20-9【予選会バトルロイヤル】

『それでは、予選開始だ~~!!』


カンカンカンーーー!!!


喧嘩祭り予選会スタートの鐘が鳴り響く。一斉に外野席が沸き上がった。応援、声援、歓声が五月蝿く飛び交う。


「グフザクさん、がんばって~♡」


「ジェガンさま、素敵~~♡」


何やら黄色い声援も飛んでいるな。リーゼントの若い男が観客席に向かって手を振っている。あいつがグフザクかな。ただのヤンキーじゃんか。


確かにジェガンって野郎は王国の騎士団員だってペンスさんから聞いたよな。


あんなリーゼントのヤンキーが騎士団とは思えない。だから別の奴がジェガンだろう。あいつはグフザクだ。


んん~と……。


あのサラサラ七三野郎は真面目っぽいな。あいつがジェガンだろう。


ところで試合が始まったが誰も動かないぞ。予選参加者たちは、互いの様子を伺っている。結託して組むのが許されているのだ。単独で先に動いたほうが負けなのだろう。


すると一人のモブが周りの男たちに声を掛ける。


「まずは、ジオンググを皆で場外まで押し出そうぜ!」


「「「おおっ!」」」


モブ男の作戦に何人かのモブキャラたちが乗っかった。声を掛けたモブ男を先頭に、モブキャラたちが一斉にジオンググに飛び掛かって行く。


どれ、前回優勝者の実力でも拝見しますか~。


「「「「うらぁぁああああ!!!」」」」


正面から襲い掛かる四人の男たちを前に、ジオンググが拳を後ろに振りかぶった。モブたちに背を向ける。


「力を溜めているのか?」


大胆なテレホンパンチだな。完全に前を見ていない。


そして、振り返るように身体をスイングさせると巨大な拳骨を振るった。


凄い気迫と勢いだ。ド級のパンチだった。全力で振り返ったジオンググが振り返りのボディーブローを繰り出した。


そのパンチが声を掛けたモブキャラの胸板を強打する。


するとドンっと大型車のタイヤでもバットで殴ったような硬い音が轟いた。そして、ジオンググが大きな拳を力強く振り切る。


「破ッ!」


すると胸を殴られたモブ男が宙を舞う。その高さは2メートル。高く、遠くまで飛ばされる。


皆が殴られたモブキャラを見上げていた。俺もだ。


そのモブキャラの眼差しは既に死んでいた。涎を垂らしながら舞っている。そして、10メートルほど飛んで場外に転落した。


まさに一撃必殺のパンチだ。


観客たちが一斉に沸き上がるが、闘技場の上は無言で冷めていた。いや、引いている。


すぐさま進行役の男が転落したモブ男の安否を確認しに行く。


『担架、担架だ~!!』


どうやら生きてはいるようだな……。


でも、今の一撃を見ていた参加者たちはジオンググの周りから離れていった。


モブキャラたちがコソコソと話している。


「やっぱり、ジオンググは無視だな……」


「決勝トーナメントまで残ればキシリアお嬢様と見合いができるんだ。優勝しなくってもさ……」


早くも優勝を諦めた野郎どもが出やがった。


──に、しても、情けない。それにジオンググも腕を組んだまま動かないな。来ないなら攻めないってスタイルに入りやがったぞ。まさに王者気取りだよ。


「しゃあねえ、ここは俺も目立ちながら予選通過を目指そうか。ゴリ、ササビーさん、俺の後ろに引っ込んでな」


「アスラン、どうする気だ?」


「二人を決勝まで連れてってやるぞ」


「マジか?」


そして俺は目立つために衣類を脱ぎだした。全裸になる。すると観客席から黄色い悲鳴が沸き上がった。男はドヨメキ、女は喜んでいる。


俺は親指で自分の顔を指差しながら叫んだ。


「俺の名前は、ソロ冒険者のアスランだ。俺は予選を突破して優勝を目指すぞ。だから、我こそと思う奴は俺に掛かって気やがれ!!」


「なんだ、この全裸坊主。頭が可笑しいのか?」


「ただの変態じゃねえの?」


「とりあえずウザイから優しく押し出してやろうぜ」


三人のモブキャラたちが俺に近付いて来た。俺は機敏に動くと三人の股間を次々と蹴り上げる。


「ぐがっ!!」


「うぎゃ!!」


「ふごっ!!」


三人は股間を両手で押さえながらダウンする。その表情は地獄を覗き見ていた。


「なにすんだ、この糞餓鬼!!」


今度は五人のモブキャラたちが怒りの表情で俺に飛び掛かってきた。俺は掴み掛かろうとする野郎たちを躱しながら全員の股間を蹴り上げて行く。


「ぎぃあっ!!」


「ぷぽっ!!」


「きゃん!!」


