第28話 イスパニア
戦局が激しくなる中、私達一家は王宮に移り住む事となった。家庭教師のマリー先生の教育が次第に厳しくなっていく。
マリー先生、あなた一体何を目指しているの?
私と妹にどれだけ詰め込む気なんだ?
「エスメラルダ様、教養は力です。資産は奪われても教養は奪われません。戦局次第では王族といえど、どうなるかわかりません。自力で生きていける力を身につけるのです。」
成る程、その言葉がすとんと胸に落ちた。
今戦っているイスパニアに負けたなら、資産どころか命も危うい。命からがら逃げたとて、その後の経済基盤を築く為には教養は必須ということだ。イスパニアに滅ぼされた国は多い。その王族の末路は悲惨だ。
他国へ亡命出来たとしても、パーシヴァル様のように自力で這い上がっていかねばならない。
25年程前に現イスパニア総統クライストは、クーデターを起こしイスパニア王族を皆殺しにした。
いわゆる赤の王宮革命である。これにより王位を簒奪したクライストは、次にパーシヴァル様の故国ガリアに侵攻。その後も周辺諸国をどんどん併合していった。
その侵略のスピードは凄まじく、一度狙われたら太刀打ちできないといわれている。そして、その影でまことしやかに囁かれるある噂。
クライストは、アメリア女王以来の強大な魔力を手にしているらしい。
それが生まれもってのものなのか?もしくは、人為的に何らかの手段を用いて手に入れたものなのかは定かではない。
ただ、滅ぼされた国の王族は、みんな囚われて命を奪われているのだ。我が国の王族とて例外ではないだろう。
私は知っている。国王であるお祖父様が私達姉妹を安全な他国へ避難させようとしていた事を。
でもお母様がそれを断り王宮に入ったのだ。
お母様は、『戦局が厳しい中娘達を避難させる事はないし、私も主人も王都から逃げない。』といい放ったという。胆が据わりきった母、格好良し。
今、王族が逃げれば兵士が動揺する。兵士が動揺すれば、イスパニアにその隙を付かれてランスは総崩れになるだろう。
身体が弱い父は、戦局の分析の為に国王の側に侍っている。父は魔力もカリスマ性も全くないけど頭は切れる。一見柔和で優しげな父を舐めたらえらいことになると、老獪な宰相がいつか笑っていたのを思い出す。
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