第240話 失われた大地、エザリス王国

「……だがこの国の名が禁忌になった本当の理由は、悪魔信仰が原因じゃあないんだ。」

「──どういうこと?」


「この土地が、悪魔信仰の国であるという噂を、払拭しようとするかのように、その時代に世界を救われた聖女さまが、この土地の出身であることを告白なさったんだ。」


「え?おかしくない?なんでそれで、むしろ禁忌の名の土地になるの?」

「……殺したんだ。」

「──え?」


「聖女さまを、魔女裁判にかけたのさ。

 その当時魔女狩りが流行っていてな。

 聖女さまを魔女裁判にかけて、殺してしまったんだ。……当時の5大大国がな。」


「えっ?えっ?えっ?」

「火あぶりの刑に処したんだ。ご丁寧に、魔力封じの魔道具まで使って、な……。」

「そんなの、助かるわけないじゃない!」


「ああ、そうだ。そして、その5大大国は、──神の怒りに触れた。5つの国は同時に雷が落ちて、一瞬で消え去ったと聞く。」

 そりゃそうだよ!誰だって怒るよ!


 世界を救ってくれた聖女さまを魔女だなんてさ。しかも神さまがわざわざ人間の為につかわしてくれた存在なのに。神の怒りに触れないと思うほうが、むしろおかしいでしょ。


「だがそれにより、やはり魔女だったとする派もある程度いてな。一瞬で国を滅ぼす程の力がありながら、なぜ勇者と聖女をおくるような、まどろっこしい真似をするのかと。」


「……それは神の意思や力ではないとされたんだね。それもわからないでもないけど。」

 神さまはあまり干渉出来なかったから、勇者と聖女を送り届けていたわけだし。


 人間は巨大な雷に耐えられなくても、魔族はきっと耐えられたってことなんじゃないのかな。巨大な雷が落ちたら周囲は燃え広がるし、国中が焼けたら人間は死ぬだろうね。


 生き残れたとしてもろくに食べるものもない。他の国が助けようとしても、そんな状態じゃあ間に合わなかっただろうな。

 5つの国は滅びるべくして滅びたんだ。


 神の怒りか、はたまた悪魔の力であったとしても、そのどちらにも関わりたくない。

 ……だから原因の土地を禁忌にしたんだ。


「これまでそのことを、どうにかしようとする人はいなかったの?」

「話しただけで逮捕されるんだ。個人でそれをしようなんて人間はいないだろうな。」


 叔父さんも、そこに逆らわないことにしたってことだね。……確かに知り合いも誰もいない土地だもの。そう考えると無理もない。正義感だけじゃ、世界は変えられないから。


 ──どうして時空の海のアイテムボックスは、殆ど違う国につながってるんだろう?

 母さまたちは、何を思ってその国の人たちにスキルを授けたの?


 ひょっとしていつかこんな日が来ると、僕という存在を生み出して、世界中を見させる為に、わざわざバラけさせたのかな?


 ……だとしたら、僕はこの世界を見て回ることによって、判断を委ねられてるのかな。

 人間をあまり助けたくないとも、思っていると言ってた言葉を、妙に思い出した。


 痩せこけた麦畑を抜けると、道の真ん中に倒れ込んでいるお爺さんを発見した。

「叔父さん!誰か倒れてるよ!」

「ああ。暑さにやられたのかも知れない。」


 駆け寄って助け起こすと、うめき声すら聞こえなかったけど、生きてはいるみたいだ。

 とても飲めそうになかったから、僕はポーションをお爺さんの体にかけてあげた。


 これでも効果があるのが、ポーションの凄くて不思議なところだよね。

 お爺さんは目を覚ますと、

「あ、あんたらは……?」


 と弱々しい声で聞いてきた。まだ足りないみたいだね。お爺さんにポーションを渡して飲ませると、ようやく立つことが出来た。


「偶然立ち寄った旅の冒険者です。見つけることが出来て良かった。家にどなたかご家族はいらっしゃいますか?」

 と叔父さんが尋ねる。


「孫がいるにゃあいるが……。まだ小さい。

 息子も嫁もこの飢饉で死んじまったあ。」

 と言った。そうは言ってもここにいさせるわけにもいかないよね。


 お爺さんの案内で、家まで送り届けることにした。お爺さんの家のドアを叩くと、

「エルサ、わしじゃよ。」

「……オンスじーじ?」


 まだほんの小さな女の子が、椅子に乗って家のドアの鍵を開けてくれた。女の子が椅子から降りて、椅子をドアの前からどかすのを待って、お爺さんがドアを開ける。


「良かったら寄って行ってくれ。と言っても何もないがな。兄貴がいたらまだ違ったんだろうが、もうこの子だけになっちまった。」


 そう言ってお爺さんが招いてくれた家の窓には、エルサちゃんを抱いたご両親とお爺さんの絵とともに、83番目のアイテムボックスの中で見た家族の絵が飾られていた。


「お兄さんと、そのご家族はどちらに?」

「……この国を嫌って、親父とともに冒険者になると言って出ていったきりさあ。あんたも知っとるだろ、この国のことを。」

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