第120話 町の違いと村に住むには

 乗合馬車のお金を払わないのに乗ろうとする人、それを管理しないと責められる人、とかの、ちょこちょことした小競り合いがね。

 そういうのって結構面倒だと思うよ。


 自分の家のことは自分で、というのがバッカスの村のスタンスだから、例えば馬車をタダで貸してくれって言ってくるような図々しい人は、そもそも村には住めないんだって。


 誰でもお金を出せば土地が買える町と違って、村に住むには先住者たちの許可がいるんだそうだ。まあ、変な人に住まれたら困るものね。住んで貰わなくとも別に困らないし。


 だからオフィーリア嬢の買った新しい家なんかも、叔父さんの家の近くとはいいつつ、アタモの町に買った筈だよ。その日のうちに買うなんてこと、村だと出来ないからね。


 まあ、バッカスの村でも、ご近所さんの家との距離が遠いから、それから言うとアタモの町でも一応ご近所さんにはなるのかな。


 昔冒険者ギルドの依頼でこのあたりに来た時に、それとなく目をつけていたらしいよ。

 買えそうな土地があるかとか、遠くに行くたびに、あちこち見て回ってたみたい。


 確かに便利だよね、このあたりは。なんでも揃うのが当たり前だった僕からすると、そうでない土地で暮らすのって大変だと思う。


 近くにダンジョンもないことを考えると、バッカスの村は暮らしやすいほうだと思うよね。少しとはいえ、ダンジョン運営以外でお金を稼ぐ手立てがあるんだもの。


 アルムナイの町は、アタモの町より大きくて、地面も舗装されててキレイだったけど、露天はひとつもなかったんだ。


 それって、ちゃんと店舗を構えられる人しか、町ではお金を稼げないってことだよ。

 近くの村に住む人たちは、冒険者ギルドと商人ギルドの買い取り以外では稼げない。


 だけど買い取りして貰える物って、基本ある程度高いものか貴重なものだから、野菜とか調理品なんて当然買い取って貰えない。


 だけど、ミーニャのお父さんがそうみたいに、普通の人にはただのウサギだって狩るのは難しいんだ。魔物は小動物用の罠だって、破壊しちゃうって叔父さんも言ってたしね。


 その点アタモの町は、地面はむき出しのままだし、少し凸凹してるけど、広く商売を始めたい人を受け入れてくれる町だ。


 農地しかなくて、馬車もなくて、現金を手に入れる手段もなくてってなると、かなり暮らしぶりが悪くなるよね。


 ニナナイの村がダンジョンでの収入にこだわったのは、たくさん稼げるってこともあるだろうけど、他に生きる手段がなかったってことでも、あるんじゃないのかなあ。


 結果として、じゅうぶん暮らせるお金があったのに、欲張って駄目にしてしまったけどね。この先ニナナイの村の人たち、どうするんだろう?他に生きるすべを持たないのに。


 僕の護衛があるから、商人ギルドまでついて来てくれたヒルデは、大量のスクロールを目の当たりにしていたからか、僕が大金を目の前で支払うことに、特に驚いてはいなかった。


 そこで僕は、商人ギルドで、なんの店をはじめるつもりなのか聞かれて、魚屋を始めたいのだということ、高い魚の相場や、需要を教えて欲しいと頼んでみることにしたんだ。


 アルムナイの町でもついでに見て回ったけど、やっぱり魚屋さんはなかったんだよね。

 だから相場が分からなかった。


 でも、冒険者ギルドでランド魚の納品依頼があるみたいに、需要の高い魚はある筈なんだ。それは取引価格の相場がある程度決まっているもので、商人ギルドでもわかる筈。


 そう思ったんだ。

 案の定、商人ギルドの職員さんは、需要のある魚の種類と相場を知っていたよ。


 だけどそれは貴族向けのレストランとか、貴族におろす為とか、果ては王宮の厨房からの依頼によるもので、平民が食べる為のものじゃあなかったんだ。


 この国は魚が高いからね。輸送手段のことを考えると、あんまり手に入れるすべがないってことだ。だからこそ僕の店に需要があるわけなんだけど。


 ん?てことは、海が近い国はどうなんだろう?例えばレグリオ王国なんかは、海が近いから、普通に平民も魚を食べているよね。


 僕と母さまが旅行で行った時も、普通に平民が買いに来る魚屋さんだって、いくつも町の中にあったよ。ということは魚の相場を調べるのなら、レグリオ王国に行くしかない!


 商人ギルドの職員さんにお礼を言って、ヒルデに入口まで送って貰って、迎えに来てくれた叔父さんと帰る道すがら、明日の午前中は、レグリオ王国で魚の相場を調べたいのだとお願いしてみたんだ。


 毎朝叔父さんの畑の手伝いがあるから、断りなく勝手に休めないしね。店舗として始めるのなら、市場調査は大切だからな、頑張ってこい、と叔父さんは言ってくれた。

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