未知の戦術
お互いに丸一日を掛けて準備に費やした。
──次の日の朝──
「ガルム様!大変です!」
朝一で斥候が慌てて飛び込んできた。
昨日の深夜、闇夜に紛れて何とか近くまで忍び込み、情報を持ち帰ったのだ。
「おうっ!どうだった?」
ガルムもすでに起きており活力に満ち溢れていた。
「はっ!敵は森の高台に陣地を作っております!すでに兵達が休む野営地の周囲には丸太で作った防波堤が作られております!」
!?
斥候の報告に内心で驚いた。遠征軍は物資の問題から通常は短期決戦が普通である。
陣地を作り守りを堅めると言う事は長期戦を視野に入れていると言うことである。
今までの神炎騎士団とはまるで違う行動に驚くしかなかった。
「…………だが、俺達はやらなければならねぇんだ!」
ガルムは自分を鼓舞するように大声で命じた。
「全軍に通達!半刻後に総攻撃を開始する!準備を急がせろ!!!」
「はっ!了解致しました!!!」
ガルムもすぐに準備に取り掛かった。
そして、神炎騎士団の方でも準備を急いでいた。
「敵の行動が慌ただしいぞ!今度こそ攻めてくる気だ!急いで整列し、準備を整えろ!!!」
至る所で鎧の擦れる音が鳴り、皆忙しそうに動いていた。
「レグルスのお陰で簡易ではあるが、寝泊まりする場所に、取り囲むように丸太での壁を作り、急斜面には尖った杭を置いて騎馬兵の備えもできた。今日は登ってくる蛮族達を迎え討つぞ!!!」
「「はいっ!了解しました!!!」」
何重にも置かれた土豪に身を隠しながら弓隊は待機し、歩兵は整列して盾を構えて迎え討つ準備をしていた。
「いいか!こちらから無理に攻めなくてもよい!有利な立地をしっかり利用しろ!戦では高台を取った方が有利なのだ!向かってくる蛮族共を蹴散らしてやれっ!!!」
オオオオォォォォォ!!!!!!
高台からの声が聞こえてくる。
「…………ふざけんなっ!お前達!胸に刻め!俺達の民族の誇りを胸に敵を粉砕せよ!この一戦で、後ろにいる子供達の未来が決まる!!!決して奴隷などにさせるな!!!行くぞっ!!!!」
ウオオオォォォォォォオオオ!!!!!!!
神炎騎士団以上の声を張り上げ、遂に蛮族には攻めてきた。
「弓隊!構えーーーー!!!、放てっ!!!!!」
神炎騎士団の弓隊が登ってくる蛮族達に一斉に矢を発射した!
「隊列を乱すな!近付いて乱戦になれば討ってこれない!進めーーーーー!!!!」
蛮族達も隊列を整え進んできた。
そして、神炎騎士団は蛮族達の密集陣形に戸惑いを隠せなかった。
「な、なんだ!?あの隊列は!?」
見た事がない陣形だったのだ。
重装歩兵が鉄の大盾を前に突き出し、後方の歩兵が鉄の盾を頭上に掲げて進んできたのだ。
これでは余程の隙間を縫って矢を射ない限り鉄の盾で防がれてしまう。
そんな神炎騎士団が動揺する中、レグルスは無意識に敵の陣形を呟いた。
「…………あれは、ファランクス?」
レグルスの呟きをジャンヌは聞き逃さなかった。
「レグルス!あの陣形を知っているのか?」
「はい、何故だかわかりませんが、何となく頭に浮かんできて………あれは『ファランクス』と言う陣形で、別名【移動要塞】と呼ばれているものです。今回は鉄の盾で防御がメインですが、本来は槍を構えて移動する陣形ですね」
レグルスはおぼろげながらの知識を思い出しながら伝えた。
「弱点はないのか?」
「動きが遅いのと、重装備なのでぬかるみなどでは運用ができない事。側面と後方からの攻撃に弱いはずです」
!?
「よし、それでは騎馬隊で後方へ周り込み攻撃を仕掛ましょう!」
同じ幕僚のテントにいる司令官がジャンヌに進言したが、ジャンヌは首を振った。
「ダメだ!あのファランクスの後方を見よ!後詰めが控えている。ファランクス部隊を盾にして、通常装備の歩兵が続いている!騎馬隊は止められてしまうだろう」
すでに中腹まで進んで来ている蛮族にどうすれば!?と、一部の者は慌てていた。
「できれば取って置きたかったが、仕方がない。メビウス、頼めるか?」
「了解だよ」
数少ない魔導師を初めに使おうと言うのである。
メビウスは目の前に広がるファランクス部隊に向けて詠唱を始めた。
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