あつめる言葉

 集めるのが仕事、と男は言った。

 普段は商人を装っているので、町から町へと旅をしながら商品や材料を集めては他の町に卸す。

 この森にも仕入れの名目でやってきたらしい。


「俺が本当に集めるのは噂話や情報さ」


 集めるだけでなく、時に操り人間たちに流す。表向きは人間の王が治めるこの世界は、政策の都合で多種族を迫害した歴史もある。

 今は落ち着いた治世のようだけど、口が上手くて周囲に溶け込む才に長けた男は、余計な迫害や詮索を避けたい魔女たちの欲しい情報も拾ってくる。


 結界や罠も易々と越え、あれだけ気配を消すのが上手いなら、泥棒なんかも出来るんじゃないかと内心罵っていると、僕の顔色を読んだように嫌な感じでまた笑う。


「認識阻害の魔術が得意でな。頼まれて品物を拝借する、なんてこともある、な」

『僕を盗んだ?』

「いいえ、レピを連れてきたのはこいつじゃないわ」


 まあ、確かに殻の中で聞いた声とはずいぶん違う。

「あいつなら今頃全身這い回る痒みのせいで、発狂してるかもしれないわね」と、お師匠さまが怖いことを言う。地味に精神に作用する呪いって怖い。

 僕は小さく身震いして、テーブルを挟んで向かい合う二人にハーブティーを出した。


 隣に座って、「こいつ嫌い」と指だけで会話する。お師匠さまは苦笑いして宥めるように僕の手の甲を撫でた。

 そんな僕らの様子をしげしげと眺めていた男は、不思議そうに太い首を捻った。


「竜人は念話が使えるって聞いたことあるが……お前らはそうじゃないみたいだな」

「どうやらこの子はそれも奪われたみたいね」

「ふーん。そりゃ厄介だ」

「それで?お茶を飲みに来たわけじゃないんでしょう?何かわかったの?」

「相変わらずせっかちだな」


 相変わらずなんて言えるほど、旧知の仲だってのも気に入らない。僕とお師匠さまの平和な世界にずかずか入り込んできた闖入者は、我が物顔で過ぎた話を蒸し返す。


「お前優秀なのになあ。お師匠様にも言われてたろ?最後の最後で焦るから爆発するんだ」

「レピ、お客様はお帰りですって」

『はーい』

「待ーて待て待て、分かった分かった。話すから茶ぐらい飲ませろ」


 男は慌てて片手で僕らを制し、目の前に置かれたハーブティーを一気にあおった。

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