第365話 魔族の神、アイバーリュス

「えっ?そんなことがあったの?」

 みんな何も言わないから知らなかったよ。

 人間は知らなくて当然だけど、神さまたちの間ではそんなことがあったなんて。


「人間の伝承にもありますよ。魔王が神を食べて、神に等しい力をつけたと。」

「ロクウォウ神話だよね?それは僕も知ってるよ。本で読んだもの。」


 ロクウォウ神話は、星座をもとに古代の人間が作り出したとされる、神々の物語だ。

 エピソードとして面白いから、たくさんの本が発行されているね。


「それは事実です。神々は人間の信仰心が高い時代は、下界に降りることがありました。

 それだけの力があったのです。


 その頃はまだ、人と話すことがあったのですよ。その時代に、アイバーリュスは兄弟の1人を、兄弟たちと人間の前で食べました。

 私の生まれる前の話ですが。


 あの時代に、魔王はまだ生まれていませんでした。人間の王もいなかった。アイバーリュスを魔王だと、人間は思ったのです。」


 兄弟を目の前で食べられてしまった、兄さまたちの姿を思い浮かべる。だからアイバーリュスの話をしなかったのか。


 目の前で兄弟を食べた兄弟の話なんて、僕もリアムが生まれる前にそんなことがあったら、リアムにそんな話はしないと思う。


「本来魔族や魔物を守護する神と、人間や動物を守護する神の力は等しいものでした。

 兄弟神を食べたことで、アイバーリュスは力を増し、魔族は強くなったのです。」


「そこから魔王が誕生したんだね?」

「はい。人間が国を作るより、はるか昔の話です。人間たちが国を作り、国王を選定し、魔族に対抗するようになりました。」


「そこから争いが続いているのか……。

 人間が強くなるのが追いつかずに、勇者さまや聖女さまを他の世界から連れてきたり、人間の中に生まれさせたんだね?」


「はい。ですが、もともと対抗出来る為の種は、人間の中に撒いていましたから、芽吹かせることが出来ないまま、勇者と聖女が突如現れることを期待するだけの人間たちを、兄弟神たちは見限りつつあります。


 母さまは最後の手段として、オニイチャンを生み出しました。……ですが、オニイチャンの行動によって人間が気付くことなく、期待するままで終わるのであれば、魔王をどうにか出来たとしても、兄さまたちの守護も加護も祝福も、なくなるかも知れません。」


「単純に英雄を育てればいいってことでもないわけだよね。難しいなあ!」

 僕は思わずベッドにひっくり返った。


「天空の国を作り、神に近い位置に国を持つことは、人間に変化をもたらすと思います。

 ただしそれが反発になるのか、敬いになるのかは……。人間をふるいにかける時期がきたと、私は思っています。」


「反発か敬いかで言うのなら、反発が多いんじゃないかな。僕を人間だと思う限りね。

 若造が国を作るだとか、面白くないと思う国王がほとんどじゃないかなあ。」


「ですが、いずれオニイチャンの力は、広く知られる時が来ます。隠しているには大き過ぎる力です。これまで隠してこれたのも、知った人たちの協力によるもの。


 まったく知られないようにするのは不可能でしたよね?いつまでも隠れて暮らすには限界があります。いくら認識阻害の魔法があったとしても、限界がある筈です。


 スウォン皇国の時のように、その時いる国に迷惑がかからないと言えますか?

 オニイチャンの住むところは、早めに移した方がいいと私は考えます。」


「アイバーリュスと話して、僕とアイバーリュスの間で、手打ちに出来ないかなあ。」

「食べようとするだけだと思うぞ!神に1番力を与える食べ物だと言ってたそうだ。」


「うう……。ならやめとこう。」

「それが懸命ですね。」

「それより早く私と遊んでくれ!」


「あ、そうだったね、ネプレイースは、何かしたいことがある?」

「人間の遊びを教えてくれ!

 かくれんぼというのがあるのだろ?」


「かくれんぼかあ……。

 なら人数も必要だね。叔父さんにも頼んでみるか。キリカも一緒に遊んでくれる?」

「いいですよ。」


 叔父さんにネプレイースを紹介すると、そうか、とだけ言った。僕の家族とは話していたし、キリカの体を作れることも知っているから、親戚だと伝えたら納得してくれた。


 そうして僕らは、かくれんぼをしたり、鬼ごっこをしたりして、ヘトヘトになるまでネプレイースと遊んであげたのだった。


 ネプレイースは人間なら親と近い年齢の叔父さんにも甘えたがった。僕と叔父さんにかわるがわる抱っこをねだって、僕がイイコイイコしてあげたらいつの間にか寝てしまう。


「こんな小さい子が神の役目を担っているとはな。まだ親に甘えたい年齢だろうに。」

「ネプレイースは、オトウサンよりもかなり年上ですよ?この年齢のままなだけです。」


 キリカにお父さんと呼ばれて、頬を染める叔父さん。キリカにねだられて、キリカのことも抱っこして頭を撫でてやったのだった。


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