スキルのレベルアップ

第94話 1万体のリザードマン

 マジックバッグにスクロールをしまうと、更に下の階へと進んだ。階段をいくつか降りると、かなり開けた明るい場所に出た。

「まぶしっ……!」


 さっきまで薄暗かったから、突然明るくなったことで、かなりまぶしく感じる。

 夏草の匂いがする草原が広がってて、そこが地下であることを一瞬忘れさせられる。


「え……空?」

 天井にはまるで雲ひとつない空が広がってるみたいで、外に出ちゃったのかな、と僕は一瞬勘違いしたくらいだった。


「初めて見るとそう思うよな。

 ここは単なる天井だ。ダンジョンにはこういう場所もあるのさ。もちろん実際に外につながっているケースもあるぞ?」


「へえー……。」

 かなり奥のほうに視線を向けると、なにやら武器を持ってウロウロしている、大勢のリザードマンたちの姿があった。


 僕よりかなり背丈が大きくて、なんなら叔父さんよりも大きいものがいる気がする。

 素早さこそダイアウルフの方が早いけど、力はリザードマンの方が強いんだ。


 おまけにそれが武器と防具を身に着けているんだから、本来の僕1人の力じゃ絶対に倒せるような相手じゃなかった。


 リザードマンには階級があるのか、武器だけを携帯していて防具のないものもいた。

 兜をかぶっているのもチラホラいるね。


 兜をかぶっているリザードマンの数は少ないから、恐らく隊長格なんだと思う。

 うわあ……、おっかないなあ……。


 兜をかぶっているリザードマン1体に対して、武器と防具を身に着けているのがおよそ30体、武器だけを携帯しているのが70体ってとこかな?100体で1つの小隊だ。


 その兜をかぶっているのが、ぜんぶで100体いるわけだから、ここには1万体以上のリザードマンの群れがいるってことだよ。


 叔父さんが、兜をかぶっているのがリザードマンリーダーというちょっと強いやつで、兜のない鎧を身に着けているのは、普通のリザードマンの一種だと教えてくれる。


 僕らに気が付いた、遥か遠くの方にいたリザードマンたちが、ギャギャギャ!となにやらわめいているのが聞こえてくる。


 すると、1番奥のほうにいた大っきなリザードマンが何かを叫んだかと思うと、リザードマンたちが一斉にこちらに走って来た!!

 たぶんあれが奴らの1番上なんだろうな。


 鎧も1番豪華なのをつけてるね。

 叔父さんが、あれがボスリザードマンという、強いが臆病な個体だと教えてくれる。


 弓を持ったリザードマンは、僕らがこちらに向かって来た時の為か、弓を引いた状態で構えて待っていた。


 リザードマンたちはものすごい勢いでこちらに近付いてくる。とてもじゃないけど、ダイアウルフと同じやり方は通用しない。


「──あいつらを1度に倒してみるんだ。」

「ええっ!?無理だったらどうするの!?

 あいつらが一気に向かって来るよ!?」


 1万体ものリザードマンを、僕の力で1度に倒せるとは到底思えないし、ましてや僕のスキルは1発1発に時間がかかるのに!


「その為の俺だろう。いいからやってみろ。

 デビルスネーク・亜種を倒したんだ、威力さえあれば、出来る可能性がある。」


 叔父さんはリザードマンくらいなら、1万体でも造作もないってことなのかな?

 これがSランクの自信なんだ。


 よ、よおし……。

 僕は忘れずにスキル経験値2倍のスクロールを発動させた。スクロールは違うジャンルのものなら重ねて使うことが出来るものだ。


「来い!大津波!!!」

 僕はデビルスネーク・亜種を倒した時以上の、巨大な波をイメージして、スキルを発動させた。僕の目の前が発光する。 


 眩しい光の奔流に包まれて、僕よりも背の高い木で出来た扉が現れて、手も触れていないのに、扉が勝手に開いていく。

 僕は弓を構えてリザードマンへと向けた。


 そこへ、

「お、やってるやってる。」

「なんだ、さっきのあんたらか。」

 ──さっきの乱暴な2人組みだ!


「おい、さっさとこの場を譲れよ。

 さっき俺たちが譲ってやっただろう?」

 彼らは懲りることなく、ニヤニヤしながら僕にそう言ってきたんだけど。


 僕は叔父さんと目線を合わせて、こっくりとうなずき合い、はっきりと、

「嫌です。ここは僕たちが先なので。」

 とリザードマンの方を向いたまま言った。


「なんだあ……?急に強気じゃねえか、このお坊ちゃん。さっきまでオッサンの後ろでビクビクしてた癖によ。」


「まったくだな、ちょっとダイアウルフごときを倒したせいで、自信でもつけたか?

 ダイアウルフは倒せても、俺たちは倒せないって、さっき見てて分かっただろ?」


 2人組があきれたように言ってくる。

 そうだね。さっきまでの僕なら、当然それが正解だよね。戦い方も知らずに挑むには、彼らはじゅうぶんに強い冒険者だもの。

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