第78話 叔父さんの大切な話。その2

「まあ、それもあるが。

 今のお前の状態で、一気に大金を稼ぎ過ぎるのは、よくないと思ったからだ。」


「僕が子どもだから?」

「いいや。覚悟がないからだ。」

「──覚悟?」


「この世の中は、持てる者と持たざる者に分けられる。それは才能であったり、権力であったり、金であったりだが。……その中でも特に人から奪いやすいものが、金だ。」


「……才能は奪えないね、確かに。

 権力も、人から奪えることもあるだろうけど、お金ほどは簡単には手に入らない。」


「そうだ。持たざる者は、自身が努力をするよりも、持つものから奪ったほうが早いと考える人間が多いのも事実だ。」


「……そうかな?」

 僕は叔父さんの言うことが、あんまり納得出来なくて首を傾げた。


「そうだ。お前は元々恵まれた生まれだが、そうでなくとも、人から奪おうだとか、恵んで貰おうだとか考えずに、自分の努力でなんとかしようとするだろう?」


「そうだね、うん、たぶん。」

 元々平民に生まれてたとしても、出来ることを頑張って、毎日を生きてたと思うよ。


「それはお前が執着していないからだ。身の丈に足りる現状で満足出来る人間だからさ。

 ここまでのことが出来るスキルでなかったとしても、不満はなかっただろう?」


 確かに、リアムとまた会えるようになりたいって思ってなければ、ミーニャと2人で食べていかれれば、それでじゅうぶんだっただろうな。お金にこだわりはないかも。うん。


「だがそうでない人間からしたら、他人が努力で手に入れた物でも、自分のほうが相応しいだとか、自分が手に入れられた筈のものだったと考えるんだ。」


「ええ……。」

 凄い人たちがいるんだなあ。

 僕にはちょっと理解出来ないや。


 でも確かに、僕を襲ってきた3人組は、そういう人種の人たちなんだろうね。

 冒険者として頑張るよりも、僕から奪ったほうが早いと考えたんだろうな。


 サイラスもそうかな?オフィーリア嬢に婚約を打診してたって、オフィーリア嬢が以前言っていたから。自分が先なら、婚約してたのは自分のほうだって、考えてたのかも。


「だから必ずお前からそれを奪いにくる。

 そういう人間から身を守れるすべを身につける前に、簡単に金を稼ぐことも、稼げることも知られないほうがいいのさ。」


「うん、わかったよ。」

 きっと叔父さんはそれが出来るようになったから、冒険者を引退したんだね。


 お金をたくさん持っているのに、あんな人気のないところにたった1人で住めるのも、Sランク冒険者だからなんだろうな。


 Sランク冒険者を襲ってお金を奪おうなんて物好きも、そうそういないだろうしね。

 僕が襲われたのは、僕があいつらから舐められてたからだ。


 たくさん稼げるところを見せたら、僕だけじゃなく、ミーニャが危険な目にあうかもしれないよね。もしそうなったら困るよ。


「それにお前のスキルだ。そのスキルは、お前や俺たちが思っていたよりも、かなり色々なことが出来るようだ。」

 叔父さんは声色を落とした。


「塩と魚を手に入れられるというだけでも、国から保護される可能性があるだろうが、問題はそのスキルで攻撃が可能だということ、そしてアイテムボックスの海の存在だ。」


「うん……。知られたら大変だと思う。」

「そうじゃない。ことはそんな単純な話じゃないぞ、アレックス。」

「──単純な話じゃない?」


「そうだ。お前はとても大きな力を持つことになった。魔導師レベルの魔法使いと言っても遜色ないほどの力だ。それを簡単に使って見せることは、──戦争をも引き起こす。」


 僕はゴクリとつばを飲み込んだ。

「お前はそのことに自覚を持たなくちゃならない。突然身につけた力に実感はわかないことだろう。だがそれが持つものの責務だ。」


「お金と同じってことだね。」

「いや、それ以上だ。周囲を守ることにも、傷付けることにもなる。お金以上に利用しようとする人間も現れることだろうな。」


 Sランク冒険者の叔父さんの言葉は重たかった。叔父さんもきっと、色々なしがらみや企みの数々を乗り越えて来たんだろう。


「変わるんだアレックス。いつまでも、子どものままじゃいられない。もう少しゆっくり大人にしてやりたかったんだが、どうもそうは言っていられないようだ。」


 ──僕はもっと強くならなきゃ。

 叔父さんを心配させないくらい。

 僕を利用しようとする人たちに、変な気をおこさせないくらい。


 海の水を出して攻撃出来ることはわかったんだし、もっといろいろ出来ないかな?

 そもそも攻撃開始が遅いんだよね。

 このスキルを、もっと極めなくちゃ!!


「わかったよ、叔父さん。僕はそういう人たちに狙われないように、狙われてもだいじょうぶになれるように、いっぱい頑張るよ。

 この力をもつ意味をもっと考えてみる。」


「ああ。お前ならきっとなれるさ。自分もみんなも守れる、強い男になれよ。」

 そう言って叔父さんは嬉しそうに笑った。

 僕はへへへ、と笑った。

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