冒険者の心得

第74話 冒険者ギルドへの報告

「わ、わ、私の領地は、その、かなり貧民の多い地域でして、あまり護衛に手をさけるほどの、その……。」


 それを聞いたカーマン子爵は汗ダラッダラで慌てだした。

 ……まあ、無理もないと思うよ。


 生活に必要なものには、税金をかけてないくらいだもんね。オーウェンズ伯爵令嬢を守る為の護衛騎士団を作る余裕はないと思う。


「護衛のことでしたら、気にしていただかなくとも結構ですわ。わたくしは大祖母さまからいただいた特別な護衛がおりますの。」

 とオフィーリア嬢は微笑んだ。


 むしろそれを聞いたカーマン子爵は、思わず、ヒッ!!と声をあげた。過去に王女が降嫁したことのあるオーウェンズ伯爵家は、伯爵の中ではかなり力があるんだよね。


 ましてや先代王の母君がつかわした特別な護衛……。つまり、王家の影がついてきているってことだもの。


 こう言ったらなんだけど、かなり貧乏なこの地域で、そんな特別な存在を連れた、王家の縁戚の貴族令嬢なんていたら、むしろ狙われるとしか思えないよね。


 王家の影の実力を、聞いたことすらない人たちからすれば、少数精鋭なんて、大したことないと思うに違いないよ。


 こんな静かな領地に、いきなり火種が投げ込まれたようなものだものね。

 驚くよね、そりゃあ……。


「そ、そうでございますか。

 それは、その、凄いことで……。」

 なんと言っていいのか分からず、汗を拭き拭き困っている様子だった。


 かと言って、カーマン子爵の立場で、それを断れる筈もなく、オフィーリア嬢はそのままこの地に住み着くことになったのだった。


「それでは、お先に失礼いたしますわね、アレックス様。明日からとても楽しみですわ。

 ここでの暮らしについて、色々と教えて下さいましね。」


 オフィーリア嬢がそう言って、専用の馬車で新しい我が家に帰って行った。

 途中でグレースさんが離席してたのは、家具とか揃える為だったんだろうな。


 ほんとに今日来てすぐに暮らし始めるだなんて……。こんな辺鄙な場所に、伯爵令嬢が気に入る家具なんて、売ってないと思うんだけど……。どうしたんだろ?


 僕の討伐したデビルスネークの数の報告と買い取りの為に、僕と叔父さんはもう少し冒険者ギルドに残ることになった。


 数が多いから直接解体場に持って行って、叔父さんがマジックバッグの中から出して、テーブルの上にドチャッと並べると、解体場の中が急に慌ただしくなった。


「すまん、これ全部査定は今日は無理だ。

 明後日また来てくれ。」

 明日も市場はお休みだからね。


 と思ったけど、冒険者ギルドはやってるみたい。だけど交代で休みを取るから、明日は人数が少ないんだって。


 明日は大きな町に出て、僕の弓を買いに行こうと叔父さんが言ってくれた。

 取り回しのいい、小さくて丈夫な弓のほうが、初心者の子どもにはいいからだそう。

 

 確かにそうだよね。大きくて重い弓を使うのは、相当筋力をつけないと難しいもんな。

 叔父さんの弓は小さいけど、叔父さん用だからとても重たいんだ。


 僕はまだ成長期だし、これからもっと大きくなるから、今の内に小さいサイズの弓矢に慣れておくのもいいかも。

 あと、矢も買わないとだ。


 そうだ!ヒルデ!

 ヒルデはどこだろう?冒険者ギルドに来たのは、ヒルデに会う目的もあったのに!


 ヒルデが討伐した分の、デビルスネークの尻尾を渡したかったんだけど、ヒルデはもう報告を済ませちゃったのか、冒険者ギルドの中を見回しても、中にいなかった。


 ヒルデの分のデビルスネークの尻尾を、討伐報告に加えて貰えないか、受付嬢のお姉さんにお願いしてみることにした。


 クエスト失敗と聞いていましたが、一部成功していたんですね、了解しました、と言って受け付けてくれた。よかった〜!


 後日ヒルデが冒険者ギルドに来たら、精算金額を渡してくれるらしい。ヒルデは既に報告済みだったから、言って良かったみたい。


 次の日じゃクエスト失敗になっちゃうみたいで、伝えていただいてよかったです、と受付嬢のお姉さんが教えてくれた


 僕とパーティーを組んでたら、完全成功プラス、冒険者レベルまでも上がってたらしいけど、後からパーティーを組んだことには、さすがに出来ないみたいだ。


 ちなみに僕は今回のデビルスネークの討伐で、HランクからGランクに上がることになった。ひとつずつしか上げられなくてごめんなさいね、と受付嬢に謝られてしまった。


 帰る道すがら、叔父さんが、僕の今のスキルについて、色々と聞いてきたから、僕は叔父さんに諸々報告がてら相談をした。


 ご飯を食べてお風呂に入ったら、ベッドに入って、レンジア、いる?と聞いてみた。すると、いない、と声が返ってくる。ふふ。


 オフィーリア嬢がこっちに来たから、オフィーリア嬢のところに戻るかと思ったんだけど、なぜかまだ僕のところにいるよう、指示をされているみたいだ。

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