第463話 夫婦の寝室は覗かないでください

「その為にあなたに力を授けたのだもの。私たちは作ってしまった世界にたくさんの干渉は出来ない。だからあなたを産んだのよ。この世界に干渉しうる力を持たせる為に。」


「創生の海……ですね?」

「ええ。この世界に新たなことわりを生み出す力。それをあなたに授けたのです。私たちではもう、変えることが出来ないから。」


「母さまが現人神として地上に降りても、そこまでの力は発揮出来なかったのだ。

 だからお前という存在に力をたくすことだけに、もてるすべての力を使ったのだ。」


 ディダ姉さまがそう言った。

「僕が世界樹に変わる、魔王を倒す方法を生み出せば、叔父さんもヒルデも死ななくていいということですね。」


「ただし簡単ではないわ。魔法を生み出したり、物を生み出すよりも、たくさんの力を必要とするから。人間としてのスタミナと、神としての神力をたくさん必要とするの。」


「……今のままでは無理ということですね。

 だから僕は、半分人間なのか……。」

「そういうことでもあるわね。」

 と母さまは笑った。


「──そうだわ、私もアレックスに聞きたいことがあったんだったわ。」

 母さまが両手の手のひらをパチンと鳴らして、少し上の方を見る。


「僕に聞きたいこと?なんでしょうか?」

「ここに英雄たちを育てる場所を作ったのでしょう?それをぜひ見てみたいのだけど。」


「確かに、それは気になるわねぇ。ここは人間界にあって人間界じゃあないから、私たちでも覗くことが出来ないんだもの。」

 とエリシア姉さまが言ってくる。


「え?そうなんですか?」

 人間界はすべて水鏡で覗けると言っていたけど、神界とつながってるからなのかな。


「そうですよ、オニイチャン。

 ここは地上にある神界ですから。私たちでも見ることは出来ませんね。その為にわざとそういう風に作ったのかと思ってました。」


「そういう風って?

 別にわざとじゃなくて、たまたまだよ?

 確かに母さまたちが自由に行き来出来るようにって考えて、作りはしたけど……。」


 キリカの言葉に僕は首をかしげる。

「だって、ここにはオニイチャンたち夫婦の寝室があるじゃないですか。覗かれたら困るからかなって思ったんですけど。」


 寝室……。

 ──寝室!?

「まさか、覗けたら覗くつもりだったの!?

 僕らの寝室を!?」


 そう言うと、兄弟たちは急にソッポを向いて、僕と目線を合わせないようにしだした。

 それを聞いたミーニャとヒルデも、一気に真っ赤になる。


「信じられません!兄弟の寝室を覗こうだなんて!軽蔑しますよ、兄さま、姉さま!」

「し……心配だったのだ、お前のことが。」

「そうよ、私たちと違うのだもの。」


「兄さまたちだって、そんなところを家族に見られたくはないでしょう!?」

「──いや?別に構わないが。」

「へ?」


「僕らは初めから、子をなすすべを身に着けてるからね〜。人間みたいなやり方で、子どもを生み出すわけじゃ、そもそもないし。」

 とマルグス兄さまが言う。


「え?どうやって生み出すんですか?」

「こうやって、お互いの神力を放出して、それが新たな神の元になんのさ。」

 マルグス兄さまが手のひらを突き出す。


「それに他の神が放出した力を合わせて、力を練り合わせることで、新たな神を生み出すのよ。母さまはお1人でおこなえるけど。」

 とミボルフィア姉さまが教えてくれる。


 なるほど、処女出産の女神、アジャリベさまは、そうやって神々を生み出したのか。

 確かに人間とはまったく違うね。

 それなら別に見られても問題ないかも。


「アレックスは我らと同じ、神のやり方で子をなせないからな、無事に子作り出来るか心配だったのだ。」

 レスタト兄さまが眉を下げる。


「アレックスの子は、母さまの時よりも少ない神力で生み出される可能性が高い。

 無事に神の力を引き継いで生まれることが出来なければ、バランスが崩れて、生きられない可能性だってあるからな。」


「え?僕の子どもって、……生まれてすぐに死んじゃう可能性があるんですか?」

 僕はサーッと青ざめた。


「神の力は人間の体に余るもの。母さまが現人神として降り立つ際にも、適合する肉体を探すのにかなり時間がかかったのよ……。」

 ミボルフィア姉さまがそう言う。


「神としての力が強ければ、母体が適合する肉体を生み出せるかどうかにかかっている。

 そうでなければ、人と神、双方の力がちょうど半々でなければ肉体が崩れるのだ。」

 ディダ姉さまが真面目な顔つきで言う。


「ぼ、僕って、かなり危ういバランスで生まれてたんですね……。」

 母さまがそこを調整したってことなのか。

 神の力を引き継ぐって難しいんだなあ。


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