「あふんっ!!」


「ぃいぃ……!!」


アッと言うまに俺の周辺には八人が股間を押さえながらダウンしていた。全員が悔しさと屈辱で顔を歪めている。ちょっと嬉しそうなのも居るな……。


だが、誰一人として立ち上がって来れない。


俺は堂々と腕を組みながら言った。


「俺は誰も押し出しなんてしないぜ。だが、俺に迫る野郎どもは、全員キャンタマを蹴り上げてやるからな。何度でもよ!!」


試合参加者も観客も全員引いた眼差して俺を見ていた。だが、これ以上俺に飛び掛かって来る野郎は居なかった。選手たちは全員怖じ気づいている。俺との実力差が理解できたのだろう。


一人のモブキャラが言う。


「しゃあない、ジオンググと変態坊主は無視だ……」


「そ、そうだな。変態が移るかも知れんしな……」


変態は移らないぞ。


そんな感じで俺とジオンググを避けるようにモブキャラたちの戦いが始まった。見ている限り、リーゼントヤンキーと巨漢の男、それに真面目そうな七三な若者が残りそうだ。


特に真面目そうな七三の若者は動きが違う。たぶん剣を習った経験がありそうな動きに見えた。もしかして、あいつが騎士団員のジェガンって野郎かな。


あれ、一人だけ女性が居るぞ。若いねーちゃんだ。女なのに拳で男たちを殴り飛ばしている。


おカッパヘアーの女性で二十歳くらいに伺える。俺は背後に居るゴリに訊いた。


「なあ、あのねーちゃんは誰だい?」


「あの人は鍛冶屋の娘さんだ。名前はグゲルグ姉さんだよ」


「女なのに勇ましいな~」


俺とゴリが話していると、俺の前にリーゼントのヤンキーが近寄って来た。


「残るは九人だ。あと一人場外に落ちたら終わりなんだがな」


俺はリングの上を眺めた。確かに九人だ。このリーゼント野郎が言う通りである。


俺は眼前のリーゼント野郎に名前を訊いた。


「あんた、名前は?」


「グフザクだ。この辺じゃあ連続拳のグフザクで通っている」


連続拳?


ダサ……。


ダサすぎる。


グフザクが言う。


「あと一人の脱落者は、お前ら三人の中から出てもらうぞ!」


「なんだと、ゴラァ!!」


俺が顎をしゃくらせながら声を怒鳴らせると、後ろからササビーさんが俺の肩を引いて止めた。


そして、俺の前にササビーさんが歩み出て来る。


ササビーさんは凛々しく言った。


「これは喧嘩祭りだ。男らしく最後は拳で決めようじゃあないか!」


「ササビー、オメーが俺と殴り合うのか!?」


「去年は予選でキミに押し出されたからな。その屈辱を返したい!」


「上等だ、この中年親父が!!」


「覚悟っ!!」


ササビーさんが構えを築いて前に出た。両拳を顔の前に並べてコンパクトに構える。強打を目論むインファイタースタイルだ。


「俺の連続拳を舐めるなよ!!」


グフザクが物凄い回転率で拳を連打し始めた。


「ガトリングパーーーンチ!!!」


怒涛の連続パンチだった。速すぎてパンチの隙間が見えない。残像でパンチが複数見えるのだ。


「オラオラオラオラ!!!!」


「ぐぅ………」


ササビーさんは防戦一方だった。ガードを固めて連打に耐える。耐えるが衝撃に押されて少しずつだが後退していた。このままでは押し出されるぞ。


不味いな……。


俺はパンチの連打を繰り出すグフザクの背後に回り込むと、後ろからグフザクの股間を蹴り上げた。


キャンタマ破壊!


キーーーンっと切ない音が鳴り響くとグフザクが股間を押さえて沈み混む。


「ぐぅぉおお……。貴様……」


そこで進行役のオヤジが声を張り上げた。


『勝負有り。決勝トーナメントに残った八名が決まりました!!』


「えっ?」


あれれ?


まだ、グフザクは場外に落ちていないぞ?


俺が疑問を抱きながら振り返ると、巨漢の男がモブキャラを場外に落としていた。


「あら、別の奴が脱落したのね……」


これで喧嘩祭り予選会が終了する。


残ったのは、俺、ゴリ、ササビーさん、前回優勝者のジオンググ、連続拳のグフザク、巨漢のビグザムル、王国騎士団のジェガン、鍛冶屋の娘グゲルグ姉さんだった。


最後に落とされた野郎が、去年三位の一人、気合いのズゴックスと言うオッサンであった。


この八名で、明日の昼から決勝トーナメントが行われる。


強豪が揃い踏みであった。


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