第486話 この世界の成り立ち
「まずこの世界の始まりは海だった。
地上における最初の子どもとして、母さまは海を作った。そしてそこから命が生まれ、様々な生き物として別れていったのだ。」
ガレシア兄さまが言う。
「海を泳ぐもの、空を飛ぶもの、地上で生きるもの、という風にね。そして地上にはガスや瘴気が現れたの。」
ミボルフィア姉さまが補足を加えた。
「その環境に適して生きられるよう、体を作り変えていったのが、魔物だったり魔族になるね。もとは同じ存在なんだよ。」
マルグス兄さまが説明する。
「獣人はもとは動物や魔物であったことが多い。種族スキルと個人のスキルの両方があるのが、その名残であるな。」
レスタト兄さまが人差し指を立てた。
「わたしたちと同じ姿の生き物が生まれたのが、楽しくなっちゃったのよねえ。だから個別にスキルを与えることにしたのよ。」
エリシア姉さまが楽しげに言った。
「努力次第で変われるように、いつか私たちの世界にも、来られるように、ということですね。人も、魔族も、獣人や、竜人、魚人たちも、供物にならずとも、神の国に来ることの出来る可能性を持っているのです。」
スローン兄さまが説明する。
「だけど人間はしなかったのだ、努力をな。
本当なら、スタートが同じなんだから、魔族と対等に戦える力がついてないと、おかしいのだ。地上を瘴気一色に染められたら困るから、毎回勇者と聖女を送ったが……。」
ディダ姉さまが眉間にシワを寄せる。
「縄張り争いは、どんな生き物も行っていることですからね。人間だけが神の力を借りないと、まともに縄張り争いが出来ない。神に願えばいいと思ってしまっているんです。」
とキリカが言った。
「だから聖女や勇者が現れるようにする手助けは、今回で最後にするつもりみたいなんだよ、兄さまたちは……。」
「えっ!?えっ!?神さまはもう、助けてくれないのにゃ!?」
僕の言葉にエルシィさんが飛び上がる。
「助けなくても戦える力を本来持っているのに、神に頼ってばかりだから、人間の住む世界を洪水で流して、瘴気を払ってしまおうかって案も出たみたいなんだ……。」
「そ、そんな、地上がなくなっちゃうの!?
洪水で流されたら、誰も生きられないよ!
人間はどうなっちゃうの!?」
ノーベルさんは混乱していた。
「また瘴気のないところで暮らしている生き物の中から、似たような生き物が出て来るだろう。今の人間と同じか、それとも異なるのかはわからないがな。」
こともなげにディダ姉さまが言う。
「私たちの意見ではないですが、賛同する部分も多いです。願うばかりでなく、魔族のように一丸となって戦うこと。これが出来るのであれば、地上は流しませんよ。
それでも助けるのはこれで最後ですが。」
スローン兄さまが穏やかに言った。
みんなそれを聞いて、シーンとしてしまった。地上がなくなるかも知れなくて、それが自分たちの肩に乗っかってると言われたようなものだものね。
でも実際には、みんなだけが頑張るんじゃ駄目なんだ。すべての国々が手を取り合ってひとつにならないと。人間たちで争って、勇者を奪い合ってる場合じゃないってことだ。
もちろんすべてっていうのは難しいだろうけど、大部分の人間が同じ方向を向かない限りは、一丸となって向かってくる魔族に、人間だけで太刀打ちするのは無理な話だよね。
「アレックスにスキルを授けるのを、ギリギリまで悩んでいたのよねえ。
地上のことはアレックスに丸投げという形になってしまうから……。」
ミボルフィア姉さまが頬に手を当てる。
「え?スキルって、成人の時に与えられるものじゃないんですか?だって教会で祝福が与えられましたって……。」
ノーベルさんが目を丸くする。
「成人年齢は国ごとに異なるであろう?人間や獣人の習慣に合わせて付与するような、面倒な真似はせぬよ。それに生まれる前に魂に触れねば、個別には送り込めぬのでな。」
とレスタト兄さまが言った。
「た……確かに、スウォン皇国は12歳で成人にゃりけど、人間の国は15歳が多いし、16歳や18歳の国もあるにゃりねえ……。」
とエルシィさんが納得する。
「あくまでも教会が寄付を求める為に、そういうことにしてるってだけですね。
鑑定すればいつでも、どんなスキルが付与されているかについて、わかりますよ。」
とキリカが言った。
「魔族も人間も獣人たちも、生まれた時点で祝福としてスキルを授けているけど、アレックスには生まれた時に付与しなかったの。」
ミボルフィア姉さまが紅茶を飲みつつ、そう言った。
「アレックスは半分神だから、後からでも付与可能だったけれどね。
普通は触れられないと無理なんだよ。」
とマルグス兄さまが言う。
「争いを好まないこと。
多くを望まないこと。
虐げられたとしても人を恨まないこと。
──だが、いざという時に、戦う意思を持つことが出来る人間。
使徒にする人間には条件があったのだ。
そしてそれは結局、我々の弟がもっとも相応しい人間だったということだ。」
ガレシア兄さまが笑ってそう言った。
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