20-15【第三試合、グフザクvsアスラン】

『続きまして第三試合、グフザク選手vsアスラン選手の対決です。両者ステージに上がってください!』


「よ~~し、やっと俺の出番だぜ!」


俺は右腕を肩からグルグルと回しながらステージに上がった。反対側からはリーゼントヘアーを整えながらグフザクの野郎が上がって来る。俺たちはステージ中央で向かい合う。グフザクの野郎は嫌らしく微笑んでいた。


第一試合の二人も、第二試合の二人も、凄い表情で睨み合っていたのに、こいつは俺を睨んでいない。俺も穏やかに微笑んでいた。凄む理由が無いからだ。何故なら、俺は負ける気満々だからだ。


こんな賞金も出ない貧相な大会で本気を出す理由が無い。むしろ勝ってしまったら、あのデラックスなデブお嬢様とくっ付けられてしまう。そんな面倒臭いことになりたくない。俺には超可愛らしいスバルちゃんが居るからな。浮気なんて禁物だ。だから、グフザクと本気で殴り合う気は無いのだ。もしも、本気で殴り合ったらこいつにだって簡単に勝てるしさ。


とにかくだ。負けるために初弾のパンチをなんとなく食らって場外まで飛んで転落負けをするつもりだ。それで、丸く収まる。


──に、しても……。


なんだ、こいつの嫌らしい笑みは?


グフザクの野郎はリラックスした表情で笑っていやがる。やる気が感じられない。闘争心も感じられない。まるで喧嘩祭りに、なんの興味も無いようだ。


それどころか勝利にすら感心が無い様子だ。まるで、俺のようである。


……もしかして、こいつも負けたいのか?


『それでは第三試合、開始です!!!』


進行役が叫ぶとゴングが鳴った。するとステージを囲む観客たちが一斉に沸き上がる。


そして、グフザクが威勢良く叫んだ。


「よーーし、冒険者野郎、俺の連続拳を食らいやがれ!!」


よし、来るぞ。予定通り初弾を食らって吹っ飛んでやるぞ!!


「オラオラオラオラ!!!」


叫ぶグフザクがパンチを連続で繰り出した。勢い、速度、連続性。どれを取っても凄まじいパンチの猛攻だっだ。


だが、どれ一つとしてパンチが俺に当たらない。俺は避けていないのに、パンチのほうから狙いを外すのだ。


「なかなかやるな。俺様の連続拳を躱すなんて!!」


「躱していないぞ。お前が勝手に外してるんじゃないか……」


やっぱりこいつも勝つ気が無いんだ。


「やろう……!」


俺は反撃のパンチを繰り出した。するとグフザクの連続拳が止まる。


「そぉ~~~らぁ~~~」


俺の繰り出したパンチはゆっくりだった。まるでガラパゴスゾウ亀のようなトロトロなパンチである。


そのスローモーションのパンチが届くのをグフザクの野郎は静止してまっていた。


「ごくりっ……」


グフザクが唾を飲んだ。こいつも俺のパンチがゆっくり過ぎて戸惑っているようだ。だが、そのゆっくりな俺のパンチがグフザクの頬に優しく触れた。


「っ…………」


「ぅ…………」


俺は拳を振り切らない。二秒か三秒だろうか、二人が固まっていた。


しかし、次の瞬間である。


「ぐぅわぁぁあああ、なんて凄いパンチだ。時間差で衝撃波か飛んできたぞ!」


「そんな効果は無いぞ!!」


グフザクは棒読みで説明掛かった台詞の後に、わざとらしく後方に飛んで行く。


こいつ、自分から飛んだぞ。自ら場外に落ちるつもりだ。


「させるか!!」


俺は走っていた。そして、グフザクの腕を掴んで引き止めた。場外に転落するのを阻止する。


「落ちるなんて、許さねえぞ!!」


「き、貴様っ!!」


俺は強く拳を握り締めて振りかぶった。今度の拳は、さっきのと違う。拳に殺気を宿らせながらグフザクを睨み付けた。怒りゲージ満タンである。


そして俺はグフザクを殺す気でフックを繰り出す。


「死ねっ!!」


「なにっ!!」


グフザクが俺の拳を屈んで躱した。パンチの気迫にビビったのだ。


今度のパンチは食らったら頭が吹っ飛ぶと悟ったのだろう。だが俺はパンチを空振りながら屈んだグフザクの上に乗っかった。


「うわ~、か~わ~さ~れ~た~」


そして、俺はグフザクを飛び越えるように場外を目指した。


よし、これで自然に場外に転落出来るぞ!!


「貴様、させるか!!!」


今度はグフザクの野郎が下から俺の身体に組み付いて来た。俺が頭を飛び越えるのを阻止する。


「テメー、やっぱり勝つ気が無いな!!」


「貴様こそ!!」


俺はグフザクを引き剥がそうとするが、なかなか離れない。


「強情な野郎だな、素直に勝ちやがれよ!!」


「テメーこそ、俺に構わず勝ち上がれよな!!」


俺たちの様子を見ていた観客たちが囁き出した。


「あいつら、もしかして、勝つ気が無いのか?」


「負けたいのかな?」


「優勝したら、あのデブと結婚だろ。そりゃあ勝ちたくなくなるよな……」


バレた。観客たちにバレたぞ。


『おお~~っと、どうやら二人は負けたいらしいぞ。これでは試合になりません。な~の~でぇ~、ルール変更です。この試合で負けたほうが準決勝進出といたします!!』


なに、またルール変更かよ!


しかも勝ったほうが負けられるのか!?


負けたほうが準決勝に進むのかよ!


「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」


いきなり俺の身体から手を離したグフザクが拳を連続で放ってきた。


「糞野郎が、急にやる気を出しやがったな!!」


しかし、俺は連続の拳を捌いて弾く。連続の拳は俺に一発もヒットしない。


「まだまだ加速するぜぇ!!」


パンチの回転率が加速していく。連打が早くなった。それでも、まだ捌ける。


捌くだけじゃあない。パンチの隙間を縫って反撃を打ち込めそうだ。


「カウンターだ!!」


俺はグフザクの連続拳の隙間を縫ってパンチを打ち込んだ。その素早い一撃がグフザクの顎先を捕らえる。


カツンっと微かな音が鳴った。するとグフザクの拳が止まる。


立ったままのグフザクが白目を剥いてフラ付いた。そのまま前のめりにダウンする。


「決まったな、ちょろいぜ!」


『おお~~っと、グフザク選手がダウンだ~。立てるか、立てないか!?』


立てんだろうさ。もう完全に意識は飛んでいる。


『立てない、グフザク選手立てないぞ。勝者アスラン選手。準決勝進出は敗者グフザク選手に決定だ!!』


なんて、酷い試合だろう。勝った者が敗北して、負けた者が勝ち残る。観客たちも冷めていた。ざわついているが、微塵も盛り上がっていない。壮絶に冷めた結果となってしまった。


俺は逃げるようにステージから降りる。観客たちの視線が痛いのだ。そして、俺は逃げるように会場を去った。



第三試合、グフザクvsアスラン。


勝者アスラン。


準決勝進出グフザク。


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