの土地を狙っている。親父さんはそれを見越して戦力増強をしているのだろうか? それ如何によっては俺たちは手を組んで事に当たった方がいいかもしれないぞ?』
『父が素直に私達話に耳を向けてくれるでしょうか?』
『聞いてくれなくても、どのみち話をつける必要はある。凛華とのお付き合いを許してもらわないといけないし』
『それは……一年待ってからではダメですか?』
凛華はびくりと体を振るわせ、顔を青くした。
まるで話すだけ無駄。話を早めるだけ破局が近づく事を予感しているのだろう。
『今の俺では会話にもならないと?』
『実績がありませんので、門前払いされるでしょうね。父様は力がある人以外には時間を使いたがりません』
『ワーカーでは相手にしないと?』
『寧々さんのお父様がどのような処罰をされたかお忘れですか?』
確か仕事を干されてダンジョン協会、探索者協会に根回しされたんだっけ?
つまりワーカーなんて親父さんにとっては換えの利く代用品でしかないと?
『俺が親父さんと話をつけるには何をしたら良いだろうか?』
『父様は強い探索者が好きです。力を示せば自ずと興味を抱いてくれますわ』
『ならば先にそちらを片付けてしまうか。実は俺もこのままじゃダメな気がしていたんだ』
『私達も勿論お手伝いしますよ』
『いや、凛華や勝也さん達の力を借りて成り上がっても、親父さんは認めてくれないと思う。だから俺は一からギルドを作るよ』
『ワーカーをお辞めになると?』
『いいや、並行してやる。俺の権能が活かせる職業はこれしかない。ワーカーはあくまでも探索者になれなかった者の道標であるべきだと思うんだ』
『では、何を売りにするおつもりです?』
『ダンジョンエクスプローラーの上位プレイヤーが教える基礎ノウハウ塾でも開こうかなって。もしそれが成功したら凛華や寧々、久遠達には元教え子としてお手伝いを頼むかもしれないがいいか?」
『それでしたら喜んで。普段は学園で基礎訓練をしていれば良いのですよね?』
『ああ。シャスラもお兄さんのところで陣営立て直しに協力したいらしいし一時離脱だ。お母さんごっこは終わってしまうが、兄を慕う妹の頼みとあっては俺も無碍にはできなくてな』
『明海さんと重ねてしまいましたか?』
『少しだけ、な』
小憎たらしいところとか甘えん坊なところは明海とそっくりだ。
だからかついつい甘やかしてしまうんだな。
もし妹をうちで預かってたならまずいことになっていたかもしれん。
『だから明海の事は頼む』
『はい、お任せください』
凛華と話を終え、寧々や久遠にも話を通しておく。
そしてシャスラと再び念話を繋ぐ。
『シャスラ、お前の一時離脱を許可する。向こうの世界に行っても連絡は寄越してくれるか?』
『感謝する、王よ。本来なら一度軍門に降ったら最後。王の側を離れるなどあってはならぬ事なのじゃが……』
『俺にも妹がいる。お前にそっくりな向こうみずな妹がな。もし俺がピンチになったら妹も同じことをやりそうでお前にばかり強く言えない。だから、行ってこい。行って兄ちゃんを助けてやれ。そしてピンチになったらいつでも助けを呼べ。できることに限り力を貸すぞ』
『助かる、王よ』
シャスラは寝たフリをすると赤ちゃんベッドにお兄さんと一緒に寝かされ、念話で何やら話し合っていた。
しばらくすると元の大きさに戻り、二人して頭を下げた。
服は自分の血でなんとかしたみたいだ。
王族の正装と言っていたが、まさか自分の血で作っていたとはな。
「此度の助力、感謝する」
「面をお上げください、俺は出来る限りの助力をしただけです」
「それでも、一度配下に置いた者を自由にさせるなどすぐに出せる判断ではない。我は貴様を少しばかり低く見すぎていたようだ。改めて契ろう、我の血を飲め人間よ。我、アーケイド・シャリオの血である。グイッと飲み干して見せよ」
差し出されたのは銀の器。
そこになみなみと満たされる赤黒い液体。
それを一気に飲み干すと、頭の中に一気に情報が駆け巡った。
<種族データが更新されました>
<ヒュームからハイヒュームになりました>
<ハイヒューム:ソウルグレード2>
同グレードからの精神侵食攻撃に耐性。
<アーケイド:ソウルグレード3と同盟を組みました>
同盟継続中、グレード3までの精神侵食攻撃に耐性。
<アーケイドの固有スキル:眷属召喚を継承しました>
討伐したモンスターを影の中に隠すことが可能。
テイムと違い、主人が肉体に取り込んだモンスターが対象。
眷属は主人の血によって生まれる。
使い過ぎると貧血を起こす。
……あれ? アーケイド強すぎない?
流石ソウルグレード3。ヒュームじゃ相手にならないわけである。
でも、これでも勝てない相手が上にわんさかいるって事実がもうね、人類に逃げ場なしって感じで詰んでるのよ。
そして一度討伐したモンスター、というか食ったモンスターを召喚できるのが俺向きすぎて嬉しくなるな。
権能のお陰で血は有り余ってる。これはダンジョンテイマー以外の攻撃手段になり得るか?
「我の血はどうであったか?」
「凄まじい情報量に眩暈がしそうです。しかし権能のおかげかとても美味しく頂けました。血に香りや味を感じる日が来るなんて……」
「そうであろう? 妹が気に入った相手だ。我の血は沁みたか。そしてその血、好きに活かすが良い」
「さらばだ、人類よ!」
そう言ってシャスラとそのお兄さんは姿を蝙蝠に変えて、ダンジョンの奥深くへと羽ばたいていった。
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名称:六王海斗
序列:十位
種族:ハイヒューム/ソウルグレード2
権能:暴食
同盟:アーケイド・シャリオ【序列八位】
出身:地球【ワールドランクF】
称号:六王、悪食
才能:ダンジョンテイマー/SSR
テイムダンジョン:A、C、D
テイムモンスター:全種類
契約者:アーケイド・シャスラ、御堂凛華
仮契約:北谷久遠、佐咲寧々
<アタックスキル>
『吸血』『暴食』
<サポートスキル>
『種族強化』『種族枠強化』『モンスター合成』『モンスター上位合成』『使役枠強化』『契約』『仮契約』『寵愛』『眷属召喚』
<パッシブスキル>
『恐怖耐性A』『ダメージ無効A』『忍耐A』『魔法耐性A』『自然治癒A』『状態異常耐性*Ⅲ』『精神侵食耐性*Ⅲ』『未来予知A』『鋼の胃袋』『料理バフ付与』『★モンスター枠+9』『合成成功率+15%』『念話』
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