最終章-27【エルフ、魔人、竜、龍、母神】

少女Aが述べる。


「一人一殺ね。面白いは、少し見ていてあげましょうか」


言うと少女Aはエクトプラズムでソファーを作り出して優雅に腰かけた。観戦するつもりのようだ。


グレーターデーモンの一体は凶子に木刀で弾かれ家のなかに突っ込み姿を隠していた。残る四体の内、アンを殴り飛ばしたグレーターデーモンが三階の穴を見上げている。


「ならば我は、あのドラゴン娘を殺して魂を奪いましょうぞ」


グレーターデーモンの口調からして、人間のリボン娘に変化しているアンの正体がドラゴンだと悟っている様子だった。見かけだけでは騙されない確かな眼力を持ち合わせている。


それに、相手がドラゴンだと悟っていてもグレーターデーモンは臆していない。ドラゴン相手に堂々と戦おうとしている。


そして、三階の穴に向かって跳躍した。そのまま室内にグレーターデーモンが消える。


それを見ていた凶子が歩き出した。


「じゃあ、私はあいつを追うわね」


凶子は木刀を肩に背負いながらグレーターデーモンを突き飛ばして出来た穴に入って行く。


残り三体のグレーターデーモンが前に歩み出た。


「では、我々は、この三人をお相手いたしましょうぞ」


「このような人里で、珍しい組み合わせですな」


「魔人にドラゴンが二体も居ましたし、それにこちらの姫君は女神か天使か……。どちらにしろ人で有らず」


グレーターデーモンたちは悟っている。これから自分たちが相手にする存在たちが、人間で無いことを──。知っているのだ。感じ取っているのだ。相手が、魔人、ドラゴン、それ以上の存在だと言うことを──。


コキコキコキコキ……。


グレーターデーモンの一匹が首間接を鳴らしながら瞳を赤く光らせながら言った。


「中身が上位種族でも外見が幼女では、悪魔とて気が引ける。出来れば正体を表してもらえませんか。このままでは幼女虐待として、いわれの無い侮辱を受けてしまう」


幼女姿のテイアーが受け答える。


『すまぬが、これは現在私の実年齢の成りだ。精神年齢は数千歳だが、若返りの秘術で肉体は幼女と化している。これはまやかしの類いではないので、成りは戻せぬぞ』


「嘘偽りではないようですね。ならばお隣の御婦人は?」


ガイアが眠たそうな眼でグレーターデーモンを見上げながら述べる。


「ガイアは力を封印されているのだ。だから、今はこれが素の姿なのだ」


グレーターデーモンの身体から黒いオーラが揺らぎ出る。


「それは残念だ。ならば、幼女虐待の汚名は甘んじよう」


グレーターデーモンの一体が両手を前に突き出すと二つの魔法陣を空中に渦巻かせる。


「ダブルナパームボールで消し炭にしてくれるぞ!」


グレーターデーモンの前の魔法陣から炎が揺らぎ出ていた。それを見たメタルキャリアがガイアとテイアーの繋いだ手を離す。


「それじゃあ、ガイアちゃん、テイアーちゃん。おじさん、ちょっと行ってくるわー」


「『行ってら~」』


幼女二人が手を振った。するとフルプレートを纏った魔人が前に跳ねる。


重々しい跳躍だった。


「来るか魔人。焼き払ってやるぞ!!」


グレーターデーモンが両手から魔法を放った。二つの火球が放たれメタルキャリアに直撃すると大爆発する。周囲が灼熱の爆炎に包まれた。


「危ないっ!!」


咄嗟にゾディアックがマジックバリアーで魔法使いたちを包んだ。ドーム型の見えない壁が炎を妨げる。


「散れっ!!」


マッチョエルフたちも爆炎から逃れるためにバラバラに飛んだ。


爆炎はメタルキャリアを包むどころかガイアやテイアーまで包み込む。そして、次の瞬間であった。爆炎が一時停止を掛けた映像のように止まる。更なる次の瞬間には巻き戻された画像のように爆炎が縮みだした。


何故に爆炎が縮みだしたのか?


