第140話

「あんたはアリオンなんだろ。親父はヴェリナスなんだろ。シュン君とは、翼の帝国で知り合ったんだろ。でも、それだって偶然じゃない。選んだんじゃなく、選ぶよう仕向けられたんだ。


事故の後、あんたの両親は自責の念から自分たちごと家を燃やし、あんたは父親の遺志を継いで、罪深い新薬開発の証拠をこの世から消そうとした。そのために関係者に近づく方法として、MMOを利用した」


違うかと問われてから黙すること数十秒、弥生はおとなしやかな目でこう言った。


「目が覚めたら、全てが終わった後でした」


さらさらと、肩までのつややかな髪が風もないのに揺れている。


肩口のあいたドレスを着た華奢な女性の後ろに、制服姿の江本弥生が二重写しになる。


視界がぶれて目が霞み、英理はまばたきを繰り返した。


「修学旅行の前の日、おやすみなさいと言ってベッドに入って、次に起きたのは翌々日の夕方でした。テレビのニュースで大騒ぎになって、久世の家に預けられて……その後のことは、よく覚えていません」


英理が反駁しようとすると、弥生は緩く頭を振った。


「薬を処方されていたのは、私たちのクラスだけだったんです。投与したクラスと、していないクラスを比較対照するためだと思います」


だから、異変は一組にしか起こらなかった。


英理たちや他のクラスには、本当にただのチョコレートしか与えられていなかったのだ。


「でも、だったらどうして、わざわざ江本さんのクラスを選んだんだ」


「多分、父は本気で新薬を素晴らしいものだと思っていたからだと思います」


弥生は淡々と語った。


「自分の娘に投与しても何ら問題はない。むしろ開発責任者だからこそ、いち早く娘に投薬することで薬の信頼性を自他に示し、私にとっても良い結果を生むと考えていたのだと」


「そんな理由で」


言葉が見当たらず、語尾がすぼんで立ち消える。


「私は父の失敗作でした。勉強も運動も、何もやってもだめで。おまけに新薬も体に合わないのか、気持ち悪くて吐いてしまうことが多くて。保君は、それを知って私の分を引き受けてくれるようになりました」


「あいつはチョコに何が入ってるか知ってたのか」


弥生は頷いた。


膝から力が抜けて、崩れ落ちそうだった。


「どうして……」

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