第20話【番外編】ジャン視点5

休暇いっぱいを公爵家で過ごした。不思議なもので、最初はあんなにびびっていた広大な屋敷にも慣れた。というより、馴染んでしまった。


 自分の適応能力が怖い。



 出発前にミランダ嬢からサンルームに呼び出された。綺麗な花が咲き乱れていていい香りがする。日だまりが暖かくて心地いい。


 小さなミランダ嬢と視線を合わせる為に片膝をついた。うるうるした瞳が子猫みたいで可愛い。


 ふわふわの髪を撫でたい。



 公爵家で過ごした間、俺に懐いてくれたミランダ嬢が記憶の中の妹と重なって愛おしくてたまらなくなった。



 彼女は公爵家のご令嬢でいつか名門貴族のご令息やらと結婚とかする日が来るに違いない。考えると、胸にぽっかりと風穴が空いたように寂しく感じた。



「ジャン様の事、お兄様とお呼びしてもよろしくて?」


 おねだりするような口調が可愛らしい。



「もちろんだよ。」


 俺なんかが兄なんておこがましいが、呼んで貰えると嬉しいな。



「じゃあ、私の事はミランダと呼び捨てにして欲しいの。あと、もうひとつ大切なお願い聞いてくれる?お兄様。」


 胸の前で手を組んだ『お願い』のポーズが可愛すぎる。お兄ちゃんになんでもお願いするがいいミランダ。


 ミランダの為なら俺はお空の星も取れそうだ。



「ミランダは大きくなったら、お兄様のお嫁さんになるから、ミランダが大きくなるまで恋人を作らないって約束してくださる?」


 可愛すぎるだろー。これが世間の父親達が言われたいセリフNo.1の威力か。俺は一にもににもなく頷いた。


 どーせこの顔のせいでモテないしいいんだ、俺。


俺の癒しはミランダだけだよ。



「お兄様、ありがとう。大好き。ミランダと指切りしてくださる?」


 ミランダが差し出したちいさな白い指と俺の指を絡める。俺の指、貴婦人達からは美しすぎて男性らしくないと敬遠されるがこうしてミランダ嬢の指と並べば無骨に見えるじゃないか。鍛練は欠かさないから結構剣だこはあるんだぞ。


 


 どうせあと数年もすれば、こんな約束忘れちゃうんだろうけど、俺はミランダとの可愛らしい約束に癒されて士官学校に戻ったのだった。




⭐⭐⭐⭐⭐



 どよーん 



 空気が濁っている。なんだこの重苦しい空気は?



「妹としか思えないって…、言った。」



 エスメラルダ嬢の事か?それでいいんじゃないか?


パーシヴァル、お前の患ってる病は恋の病ではなく、ロリコン病だ。


 お前は見事、常識的判断を下したと思うが…。



「あの家庭教師、いきなり気配を表すとは…。」



 家庭教師って、あのマリー先生か。無表情で気配がないというか、魔力があるのかないのか、全く掴めない不思議な人だよな。


 だが、マリー先生が気配を現さなかったら、お前なんと言っていたんだ?何をするつもりだったんだ?


 


 俺にはその方が怖いぞ…。



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