第4話 アーノルドの目的

「エル……?」

 戦闘が終わり、一段落つくとエルがどこかを見ていた。


 ぼんやりとしている彼にアーノルドは話しかける。


「やはり皆攻撃魔法が使えるのですね……」

 少し離れたところにいる他のチームの戦闘を見ている、特に注目しているのは魔術師だ。


「使えれば便利だが、エルにそれは求めていないよ」

 アーノルドは自分も使えるし、エルが使えなくても別に構わない。

 探していた条件はもとから治癒師だ。


 あれから色んなチームを見たけれど、やはり男性の治癒師はどのパーティにもいない。


 エルに出会えたのは本当に奇跡だろう。


「どのようにしたら攻撃魔法を使えますか?」

 攻撃魔法を覚えたいということらしいが、改めて聞かれると説明が難しいなと、アーノルドは頭を捻る。


「必要なのは魔力や発想力、そして相性。エルが何と相性がいいかは俺にはわからないが」

 アーノルドが試しに手を出し、集中する。


 その手の前には淡く光る魔法陣が現れた。


「これは力を具現化する為の門だ、これと自分を繋ぎ、魔力を注ぐ。どんな敵を倒すか、どんな攻撃を仕掛けるか。最初は少しずつ、段々と慣れてきたら大きいものや強力なものを放てるようになる」

 たまたま空を飛んでいたハーピーに火球を放ち、撃ち落とす。


 ハーピーは声もなく焼き尽くされ、残ったのは命の結晶である魔石。それがカランと落ちた。


「素材が欲しいなら火系はお勧めしない。風系を覚えて貰えれば嬉しいかな?」

 目に見えない分風はイメージが難しいのだ。だが、エルはとても器用だからすぐ覚えられそうな気がする。


「イメージ、イメージ……」

 エルが目を瞑り手を出すと、その前に複数の魔法陣が現れた。


「はっ?」

 アーノルドの間の抜けた声がするが、集中したエルには聞こえない。


「行け」

 エルが命ずると見えない刃が、向かってきていたハーピー達をズタズタにする。


 気づけば撃ち落とされたハーピーの死骸が地面を埋め尽くしていた。


「治す事はしてましたが、壊すというのはこういうものですか……ちょっと爽快ですね」


「エル……?」

 黒い笑みにアーノルドが引いてしまう。


「失礼しました、アーノルド。貴重な助言のお陰で何とか攻撃魔法が出来ました。もっと練習して、あなたを巻き込まないように気をつけます」

 ニッコリ微笑むとエルは魔石回収に当たる。


「俺いらなくね?」

 エル一人でも充分やってけるのでは? とアーノルドは首を傾けていた。






 それからのエルは攻撃魔法に磨きをかけていき、お陰でよりいっそう進みが早くなった。


 魔法が効かない敵もいるため、そこはアーノルドの出番となる。


 エルの防御壁が敵の攻撃を完璧に防ぐので、アーノルドは危なげもなく敵に挑むことが出来た。


「凄いな……もうこんな所まで来れるなんて。深層まであと少しじゃないか」

 力が強く、素早い動きのワーウルフすら危なげ無く倒せる。


 怪我もほぼない。


「次は深層まで行けるよう、道具なども揃えよう。もう夜になるからな」

 エルは野営を好まない。


「贅沢ではありますが、夜はベッドで寝たいのです」

 と申し訳無さそうに言っていたが、それは今も変わらない。


 エルのいる宿はアーノルドや他の冒険者へよりもランクの高いところだ。


 そこについても他の者からよく思われてない一因ではあるが、本人の自由なのでアーノルドはとやかく言わない。


 ギルドの宿舎よりセキュリティもいいし、見目のいいエルが襲われる可能性も低くなる。


 ここまで強くなり冒険者として慣れてきても、まだエルが心配なのだ。






 翌日、深層に潜る手筈を整え、二人は買い物に出る。


 初めて見るものにエルは目を輝かせていた。


「此処から先はデュラハンとかリッチーなどの死霊系の高位モンスターもいるそうだ。充分気をつけて進まなければならないし、エルの魔力だよりになる。魔力回復の薬を買っておこう」

 エルが興味を示したようだ。


「高位の死霊系の魔物とは、どういったものなのですか?」


「ゾンビやゴーストと違い、魔法を扱ったりする。中には人語を介したり、自分の仲間を生き返らせてこちらにけしかけるのもいるな」


「生き返らせる? そこに魂は存在するのですか?」

 妙にエルが食いついてくる。


(死者を冒涜するな、とかか?)


「魔物の魔法はよくわからないが、魂があるようには思えないな。生き返った魔物は生前と動きも違うし、意思疎通も出来てないみたいだし」

 体が動いているだけで、厳密に生き返ったのかと問われたら難しい。


「そうですか……死者を生き返らせるなんて、やはり神しか出来ない事ですよね。当然です」

 エルはホッとしたのかため息をついた。


 神を信じる信仰心ってやつなのか?


 普通ならば神なんて言葉ちょっとやそっとじゃ出てこないと思う。


 教会で育ったエルはやはり少し考えが違うのだなと実感した。


「ここの魔石の魔力なら、もしかしたら死者をも生き返らせるかもしれないって噂もあるぞ」


「本当ですか?!」

 エルが今までにない大声を上げる。


「あくまで噂だけどそれくらい強いらしい。こんなバカでかいダンジョンで、人も魔物もいっぱいだ。あらゆる淀みと力があるんだろうな」

 ダンジョンというのは世の中の淀みと歪み、そして悪意と願いによって出来ている。


 魔石はそれらを純粋な力に変換して大きく強く、大きくなるのだ。


「あと話が後になって悪いんだが、俺はその魔石をどうしても手に入れたい。とある国へと献上する約束をしているんだ」


「国へ献上?」

 エルの表情が変わる。


「俺はその、とある国の王と約束している。その魔石を渡せばとあるものが貰えるんだ。それは俺にとってとても大事で、だからどうしても手に入れたい。充分な報酬は渡すつもりだが、足りない分は稼いでエルに必ず渡す、だから魔石は譲って欲しい」

 アーノルドは頭を下げた。


 その様子を見てエルは少し考え、アーノルドの肩に手を置く。


「アーノルドがいなければここまで来れませんでしたし、構いません。報酬はそこそこでいいですよ。絶対に手に入れられるように、頑張っていきましょう」

 エルはにこりと笑い、やる気を見せる。


 自分勝手なアーノルドの言い分は、ケンカになってもおかしくないものだが、エルはあっさりと了承した。


 未練も欲も感じられない表情だ。


「ありがとう、エル」

 アーノルドはエルの返事に安堵していた。








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