第4話 バカが水着でやってくる!
「……おい、大神? その格好はなんだ?」
罰掃除として地域清掃ボランティアに参加させられることが決定して3日経った週末の日曜日。
熱々ごはんでデリジャスなパーティーに興じるご家庭に幸せの福音が降り注ぐ中、俺はどういうワケか参加生徒たちが集合する浜辺から少し離れた駐車場でデリシャスタンバイさせられたうえ、何故か俺を呼んだハズのヤマキティーチャーが頭痛を堪えるように片手で顔を
「どうかしたんですか先生? そんな疲れた顔をして? 発情期ですか?」
「どうかしているのはおまえの格好だ……。確かに先生は『浜辺に落ちているゴミを拾う』とは言った」
だがな、と先生はその自慢の筋肉をこれでもかと膨張させながら、叱りつけるように。
「誰が水着姿で来いと言った!? なんだその浮き輪とビーチボールは!? 遊ぶ気マンマンじゃないか!?」
「えっ? 違うんですか!?」
俺は持って来ていた浮き輪とビーチボールをギュッ、と抱きしめながら、思わず驚いたような声をあげてしまう。
そんな俺を見て、何故か逆に驚いた表情を浮かべるヤマキティーチャー。
「なんでそこでそんな驚いた顔ができるキサマ? 清掃ボランティアと言っておいただろうがっ! 服装は制服でいいんだ、このバカタレがっ! とりあえずその浮き輪とビーチボールを置け! この脳内
「制服でいいって……ハッ!? ま、まさか!?」
俺はしぶしぶビーチボールを足下に置いた瞬間、最悪の未来が頭によぎり、思わずヤマキティーチャーに食い掛かっていた。
「も、もしかして羊飼さんの水着姿は……」
「拝めるワケがないだろうがっ。清掃ボランティアだと言っているだろうに」
「ひ、ひどいっ! お、俺を騙したんですが先生っ!?」
「酷いのおまえの格好、いや頭だ……」
こ、このマッチョめ!?
俺は羊飼さんの水着姿を
どれくらい話が違うかと言えば、マッチングアプリで20代のピチピチヒップが目を惹く年上グラマーなお姉さんと連絡し、いざ待ち合わせ場所で待機してみれば、明らかに40オーバーの名うての
ほんとあの時は衝撃的だったなぁ……。
一体人生をドコでどう間違えたら親の年齢よりも年上の熟女とデートするハメになるのだろうか?
そんなに俺は前世で悪い事をしたのだろうか?
ちなみにそのマッチングアプリは、熟女の次に俺に『100人斬り余裕っすわぁ~♪』と言わんばかりの男性経験3ケタを誇る歩く性病の塊のようなコッテコテな百戦錬磨のヤリマンギャルを紹介してきたので、鬼軍曹が如き
ほんとあの時は『
あれ? 俺、何の話をしてたんだっけ? あれれ?
「――山崎先生。少し早いですが、ボランティアに参加する生徒は全員集合しました」
「おぉっ、羊飼! 報告ご苦労。先生もすぐそちらに向かうから、もう始めておいてくれ」
俺は1人「はて?」と首を捻っていると、今日も今日とて艶やかな黒髪が眩しい我らが女神、羊飼芽衣さまがヤマキティーチャーに声をかけていた。
相変わらず鈴の音を転がしたような軽やかな声だ。
ほんと彼女の声は聞いているだけで癒される……マイナスイオンとか出てない、アレ?
俺が女神さまの声音にうっとりしていると、羊飼さんは「それで」と困惑したような笑みを浮かべて俺を見てきた。
「その……どうして大神くんは水着姿なのでしょうか?」
「気にしないでくれ羊飼。コイツの頭は年中無休で常夏なんだ」
言外に「詮索するな」と口にするヤマキティーチャーに曖昧な笑みを浮かべて応える女神さま。
その苦笑いまで可愛いなぁ♪
どうする? 結婚する?
「軍手やら火バサミなんかの荷物は先生と大神が持って行くから、先に開会の挨拶だけ済ませておいてくれると助かる」
「わかりました。それでは失礼します」
ペコリッ、と俺たちに一礼した羊飼さんが、スタスタと他の生徒たちが集まっている浜辺へと帰って行く。
あぁ帰っちゃったよ、俺のマイ・スウィートエンジェル。
もっとお喋りしたかったなぁ……。
「ほら大神。いつまでも羊飼に見惚れていないで、荷物を車から降ろすぞ。手伝え」
目に見えてガッカリする俺が嬉しかったのか、ヤマキティーチャーは満面の笑みでポンッ!と俺の肩を叩いた。……腹立つな、この笑顔。
何をニコニコしてんだこのマッチョは?
その顔に俺のにっこにっこ
「ボーッ、とするな。キリキリ働け。行くぞ?」
「……へーい」
俺は意気揚々と歩いて行くヤマキティーチャーの後ろを肩を落としてトボトボと着いて行った。
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