第446話 ルーデンス王太子vsオフィーリア④
「ルーデンス殿下、ひとつ申し上げておきたことがありますの。あなたさまには出来なくて、わたくしには出来ることですわ。」
「なにを世迷い言を言っている。」
「わたくしの影はあなたさまの影と違って、
大祖母さまと、国王さま以外で唯一、わたくしの命令で攻撃可能なのですわ。」
オフィーリアは優雅に微笑んだ。
「そんなことがある筈がない!
あってよい筈がないだろう!
私の影は父上につけられたもの、父上の命令しか聞かぬのだ。そなたとて同じこと。」
王家の影は、付き従う王族の命令しかきかない。国王につけられた影に、いかな王太子と言えども、命令することは叶わない。
国王が護衛をせよと命令をくだした場合、その任務は護衛のみにとどまり、それ以上のことを行うことは出来ないのだ。
王家の影がルーデンスたちのしていることを目撃しても、それが国王の耳に届かないのは、護衛のみが任務であり、ルーデンスの行動を報告するよう指示されていないからだ。
もちろん王家の影の間でも上下関係がある為、上役にあたる影に報告はされている。だが余計な仕事はしない。してはならない。
それが王家の影たる存在なのだ。
それがわかっているからこそ、側に王家の影がいるにも関わらず、ルーデンスは好き勝手やることが出来る。王家の影がどう思おうが、彼らは個人の感情で動かないのだから。
「にも関わらず、大お祖母さまにつけられたそなたの影が、そなたの命令で攻撃可能であるなどと……!あろう筈がなかろう!」
「──試してご覧になられますか?」
オフィーリアは冷たい眼差しで、ルーデンスを見据えた。
「あなたたち、ルーデンス王太子を攻撃なさい。あれはわたくしに害をなすもの。
排除してしまって構いません。」
「なにを……!」
「かしこまりました、オフィーリアさま。」
「了解。排除する。」
コバルトの暗器がルーデンスに飛んだ。
ルーデンスの影が守ろうと姿を現し、暗器を弾いたところで、マリンがルーデンスの影に斬りかかり、短剣同士が激しくぶつかる。
その隙に、再びコバルトから暗器が飛ばされ、マリンの短剣を受け止めた状態のまま、ルーデンスの影が別の短剣を取り出して弾くも弾ききれず、一本が左脇腹に刺さった。
痛みに耐えつつも声も出さずにいたルーデンスの影は、マリンに押し負けて片膝を床につき、それでもなお短剣をルーデンスをかばうようにマリンに向ける。
「それは毒。デビルスネークを一瞬で殺す。
影、耐性がある。でも死ぬ。
手当、したほうがいい。」
コバルトがルーデンスの影に告げる。
「なっ、なっ……。」
本当に影が攻撃してきた。
それもオフィーリアの命令を聞いて。ありえないこと。ありえない筈のことだった。
ルーデンスは口をパクパクさせて、瞬きもせずにオフィーリアを見つめた。
「もういいわ、よくわかったことでしょうから。あなたたち、下がりなさい。」
「はっ。」
「下がる、了解。」
マリンとコバルトが、オフィーリアの背後にかしずくように下がった。
「もちろん大お祖母さまの命令が最優先ですけれど、わたくしの命令も聞くように、この子たちは言い含められているのですわ。」
オフィーリアが優雅な仕草で、ゆっくりとルーデンスに近付いて、ルーデンスは怯えたようにあとじさった。
「おわかりになったでしょう?わたくしはあなたにいつでも攻撃が出来るのですわ。
おわかりになられたら、もう2度とこのようなことはなさらないことですわね。」
オフィーリアがマリンに、隷属の腕輪を手渡し、マリンがそれを恭しく受け取った。どうにかして取り返したかったが、王家の影、それも2人を相手にそれは不可能だった。
「大お祖母さまは、あなたの本質を見抜いていらしたのかも知れませんね。わたくしの命令を聞いて、この子たちに攻撃可能としたのも、いつかこういう日がくる可能性を、あらかじめ予見されていたのでしょう。」
オフィーリアは肩にかかった髪を、サラリと右手で払った。
「あなたさまが、どんなことをしてでもご自分の我を通そうとなさる方だと言うのを。」
「まるでオフィーリア嬢のほうが、王族にふさわしいと、大お祖母さまが思っていらっしゃるかのような口ぶりだな。」
ルーデンスはオフィーリアを睨んだ。
「さあ、それはわかねますが……。
お祖母さまに報告が行くかどうかは、この子たち次第ですわ。では、改めまして失礼致しますわ。ごきげんよう。ルーデンス殿下。
──いえ、リシャーラさん。」
オフィーリアはゆっくりと、ルーデンスの横を通り過ぎて行った。左腹の傷を右手でおさえたまま、ルーデンスの影は姿を消した。
「くそっ!」
ルーデンスは腹立たしげに、影の消えた場所を思い切り拳で打ち払ったが、既にそこに影の姿はなく、虚しく拳が空を切って、ルーデンスはその勢いによろけてしまった。
向かう場所のなくなった怒りは、そのままもう1人の獲物、ヒルデ・ガルドをどうやって苦しめてやろうかという意識へと、自然と向いていったのだった。
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