第370話 挑まれた勝負

「お前が!お前なんかが俺の上な筈はない!

 魔法スキルを授かれなかった、名門一族の面汚しが!俺は魔法スキルを授かれたんだ!

 出来損ないのお前と違ってな!」


「え!そうなんだ!おめでとう!

 欲しがってたよね、魔法スキル。」

「ああ、ありがとよ……。

 って、そうじゃねえよ!」


 サイラスが両手のひらを上に向けて、何かを掴むような仕草をしながら叫ぶ。

 なんなんだよ、もう。


「サイラス、昔から僕に突っかかってくるけどさ、僕が気に入らないのって、オフィーリア嬢の婚約者だったからでしょ?僕とオフィーリア嬢は、もう婚約破棄したんだよ?」


 なんでそれでまだ、僕に突っかかってくるかなあ?サイラスの行動で、僕はキャベンディッシュ侯爵家の跡継ぎでもなくなったのに、まだ僕に何かしたいんだろうか?


「ああそうだよ。俺は昔からオフィーリアを狙ってたのに、後から来たお前がかっさらって行ったんだ。」


「それは僕の意思は関係ないもの。仕方がないじゃないか。貴族の婚姻は政治的なものだったり、金銭的なものだったり、なんらかの恩恵が一族にあるから結ぶんだから。」


 フォークナー侯爵家に、莫大な財産か、代々受け継いでいる重要な役職のどちらかがあれば、従兄弟っていう血の近さはあるけど、選ばれる可能性はあったからね。


 オフィーリア嬢の父親は、ほんとは娘の王室入りを狙って、それが叶わないとわかってキャベンディッシュ侯爵家に嫁がせた人だ。


 よりよい条件の家門があれば、そっちにとびついたことだろう。リシャーラ王国の貴族の婚姻は、親に権利のあるもので、それは法律で決まってるから自由に相手を選べない。


 フォークナー侯爵家にあまり財産がないのは、別にサイラスのせいじゃないけど、それで選ばれないのは僕のせいでもないからね。


「お前はそうやって、幸運にもオフィーリアと婚約出来る恩恵にあずかれたのに、幼馴染だかなんだか知らねえが、別の女を好きだっただろ。オフィーリアの何が悪いんだ。

 俺はそれが気に入らねえんだよ!」


 ……そっか。オフィーリア嬢が好きなサイラスからしたら、好きな女の子が蔑ろにされているように見えたのかも知れないな。


 僕は婚約者としての最低限の義務として、オフィーリア嬢に関わっていただけだったから、オフィーリア嬢の気持ちにも気付かなかったし、それをはたで見ていたサイラスからしたら、面白くなかったんだろう。


「結ばれることはないと思っていたから、諦めていたつもりだったけど、態度に出ていたんだね。それはオフィーリア嬢にも君にも申し訳ないことをしたよ。本当にごめん。」


 僕は素直に謝った。

「……っ……!!

 俺は!お前の!そういうところが気に食わねえんだよ!!!」


「もー!どうしろって言うのさあ!」

「──午後の授業で俺と戦え、アレックス。スタミナ向上を目的とした長距離持久走で、どちらが早く到着するか競うんだ。」


「それで君の気が済むなら、僕は別にいいけど……。サイラス、魔法使いってことは、魔法科なんでしょう?騎士科ならともかく、僕と比べてそんなにスタミナがあるとも思えないんだけど、なんで長距離持久走なの?」


「俺は優しいからな。お前が使えない魔法勝負を挑んだって仕方がねえからだ。俺は確かに騎士科じゃねえが、だからこそ俺が勝てばお前に俺のが上だとわからせられるしな。」


「なるほどね。確かに公平かも。」

 僕も別にスタミナに自信があるわけじゃないし、それはサイラスだって同じだろう。


「お前より上の俺が、お前なんかに負ける筈がねえからな!

 見てろ、吠え面かかしてやる。」

 自信タップリにサイラスが笑う。


「長距離持久走は全クラス合同授業ですからね!いい成績を残せば、エンジュ王女の目にもとまりますね!サイラスさん!」

「ああ。俺の勇姿を見せつけてやるぜ!」


 エンジュ王女?エンジュ王女とザラ王女が留学してきたのって、まさかルカリア学園なの!?リシャーラ王国に留学して来たのは知ってたけど、魔法のスキル持ちだったんだ!


 過去の前例から、てっきりパミルナ女学園に入るものだとばかり思ってたよ……。うわあ、キリカに聞いておけばよかったな。校内で遭遇したら面倒くさいことになるよ。


 ルカリア学園に通う為に、ミルドレッドさんに、認識阻害の魔法を単体魔法にしてもらっているから、範囲魔法と違って、僕がいると思って見ると気が付かれちゃうんだよね。


 もちろん近くによらないと認識出来ないから、占い師が探すのは難しくなる。たとえ千里眼のスキルであってもそこは同じだ。


 だけどレンジアの隠密くらい、自分で自由に操れたらなあ。スキルだから、魔法探知の魔道具にも引っかからないし、衝撃を受けない限りはとかれないからね。


「そうと決まればタップリ食べるぞ!

 おい、アレックス、逃げんなよ!」

 ビシッと僕に指差しをしながら、サイラスはドヤ顔で去って行ったのだった。


────────────────────


少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。

ランキングには反映しませんが、作者のモチベーションが上がります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る