第105話 コンビニとお酒
「はい、ここまでー」
コンビニの入り口前で、そう言って穂香は俺の腕から離れた。
その表情には悪戯な笑みを浮かべつつも、頬は赤く染まっているように見えたのは気のせいだろうか。
そのままコンビニへ入って行っていく穂香に続いて、俺もコンビニへ入った。
「んー、何食べようかなー」
「そうだな、結構迷うよな」
だよねーと言いながら、お弁当コーナーの前で睨めっこする穂香。
こうしていると、本当に彼氏彼女みたいに思えてきて、もう終わったはずの疑似彼氏役だったのについ意識してしまう自分がいた……。
「じゃあ、これにしよ」
そして穂香の選んだお弁当は、随分小ぶりなサイズのお弁当だった。
まぁ女の子だから、これぐらいあればいいのかもしれないが、正直男の俺からするとかなり物足りない分量だった。
「それだけで大丈夫?」
「え、これだけなんて言ってないよ?」
しかし穂香は、そう言って今度はおつまみコーナーへ移動する。
そのままいくつかおつまみをチョイスすると、それらもカゴの中へ入れた。
「彰も一緒に食べるんだからね?」
「え? あ、ああ、分かった」
俺は普通にとんかつ弁当を手にしていたが、それもあるならともうちょっと軽めの弁当をチョイスした。
「じゃああとは、お酒だよねー」
「え、飲むの?」
「だって、理由はどうあれみんなと一緒にいるのが嬉しいんだもん。大丈夫、わたしお酒強いから、もしクリスに何かあればすぐに駆けつけるから」
だから問題無いでしょと、一応俺に許可を得ようとする穂香。
まぁそれは、俺はまだ飲めないから全然任せてくれればいいし、飲みたいなら止める理由もない。
「分かった。でも、あまり飲み過ぎるなよ。二人の看病は無理だからね?」
「あはは、気を付けます」
そう言って穂香は、缶チューハイを二つだけカゴに入れた。
でもその片方は、アルコール濃度が濃いことで有名なあのお酒だった。
「俺も飲み物買うかな」
「あーあ、彰も一緒に飲めたら楽しそうなのになぁ」
「そうだな、来年まで待ってくれ」
さすがに法律を破るわけにはいかないからな。
こうして俺は、一応穂香とクリスの分も考え数本の水やお茶、それからスポーツドリンクをカゴに入れた。
それから最後に、クリス用におかゆや食べやすそうなものをいくつかチョイスして、レジへと向かった。
「ああ、ここは俺が払うよ」
「え? でも」
「いいからいいから」
「……じゃあ、うん。ありがとね」
そう言って穂香は、財布を引っ込めるとすっと俺の隣に並ぶ。
こうして近付かれると、穂香の体温が伝わってくるというか、ちょっと意識してしまう自分がいた。
お会計を済ませると、結構多くなってしまったレジ袋を持ちながらクリスの家へと戻る。
「大丈夫? 重くない?」
「重くないと言ったら嘘になる。でもこれぐらい大丈夫」
「なにそれ、微妙な回答だね」
俺のあるがままの回答に、吹き出すように笑い出す穂香。
「まぁ、そんなところが彰って感じだよね」
「なんだよそれ」
「気にしない気にしない」
そう言って穂香は、楽しそうに空いてる方の手にまた抱きついてくる。
「お、おい、もう疑似彼氏は終わったんだろ?」
「あははー、気にしない気にしない」
そんなわけで、俺は帰りも穂香の疑似彼氏役として一緒に戻ったのであった。
でもまさか、エレベーターの中でもくっついたままだとは思わず、外と密室では感覚が違ってドキドキしてしまう自分がいたのであった。
◇
「ふう、ただいまー」
クリスの家に戻った俺達は、とりあえずご飯の準備を始める。
とは言っても、今日は出来合いのものを買っただけなので、基本的にレンジでチンするだけ。
だから俺がその辺任されて、穂香は熱冷ましシート片手にクリスの様子を見に行った。
「うん、気持ち良さそうに寝てたよ」
「そうか、なら良かった」
ここへ来た時は、本当に体調悪そうにしていたクリス。
でも薬の効果もあってか、それほど大事ではなさそうで本当に良かった。
「俺もあとで寝顔見に行こうかな」
「何それ、変態」
「いやいや、言いすぎだろ。冗談だっての」
「どうだか」
疑うような目つきで、こっちを見てくる穂香。
そんなに疑われると、俺も気まずくなってくるんだけど……。
「まぁ、とりあえず飯にしよう」
「あ、じゃあわたしお酒も飲もうー」
ちょっと失礼と、嬉しそうに冷蔵庫からお酒を取り出す穂香。
そしてテーブルの上を一回片付けさせてもらって、弁当におつまみを並べる。
「じゃ、いただきますか」
「うん、いただきまーす」
こうして穂香と二人で、晩御飯を食べることとなった。
先にアルコール濃度の濃い方のお酒を手にした穂香は、そのままグビグビと美味しそうに飲んでいた。
本当に大丈夫かと思いつつも、ジュースを飲むようにケロっとしている穂香。
しかし、お酒というものは時間経過とともに回ってくるもののようで、弁当を食べ終えた頃には、穂香の顔はすっかり赤く染まってしまっているのであった――。
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