第66話 先輩探索者とダンジョン飯

 本日は神奈川にある相模ダンジョンへとやってきていた。

 地殻変動で自然に飲まれかけた都会は、殆どが人が住めなくなって廃墟と化しており、ショッピングモールには野生化した動物が住み着いていた。

 今日はロンギヌスの一員としての探索だ。

 一度俺をつれて探索したいと勝也さんから申し出てきたのだ。


 Dランクまでは競争率が高いが、Cランクにもなると供給ばかり多くて需要が有り余っているらしい。


「本当は幹二達を先につれてくる予定だったんだが」


「都合が合いませんでしたか?」


「いや、別件で雑用を頼んでいてな。三雄だけ連れてきても角が立つ。うちのメンバーは基本的にコンビを組ませて運用してるからな。片方だけ優遇するとコンビをされ解消しかねん」


「なるほど」


「そういう意味じゃお前はソロだから扱いやすくていいんだ」


「そもそも俺、探索者じゃないですしね?」


「そうだな。他の奴らはそう思ってるが、俺たちはしっかりと把握してるよ。どうしていまだに俺らのギルドに居座ってるのかって」


「居心地がいいからという理由じゃダメですか?」


「そう言ってもらえたんなら、俺たちもありがたいが、裏を考えちまうよな? 勝也」


「そいつの言うとおりだ、と言いたいところが巻き込んだのは俺たちだ。そいつをほじくり返すのは趣味が悪いぞ?」


「そうやってすぐ俺一人だけ悪者扱いする」


 この二人は出会った当時から関係性が変わらないな。

 本当に学生のまま今まで歳を重ねたような関係性だった。


「これはワーカーとしての確認ですが、どこまで進む予定ですか?」


「ストレートで最下層が理想だな」


「それ、俺が多少危険な目に遭う前提での進行ですか?」


「お前ならついて来れるだろ? 芳佳さん、絶賛してたぜ」


「あの鬼神が褒めるって相当だぞ。そして足場が最悪の三重のAランクダンジョンをストレートだ。ここはCだし余裕だろ?」


 余裕と言えば余裕だが、ペース配分は気にして欲しい物である。


「ドロップ品の回収は任せて欲しいですが、飯のタイミングはどうしましょう。バフありとなし、味はどっちもおすすめですが」


「Cならなしでもいいだろ」


「そうだな、流石にモンスターの方が可哀想だ」


 一体、これからどんな暴力が飛び交うのか恐ろしいやら楽しみやら。

 麒麟字さんは結局俺に本気の戦闘は見せてくれなかったものなぁ。


 ◇


 相模ダンジョンは見通しのいい草原フィールドだった。

 天井が高く、飛行系のモンスターの領域といった感じ。

 勝也さんの才能は秋庭くんの才能『シャドウナイト』の上位互換と聞く。

 つまり日陰であればあるほど強いらしいが……


「上空に対抗手段があるんですか?」


「ある。影を操る才能といえど、レベルが上がれば身体能力も向上する。そして俺たちの獲物は槍だ。これらは本来投擲して使うんだぜ?」


 恭弥さんがリュックから陽除けを取り出し、その場で影に潜る。

 あれ? 恭弥さんも陰に入れるタイプの才能使いだった?

 続いて勝也さんも陰に潜り、その場にワーカーの俺一人だけが残される。これ俺囮にされてね?

 囮にされたところで特に問題はないが、前もって一言欲しいものだ。


 上空では鷹のような大型鳥類が複数、日光を遮るように旋回しており、確実に俺を獲物として認識してる感じ。

 六王の称号を持っていても、俺の体は獲物としてちょうどいいのか、はたまた実力差もわからぬバカなのか、それとも別の要因か。

 鷹のようなモンスターはこちらに威圧をかけながら上空にとどまっていた。


 そして日除けで作った影と鷹型モンスターの影が重なったその時、上空でモンスターからの悲鳴が上がる。


「ギピエエエエエエ!!?」


 何が起きた?

 目視では見えにくいのですかさず望遠鏡で確認。


 よく見れば姿勢を崩したモンスターの腹から人間の手と見慣れた槍が生えていた。あれって確か恭弥さんの?


