第52話

「それに、あの女さえいなければ人生は狂わなかったみたいなことを言う奴がいるけど、俺はあまりその言葉を信じてないんだ。身を持ち崩したのは、女のせいでもないことがほとんどだからな。

実際そういう奴は、その女じゃなくても別の女にはまるか、酒か博打にでも足をすくわれてるもんだ。


親父はそこまで馬鹿じゃないと思うが、もし本当に騙されてるんだとしたら、それは彼女を選んだ親父の責任であって、止めなかった俺たちのせいじゃない」


「そういうことを言ってるんじゃない」


思わず声を荒げると、有理はビールを飲んでいた手を止めた。


――どうして分からないんだ。親父も、兄貴も。


抑えようのない苛立ちが込み上げてくる。


このままじゃ駄目だと分かっているのに、何一つ止める手立てを持たない自分に。


「江本さんは……親父の手に負える相手じゃない」


英理は青ざめた顔で、きつく唇を噛みしめている。


尋常でない様子に有理が目を丸くし、テレビを消してこちらを凝視した。


「どういう意味だ」


真剣な表情で問い詰める。


「親父は知らないんだ。彼女、今、俺の会社で働いてる」


有理は目をみはった。

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