第242話 頼りになる商人

「これは恩返しだと思って下さい。あなたのお父さんのおかげで、僕はまた叔父さんとこうして再会することが出来ました。

 今度は僕らの番だと言うだけです。」


 僕も叔父さんの話に乗っかって、そう話をした。オンスさんのお父さんが、叔父さんが剣聖になるきっかけの、剥ぎ取った死体の双剣の持ち主だったのはもちろん偶然だけど。


 叔父さんが中身を返すこじつけとして、その時のエピソードを語ったら、まさかその持ち主が、ほんとにオンスさんのお父さんで。


 しかもその人が、実はアイテムボックス持ちで、僕の時空の海のアイテムボックスとつながっていて、こうして遺族に遺品を手渡せたのも、何かの運命のような気がするよね。


 オンスさんはまだ少し困惑しているみたいだった。禁忌の土地に突然よそから来た人の言うことだものね、どこまで信じていいか、僕でも分からないと思うよ。


「だけど僕は施しなんていう、失礼なことはしたくありません。だからあなたに仕事を与えたいと思っています。お孫さんにお金以外のものを残してあげたいと思いませんか?」


 オンスさんは思わずエルサちゃんをチラリと見た。自分がいつまで生きていられるのか不安なのだろう。エルサちゃんが大きくなるまで、生きていられないかも知れない、と。


 小さな女の子がこんな痩せた大地を耕すのは大変だろう。だけど信頼出来る人たちと、他の商売で生きる糧を与えてやれたら。


 エルサちゃんはオンスさんという家族を失っても、1人でもたくましく生きていかれるかも知れない。平民が手に職を持つのは大変だというから、いい機会かも知れないね。


「……分かった。ぜひお願いしたい。」

「じゃあ、さっそく近くの市場に案内して下さい。店舗の開設登録をしましょう。」


「その前に、協力を仰ぎたい奴らの家を回らせてくれ。そいつらと一緒に行きたい。

 俺に何かあった時の為に、エルサのことを頼んでいる奴らばかりだから。」


「分かりました。」

 僕たちはエルサちゃんを連れて、まずはオンスさんが信頼しているという近所の人たちの家を一軒一軒回って歩いた。


 オンスさんは、エルサちゃんの為に店を残してやりたいこと、父親に世話になったという人たちが商売の糧を用意してくれたこと、毎日食べ物が手に入ることを説いていた。


 農民に限界を感じていたオンスさんの近所の人たちは、毎日食べ物が手に入ることと、新しく商売を始められるという点に、ともかく飛び付いてみようと思ったみたいだ。


 何もしないよりはマシだものね。市場にすら何も食べ物がないんじゃ、お金があっても買えるものがない。待っていても死ぬのを待つばかりだからな、と言っていた。


 唯一このあたりで馬車を持っているというドーザさんが、馬車を出してくれることになったんだけど、馬もすっかり弱り果ててるみたいで、なかなか動こうとしなかった。


 ポーションと真水を抽出して与えると、ブルルルル!と元気よくなって、馬車をつけるのを許してくれた。エサを食べさせつつ、馬車をつけて、僕らは市場へと向かった。


 市場はろくに店が出ていなくて、それでも食べ物を求める人たちがウロウロしていた。

 この国は他の国との交流がないこともあって、僕らの身分証明書が通用しなかった。


 改めて商人ギルドに登録すると、オンスさんたちも同じように商人登録をする。

 その日のうちに商売を始められるのは、この国でも同じみたいだ。


 商人ギルドで全員と魔法の契約書を結ぶ。お金を誤魔化したり、持ち逃げしたりすると魔法の制裁がある血の誓約書だけど、これはみんなのほうから逆に言い出してきたんだ。


 ドーザさんは元々商人をやっていたけど、品物が仕入れられなくなったからやめたんだって。信用してくれるのは有り難いが、お互いの為にもしたほうがいいと言ってくれた。


 満場一致で経験者のドーザさんを店長に据えることが決まって、みんなのお賃金を記載した契約書を取り交わした。予想外に頼りになる人が見つかって良かったな。


 僕ははじめから店舗を借りることにした。

 たくさん商品を並べたいし、混雑するだろうからね。魚屋を始めると言うと、1番入口に近い、いい場所をあてがってくれた。


 もともとは八百屋さんだったらしくて、店とかいい感じに既に内装が仕上がってる。

 巨大な店舗は広さとして申し分なかった。

 これなら商品を並べるだけですむね!


 あとは何を並べるかだけど、このあたりで捕れる魚も、相場も僕には分からないから、ここは情報の海さんに聞くしかないね。


 情報の海さん!このあたりで人気の魚介類を20種類、名前と相場を教えて?普通の人がそのまま買って食べられるのがいいな!切ったりしなくてもいい、大きくないやつ!

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