 それが勢いよく振りかぶられ、もう一刺し!

 ついには姿勢制御を崩して墜落。

 ある程度の距離まで落ちたら影の中からこれまた見たことある形の黒い槍が同時に投擲された。

 こっちは勝也さんだな?


 強い、強いと噂には聞いていたが、これは


 上空で旋回していたモンスターは次々に墜落させられ、最終的には全て討伐させられていた。


「っしゃぁあ! 完勝!」


「コンビでやるのは久しぶりだが、体が覚えてる物だな」


 影の中から出てきて、恭弥さんが背伸びをするように勝利を喜ぶ。

 勝也さんも久しぶりと言いながらえげつない勝ち方。

 これでまだ本調子じゃないと言うのだから、全盛期はどんなだったのか聞くのが怖いな。


 ただ、モンスター迎撃力は高いが、それだけとも言える。

 モンスターのドロップ品にも興味を示さず、先に先に行くスタイルは、良くも悪くも学園の卒業生だなと感じた。

 実際には稼いだTPが成績に関わる為、この殲滅力はモンスターを討伐する前提でのモノ。

 俺は果たして二人をこのまま放置していいものか考えあぐねた。


 と、言うのもこれから教育していく上で、今の凛華達のスタイルと別ベクトルすぎるのだ。


 俺たちは特にスキルに頼らずに討伐するスタイルを尊重する。

 威力を上げるために寿命を消費する才能、スキル。


 ダンジョンチルドレンにかけられた呪いの対抗策が、偶然俺のスタイルと噛み合った為に実行したが、これが上手いこと彼女達の中で回ってくれている。


 雑魚でスキルを消費しすぎず、ボスまで温存する。そんなスタイルだ。


 けどこの二人はスキルの出し惜しみを一切しない。

 他を圧倒させてひれ伏せさせる。そんなスタイルに固執しているようにも感じた。

 

「いやあ、お見事です。実際すごいっちゃすごいですが、スキルの回数に余裕はありますか? あまり序盤から飛ばし過ぎても問題です」


「俺のスキル:影移動は息を止めてる間だけ有効だが、陰に潜るだけならパッシブなので制限はないんだぜ? それでも上位モンスターには感知されるが、Cランク相手ならこの通りって感じだな」


 何それずるい!

 息継ぎだけが懸念案件だが、陰に潜れるのはパッシブとか完全に隠密に特化してるじゃん。俺も欲しいぞ!


「俺のスキルはきちんと回数制だぞ?」


 勝也さんは、こいつの才能がおかしいんだ。と恭弥さんの脇腹を小突いた。俺はそれが普通だよなとホッとする。


「余裕はあります?」


「あと100回くらいだな」


 回数制限ありと安心させておいて、上限がぶっ壊れてる!

 二人して獲得した才能がバグってないか?

 くっそー、絶対に羨ましくなんてないんだからな!


「そんで、パッシブで陰に潜れる俺がドロップ品もこの通りってわけよ」


 恭弥さんがかき集めたドロップ品を、影からポコポコと生み出す。

 これ、俺ついてきた意味なくね?


 他のワーカーだったら怪訝な表情を浮かべるやつだぞ?

 なんだこの完璧すぎるコンビは!


「ちょ、俺の仕事までとらないでくださいよ」


「悪い悪い、つい癖でさ。ウチは貧乏だったから何でもかんでも回収する癖がでちまうんだわ。そんかわし、稼いだ金は実家に貢いでるけどな」


 それは知らなかった。人を見た目で判断してたのは俺の方だったか。俺も金がなくて何でもかんでも集めて食えるか検証したもんだが、そうか、この人も……


「別にいいですけど、趣旨を忘れないでくださいよ? 今日はCランクダンジョンのモンスターの素材を使った飯の検証だと言うことを」


 側から討伐されまくったら検証すらできないので勘弁してくれと言ったら、やる気のなさそうな返事が返ってきた。

 このメンツで大丈夫かな?

 ちょっとだけ心配だ。

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