第262話 世界で最も安全な国

「Bランクを倒せる人は少ないから、かなり有効な結界ということだね!」

「そうですね、外から侵入出来ませんし。」

 とキリカも同意してくれる。


「それになにより、ダンジョンスタンピードが起きた際に、最も安全な国というのは、国内外に広く関心を集めると思います。

 これは現時点で世界で唯一です。」


「最も安全な国というのは?」

 叔父さんがキリカにたずねる。

「ダンジョンの外から出た途端、Bランク以上の魔物は干からびますから。」


 結界内の人の住む場所に、新たに生まれることもないですね、とキリカが言った。

「そうか……!この結界は半永久的だから、ダンジョンの中なら無事でも……。」


「ダンジョンスタンピードで外に出た途端、死んでしまうってことなんだね!」

「はい。今この国が世界一安全です。」


 どこの国もダンジョンスタンピードを起こさない為に、ダンジョンから一定以上の魔物を狩らせているし、冒険者ギルドがダンジョンの管理をしているんだ。


 ニナナイの村みたく、あふれさせる寸前まで魔物を1つのフロアに集めたとしても、いざ出てきたら死んでしまう。ニナナイの村もこの国にあったら罰を受けなかったのにね。


「それはいずれ各国に知られることになるだろうな。みなそれぞれ王宮所属の専属占い師を持っている。この国の状態を知ることが可能だろう。そうなれば……。」


「危険な国から逃げてくる人たちも、たくさんいそうだね?この国が失われた大地だなんて言っていられなくなるよ。無視するなんて出来ない。だって世界一安全なんだもの。」


「はい。またそれ以前に、既にこの国は失われた大地ではなくなったようです。」

「どういうこと?キリカ。」


「“選ばれしもの”が7人、この国に移動しているようです。人間の世界では、“選ばれしもの”が訪問する国というのは特別な意味を持ちます。また過去に7人が訪問した例はなく、それにより中央聖教会は、エザリス王国を教徒として認める意向を示すつもりです。」


「“選ばれしもの”が7人全員!?

 そりゃ凄い。人間の中で祝福を授けられる限られた存在だ。訪問される国は大変な栄誉だし、穢れた土地じゃない証明にもなる。」


「けど、今まで無視してたのに、急に?ってエザリス王国の人たちが思わないかな……。」

「その為の7人全員の訪問のようです。謝罪の意思と誠意を示す目的もありますね。」


「なるほどな、かつてない7人よる訪問により、アジャリべさまの敬虔な信徒ほど、特別なことをされているという意識は強まるだろうな。この国がそうなら民衆が喜ぶだろう。」


「そこのところはどうなの?キリカ。」

「この国は穢れた土地とされて以降、他の国よりも神に願う気持ちが強く、敬虔な信徒が多いようですね。喜ぶと思います。」


「なら、さっそく報告に行こう、叔父さん。

 こんな嬉しい話題は、伝えずにはいられないよ!ごめん、キリカ、待ってて!」

「はい、オニイチャン。」


 僕と叔父さんは、キリカを残してエザリス王国の王宮へと戻った。キリカを連れて行かないのは、単純に説明が大変だから。

 さっきまでいなかった人だからね。


 扉を開けて戻ると、バイツウェル3世がキラキラした目で僕らを見つめている。子どもらしい顔も出来るんだな。普段は王さまとして気を張って生きているんだろう。


「カミーザから、悪しき者の存在が消えたと報告があった!よくやってくれた!」

「あ、それなんですけど……。」


 僕と叔父さんは取り逃がしてしまったことを伝えた。それを聞くと、バイツウェル3世は残念そうに眉を下げた。


「そうか……。

 あれはやはり、先代王であったのか?」

「はい、そのようです。」


「なればこの国からいなくなってくれただけでもしめたもの。それにおぬしの結界があれば、もう近付くこと叶わぬであろうしの。」


「そうですね、結界が有効な間は、そうなると思います。」

「それでじゅうぶんだ。あれがこの国にいないと明確に判明しただけでも安心だ。」


「いるかも知れない、いないかも知れない、どちらともわからず、私たちはその存在に怯え続けてきたのです。いなくなったと分かって、ホッといたしました。」


 とカミーザさんが笑顔を見せた。

「それでは、そろそろ食糧難の解決の話に移ろうか。慌ただしくなってしまったが、本来占わせていたのはそちらだったのだ。」


 そう言えば、そんなことも言ってたね。

「その前にお伝えしたいことがあります。」

 叔父さんが胸に拳を当てて最敬礼する。

「なんだ?申してみよ。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る