第401話 魔王の封印の仕方

「すべての生き物にそれぞれ加護を与える神さまがいて、独自に発展するように願っているのに、魔族と魔物だけの世界にしようとしたら、世界が破滅してしまうと思います。」


 それって、魔族に加護を与えている神さま──アイバーリュスが、他の兄弟神や親戚の神さまたちに、喧嘩を売っているようなものだよ。人間が同じようなことをしたら、僕はそれを認められないと思う。


「そうね。国家レベルの小競り合いとは、次元の違う話しだわ。自然を作り変えようというのだもの。人間が魔族の国を滅ぼして、土地を手に入れたとしたって、瘴気を完全に消すことなんて出来ないのよ。」


「だけど魔王はそれが出来てしまう……。」

「ええ。その力があるわ。瘴気の多い土地で人間は長く暮らすことが出来ないから、せいぜい素材を採りに行くか、魔族を隷属化して採らせるかのどちらかになるでしょうね。」


「それなら自然は変わりませんね。」

「だけど魔王がいたらそうはいかない。

 瘴気を生み出しているのは魔王だから。

 魔王が復活したら、世界中に瘴気がどんどん広がっていくのよ。」


「魔族を守護する神さまが強いからですね?

 ある時からそうなったと教わりました。」

 アイバーリュスが兄弟神を食べて力を増したから、ってことか……。


「昔は違ったらしいわね。

 魔王がいたからって、瘴気が広範囲まで広がることはなかったそうよ。」


「そうなると他の種族としては、魔王を倒すか封印するしかなくなるということですね。

 世界に瘴気を広めない為に。」


「そうよ。だから私たちも魔王を倒そうと思って挑んだのだけど……。とても無理だったわ。封印に成功こそしたものの、魔王を倒せなかった英雄を、人々は白い目で見たわ。」


「──だから誰も、当時の話を聞いてこないということですか?」

 勇者や英雄たちは、人間を、世界を救うために戦ったっていうのに?


「そうね。昔のことだから、私が元英雄だったと聞いても、実感がわかないからなのか、今の人たちには白い目で見られることはないけれど、誰も話を聞いてはこないわね。」


「そんな……。命をかけて封印したんですよね?それなのに、そんなことって……。」

「世界を代表しているのだもの、結果を出せなかったら落胆するのは仕方がないわ。」


 エリクソンさんは目線を落として、諦めたような、傷付いたような表情を一瞬見せた。

「エリクソンさん。」

 僕の声にエリクソンさんが顔を上げる。


「長い間修練して命をかけて挑んだのに、討伐という結果が出せなかったというだけで、そんな扱いを受けることをわかっていたら、それでも英雄になりたかったですか?」


 エリクソンさんはジッと僕の目を見つめてきた。そんなことを聞いてきた人が、今までいなかったのだろう。


 だけど僕は英雄を育てている立場だ。

 もしもたくさんの英雄を育て上げても、やっぱり魔王を封印しか出来なかった場合、みんなは英雄になったことを悲しむのかな。


 それはとても気になるところだよ。

 命をかけて戦った見返りがそれじゃ、あんまりにも救われないもの。


「そうね、私は、だけど。

 ──それでも英雄になったと思うわ。

 だって、挑戦してみなければ、何事も始まらないもの。私たちには無理だったけれど、いつかは誰かが成功すると思う。」


「そうですか……。

 そうですね、きっとそうなります。」

 僕もそう思ってもらえるように頑張ろう。

 1番はもちろん、魔王を倒すことだけど。


 万が一駄目だとしても、英雄にならなければよかったと思われないように。

 それが僕の今後の課題で目標になった。


「そうね、私もそう思うわ。

 成し遂げられると信じて戦う心。

 それが英雄には大切なんだと思う。」

 エリクソンさんはほほ笑みながら言った。


「封印で思ったんですが、魔王の封印って、どうやったんですか?伝承の中には、そういった話はなかったんですが、皆さんは当時、どこかでその方法を知ったんでしょうか?」


 魔王は強すぎて封印しか出来ない。僕ら英雄に関わりのない人間が知っているのはそれだけだ。封印の仕方なんて、誰も知らない。


 どこかにそれを記した書物なり、古代文字で書かれた石碑なりあったりして、それを英雄だけは読み解くことが出来るとか?


「ああ……。普通の人は知らないわよね。

 私たちも、英雄になるまでは、というよりも、魔王討伐に向かうまでは、知らなかったもの。知っていたのは勇者と聖女だけだったの。2人に天啓がおりてきたのよ。」


「ああ、それで皆さんはご存知なかったって言うことですか。」

「というより、……私たちには知られたくなかったんでしょうね。」


「知られたく、なかった?」

「その方法しかないとわかっていたら、私たちだって引き止めたわ。だけど気付いた時には勇者と聖女がそれを実行した後だった。」


 僕はゴクリとつばを飲み込んだ。

「それは、いったい、どんな……?」

「魔王を封印するにはね、

 ──勇者の心臓を使うのよ。」


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