第12話「2022/10/08 ⑤」

 ぼくの唇とコヨミの唇が触れ合う直前、


『ご主人様、だめーー!!』


『貴様、お嬢様に何をするつもりだ?』


 ぼくは透過型ディスプレイに映るシヨタとキスをしていた。

 もちろんというか、案の定というか、コヨミはロリコとキスしていた。


 どうやらふたりは出る場所を間違えたらしかった。


「ウゲェェェッ!!」


「オボォォォッ!!」


 そんなまるで吐瀉物を吐くような声を上げたのは、ぼくやシヨタではなく、意外にもコヨミとロリコだった。


「君たち、女の子だよね?」


『お嬢様、なんてはしたない……』


 ぼくとシヨタがはじめて意見があった瞬間だったが、彼にはすぐに『ふん!』とそっぽを向かれてしまった。ま、別にいいけど。

 そんなことより、コヨミとロリコが大変なことになっていたからだった。


『だって、ご主人様! こんなあばずれ女にロリコのファーストキスを奪われたんですよ!!』


「イズくん! わたしのファーストキスをこんなエロみっともない女の子に……って、どこからどう見ても小学生の頃のわたしだ、チクショー!!」


 ロリコはともかく、コヨミまでが半泣きでご乱心だった。


「あー、うん、そうだね……」


 としか、ぼくには言えなかった。

 カウントしなければいいんじゃないかな、とはとてもじゃないけれど言えなかった。


『お嬢様、カウントしなければいいだけじゃないでしょうか?』


 おっ、やっぱり気が合うな、シヨタくん、とぼくが思っていると、


「そういう問題じゃないもん!」


 ロリコとシヨタには、コヨミからきついお仕置きが与えられた。

 例の稲妻のようなやつだった。


 透過型ディスプレイからふたりの姿が消えると、


「せっかくいい雰囲気だったのに」


 コヨミは少し残念そうに言うと、ぼくのベッドに寝転んだ。


「イズくん、今日はお昼寝だけしよ?

 わたしもゆうべはあまり眠れなかったから実は眠いんだ」


 ぼくたちはベッドに入ると、向かい合って手を繋いだ。


 コヨミがぼくに気を遣ってそう言ってくれたのか、本当に眠かったのかまではわからなかった。

 ぼくの方が先に、すぐに寝てしまったからだ。



 何だかとてもいい匂いがして目を覚ますと、ぼくはベッドの上でコヨミに膝枕をされていた。

 転んだら折れてしまいそうなくらい華奢な脚なのに、女の子の太ももはこんなに柔らかくて気持ちがいいということや、女の子はとてもいい匂いがすることをぼくははじめて知った。


「目が覚めた?」


「うん。今何時かな?」


 我ながら頭の悪い質問だった。

 加速した時の中にいることをすっかり忘れていたのだ。

 とはいえ、壁にかけられた(透過型ディスプレイに映る)時計は、一応1/24の速度でゆっくりと動いてはいたから、


「5時間くらいかな」


 コヨミはすぐに壁時計の分針や秒針から計算してくれた。


「そんなに寝ちゃったのか、ごめん」


 ぼくはあわてて頭を上げ、体を起こそうとしたが、


「だーめ」


 コヨミはぼくの頭を、その上半身で太ももに押さえつけた。

 ぼくの顔は彼女の太ももと胸に挟まれる形になってしまった。

 胸は下着をつけているはずなのに、素足の太ももよりも柔らかかった。


「ずっと夢だったの。イズくんにこうしてあげるの。こうしてもらうの、かな? だから、もう少し。ね?

 それに、わたしも少し前に目が覚めたばかりだから大丈夫だよ」


 もしかしたらコヨミはずっと膝枕をしてくれていたんじゃないか。

 ぼくが申し訳ない気持ちにならないように、自分も昼寝をしていたと、小さな嘘をついてくれているんじゃないか。

 そんなことをぼくは思ったけれど、顔だけをコヨミに向けて、もう少しだけこのまま膝枕をしてもらうことにした。


 ぼくはコヨミと一緒に、ふたりだけの時間を過ごせれば、どこで何をしたってきっと楽しくて仕方がなかったと思う。今だってすごく幸せだった。

 だけど、コヨミにとって、はじめてのデートがこんなデートでよかったのか、ぼくには疑問だった。


「あと18時間も一緒にいられるね」


 コヨミがとても嬉しそうにしてくれていたから、少しほっとした。

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