第439話 レンジアの想い

「女の子なんだ?アレックス。」

「ふーん、かわいいわけ?」

「うんそうだね?かわいいって言うより美人かな?僕よりも背が高くてお姉さんだよ。」


 なんだろう、2人の目が怖い気がする。

「な……なに?」

「その子も英雄候補なんだよね?」

「ていうことは、その子も嫁にするわけ?」


「え?しないよ?僕は今2人を守ることにだけ注力してるからね。さっきミルドレッドさんのことだって断ったでしょう?僕、そんな何人もに気持ち注げないもの。」


 僕は首を傾げながらそう言った。

 それを見たミーニャとヒルデが、何やら嬉しそうにモジモジしだす。


「ま……、まあ、今はそうだとしても、アレックスには使命があるから、いずれ必要にかられて、そうなる可能性はあるけど……。」


「今は私たちだけなんだもんね?」

「うん、もちろんだよ?」

「ならいいわ、許したげる。」

「う、うん、ありがとう……?」


 なんなんだろうか?


「先代の英雄の手を借りて、本格的に英雄としての訓練が始まるわけね?」

「うん、そのつもりだよ。

 ミルドレッドさんも協力してね?」


「ぬぬぬ……。まあ、アレックスの頼みとあらば、仕方がないのじゃ。」

「ありがとう。よろしくお願いします。」


 すると、さっきまで何も言ってこなかったレンジアが、僕のことをじっと見つめて、

「アレックスさま、オフィーリアさまより先に、他の人と結婚……。」


 とポソリとつぶやいた。

「僕、オフィーリア嬢とは結婚しないよ?

 オフィーリア嬢はリアムと婚約してるし、僕にはもうこの2人がいるからね。」


 ヒルデとはそのつもりはなかったけど、僕から持ちかけた結婚だし、ヒルデは僕のことが好きだって言うから、結婚したからには責任を持って大切にしなきゃなって思うけど。


「駄目。アレックスさまはオフィーリアさまのもの。オフィーリアさまと結婚する。

 そして私は愛人になる。」

 とか突然言い出した。


「前にもそんなこと言ってた気がするけど、僕愛人とか作らないよ!?」

「アレックスさま、私のことが嫌い……。」

 そう言ってしょんぼりしてしまう。


「嫌いじゃないよ!?嫌いじゃないけど、むしろ大切に思っているけど、僕にはもう奥さんがいるから!そういうのは無理だよ。」


「奥さんなら大切にする?」

「まあね。むしろ奥さんが大切だから、愛人とか作らないんだよ。」


 まあ、そういう人が貴族にはたくさんいることは知ってるけど……。政略結婚だから、大切な人こそむしろ愛人にするっていう人もいるし、僕の父さまもそうだったし。


「なら、私も奥さんになる。」

「ええ!?」

「オフィーリアさまも奥さん。私も奥さん。

 これでみんな幸せ。」


「駄目だってばあ!

 レンジアまで急にどうしたの?」

 ミルドレッドさんが、やっと駄々こねから落ち着いたと思ったら、今度はレンジア?


「……駄目?

 アレックスさまの、そばに、いたい。」

 無表情な顔を、ほんの少しだけ歪めて、寂しそうにそう告げるレンジア。


「レンジア……。」

「んっ、うん。」

 思わずレンジアをじっと見つめてしまった僕は、ヒルデの咳払いでハッとする。


 なんか可愛そうなことしちゃったなあ。

 僕、多分ミーニャの次にレンジアが好きなのは、僕の加護の与えられ方からも自覚はしてるけど、レンジアとの結婚なんて、考えたこともなかったからなあ。


 ヒルデと結婚するくらいなら、レンジアを第2夫人にしてあげたら良かったのかも知れないけど、さすがにこれ以上お嫁さんは増やせないよ。節操なしみたいだもの。


「ともかく、この話は終わり。僕の奥さんはミーニャとヒルデ。わかった?レンジア。」

「わからないけど、わかった……。」

 目線を落としてうなずくレンジア。


「じゃあ、無事先代の英雄が見つかったらまた連絡するから、よろしくね。その前に僕の国を作るほうが先になるかも知れないけど。

 ……うん、先かも、国のほうが。」


「アレックスの国、楽しみね!」

「私たち、そこで暮らすのよね?

 私も楽しみにしてるね、アレックス。」

「うん、出来たら連絡するね。──あ。」


 ミーニャの親御さんには、既に結婚の挨拶と、一緒に暮らす許可を貰っている。だけどヒルデはどうしよう?偽装結婚のつもりが、ほんとの結婚になっちゃったしなあ。


「ヒルデ、親御さんに挨拶に行きたいんだけど、時間を取ってもらえるよう、連絡しておいてもらえないかな?」


「うちの親に挨拶?そんなのルーデンス王太子の件が解決してからでいいでしょ。もともと離れて暮らしてるから、別のところに暮らしたところで家族にはわからないんだし。」


「なんで?早いほうがよくない?」

 そう言うと、ヒルデはなぜか眉間にシワを寄せて腕組みをして、今はやめておいたほうがいいと思うけど?と言った。

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