第157話 スキル〈海〉の理由

 ちょっとカナンには申し訳ないけどね。

 偽りだけど、胸が痛くなるんだろうから。

 だけど、僕が神の使徒だなんて……。

 神さまは何を考えて僕を使徒にしたの?


【回答、神の意志について。

 神は憂いました。

 何度勇者と聖女をつかわしても、国がその存在を奪い合い、争いが始まる。


 もう人間同士が争わぬように。

 絶対的な力を持つ者にすべてを任せることにしたのです。それでも争おうとした時は、神はもう人の子を救わないでしょう。


 何が起きてもただ、見守るだけの存在として。2度と勇者も聖女も、この世には現れなくなるでしょう。そうして人の子が滅んだとしても、それは愚かな人の子が、誤った選択をしたのちの結果。自らが招いた落ち度。


 強き者、富める者がいれば、それに縋り、期待をし、頼ればいいと考える。

 自らの努力を放棄し、祈るだけの存在を、神は救おうとはしないでしょう。


 こたびの勇者が最後の勇者になるかも知れません。その為、条件が多少厳しく設定されています。勇者になろうとする者も、その周りの人間も、全員が努力をし、高め合っていくことを神は望まれています。】


 それは教会の教えとは、真っ向から対立する言葉だった。信じてさえいれば。敬虔でさえあれば。神は皆を救ってくれる。


 それが教会の教えであったのに。寄付も信仰も、神さまはほんとは何も求めてなくて、ただ人間ひとりひとりが努力することを期待していたって、そういうことなの?


【回答、この世界における、宗教の概念について。

 宗教とは、単に宗教戦争に勝ったものが、それを神の意志や、教えであるかのように、広く世界中に広めただけのことです。


 その為に、神の名を借りた。ただそれだけのこと。広めた人間に都合よく作られているので、お布施を求めているのです。


 神は何も求めてはいない。

 神をただ崇める為だけの背の高い建物も。

 人の子の金銭も。人の子らが神の名を語り都合よく生み出した決まりごとなだけ。


 些事には構っていられないから、作るなとも言っていないというだけのこと。

 ただし供物としての、作物や生き物は、神のみもとへと届いています。】


 そ、そういうことなんだ……。

 確かに考えたら、神さまが人間のお金なんて使わないよね。デッカイ教会も、飢饉のたびに作らせてたらしいけど、神様はそんなことしなくても、今まで救ってくれてたんだ。


 あ!でも!そうだよ!選ばれしものはどうなるの!?神さまの言葉を聞ける、選ばれしものが、常に7人いるのはなんでなの!?


【回答、選ばれしものについて。

 彼らもまた、神の意志を伝える為につわかされた、神の使徒です。


 ただし、人の子が神の言葉を直接受け取ることは、とても難しいことなのです。

 短い言葉でしか伝えることが出来ない。


 こたびはたくさんの情報が必要でした。

 その為にスキルという形を取り、あなたに意志を伝えることにしたのです。】


 なんとなく、わかるような、分からないような……。でも、なんで僕のスキルは〈海〉なの?それなら、もっと分かりやすくしてくれても良かったと思うんだけど……。


【回答、スキルが〈海〉の理由について。

 神は生き物を生み出す為に、原初に〈海〉を作りました。〈海〉はすべての生き物の生みの親。〈海〉から生き物は生み出され、土地が生み出され、世界を生み出した。


 〈海〉はすべてのみなもと。

 〈海〉は最初の神の子どもなのです。

 世界をすべる者にさずけるのに、これ以上ふさわしいスキルはありません。】


 だけど、それがなんで、僕なの?

 それならもっと、スキルに相応しい人がいるんじゃないのかな。世界平和を願っていたり、勇者を目指してる人だとかさ。


【回答、スキル〈海〉を授けられたのが、アレックス・キャベンディッシュである理由について。


 あなたは争いを好まない。

 あなたは多くを望まない。

 虐げられたとしても人を恨まない。

 ですが、いざという時に、戦う意志を持つことが出来る人間。


 アレックス。あなたなら、1度争った相手をも、受け入れ、穏やかな関係を築くことを望み、また、それを実現することが出来るでしょう。まさに神の意志をたくすに、相応しい神の使徒であるのです。】


 な、なんかそう言われると、すっごく恥ずかしいけど……。

 ようするに、たくさんの人が仲良く出来るようにすればいいってことなんだね?


 だけど、結構な無茶を言うよねえ。神さまも。僕だって平和なほうがいいとは思っているけど、価値観も、言葉も、願いも、何もかもが違う人たちをまとめろってことでしょ?


 それを僕にやれということなの?

 かなりむちゃくちゃ言ってないかな?

 僕はただの子どもだよ!?元貴族なぶん、世界情勢を多少知ってるってだけで!

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