それは、グレーターデーモンが爆炎を口の中に吸い込んでいるのだ。巻き戻る爆炎からガイアとテイアーの姿が現れる。その姿は無傷。着ている洋服すら燃えていない。


そして、縮みだした爆炎の中からメタルキャリアが飛び出て来る。


「その程度の火力じゃあ、彼女たち二人どころか俺すら焼けないぞ」


「ほう、燃えぬか」


「それっ!!」


メタルキャリアのジャンピングパンチがグレーターデーモンの顔面に入った。グレーターデーモンが鼻血を散らしながら仰け反る。しかし、メタルキャリアが着地するのと同時にグレーターデーモンは体勢を戻した。


そして、反撃。


グレーターデーモンは打ち下ろしのフックをメタルキャリアの頭に叩き付けた。


脳天に拳がヒット。


ガキーーンっと金属音が響くとメタルキャリアの被っていたヘルムが一撃で粉砕された。メタルキャリアが前のめりによろめくとバラバラになったヘルムの下から麻袋を被った頭が出て来る。


「ほほう、焼かれても燃えない上に、殴られても砕けないか、魔人。普通なら頭が陥没して首が折れているぞ」


「防御力には自信が有ってね!」


不意を付いたメタルキャリアの左フック。だが、グレーターデーモンはスェーバックで容易く躱しながら述べる。


「しかし、スピードは遅いな」


「悪魔さんよ、短所が有るから長所が輝くんだぜ!」


フック、ストレート、更にソバット。連続してメタルキャリアが攻撃を繰り出すがグレーターデーモンはヒラヒラと蝶のように舞って攻撃を躱す。


「魔人にしては、スピードが無さすぎる!」


そして、蜂のように刺す。


グレーターデーモンがメタルキャリアの攻撃の隙間を付いてカウンターのジャブを打ち込んだ。フラッシュのような速い突き拳がメタルキャリアの顔面を取らえる。


刹那、ボギリッと粉砕音が轟いた。


砕けた。骨が砕けた音だ、


メタルキャリアの頭部がグラリと揺れる。だが、倒れない。


「まさに鋼鉄だな……」


グレーターデーモンが自分の拳を見ながら呟いた。その拳の指が二本折れていた。人差し指と中指が、第二間接のところから粉砕されて、骨が皮膚を突き破って剥き出しになっていた。ダラダラと血が流れ落ちている。


「殴られたほうが無傷で、殴ったほうが負傷するとは……」


「だから言っただろう。短所が有るから長所が輝くってさ~」


「ならば──」


グレーターデーモンの砕けた拳が形を変える。鋭利と尖り、美しく伸びた。手首から先が銀色のソードと化す。


「ならば、こちらも鋼となればよい話だ。この手刀は良く切れるぞ!」


「硬度の勝負、拳と鎧は、鎧の勝ち。今度は剣と鎧の勝負かい。面白いね~」


「斬り刻んでやる!!」


「へし折ってやる!!」


グレーターデーモンが手刀を振りかぶり襲いかかる。一方のメタルキャリアは体を開いて腰を落としながら身構えた。手刀を身体で受け止めるつもりだ。


「斬っ!!」


「来いやっ!!」


手刀は袈裟斬りのラインでメタルキャリアに打ち込まれた。そして、ガギンっと鈍い音を響かせる。


「切ったぞ!!」


「ぬっ……」


グレーターデーモンの手刀はメタルキャリアの肩口から入り胸元まで切り裂いていた。


剣が鎧を断つ。手刀が鋼鉄を切ったのだ。


「甘かったな、魔人よ。昔っから戦では、剣が鎧を断つ物なのだ。私の勝ちだ!!」


だが、グレーターデーモンが勝利の言葉を宣言した瞬間に、全身が鉄色に染まりだす。


「な、なんだ……。身体が動かない……」


やがて直ぐにグレーターデーモンはメタルキャリアの身体に手刀を振り下ろした体勢のまま銅像のように固まった。赤く輝いていた瞳の色も消える。


メタルキャリアが下がりながら身体から手刀を引き抜くと言う。


「わり~わり~、言い忘れていたわ~。俺の素肌に振れた輩は鋼鉄の伝染病に掛かるんだよね~。その剣、お前の手なんだろう。切ったついでに俺の素肌にさわっちゃったんだわな~」


そして、皆に見られている。メタルキャリアの鋼鉄感染病に汚染された者は、誰かに素肌を見られていると動けなくなる。故にグレーターデーモンはもう動けないだろう。




グレーターデーモン一体目vsメタルキャリア。


これにて、決着。


勝者、メタルキャリア。



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