20-6【ゴリラの知人】
「なあ、ペンスさん。俺、ちょっと散歩がてら祭りの様子を見て回って来るわ~」
「ああ~、行ってらっしゃいな~」
ペンスさんは酒瓶でワインをラッパ飲みしながら言った。
俺たちは喧嘩祭りの会場を下見してからテントに戻ってきたのだが、暇をもて余したペンスさんだけが酒を飲み始めたのである。最初はペンスさんも俺に酒を進めていたのだが、飲めない俺が断固として断っていたら諦めて一人で飲み始めたのだ。流石に素面な俺は、酔っぱらいの話も聞き厭きたので、一人でぶらっとしようと考えたわけである。
そして俺はガルマルの町の中に入ると、屋台の品物を見物しながら闊歩していた。
流石は普通の町である。ソドムタウンと違って際どい服装の娼婦は見当たらない。祭りには子連れの家族も多いのだ。堂々と娼婦たちも客引きが出来ないのだろう。
そんな感じで俺が町中を一人でぶらぶらしていると、唐突に知った顔の人物たちに出くわした。行き交う人々に混ざって正面から鉢合わせしたのだ。
「あれ、お前は?」
それは、筋肉質な上半身にプレートメイルを纏って背中に戦斧を背負った禿げ頭の大男だった。その顔は、人類とは思えないほどのゴリラ顔である。
「ゴリじゃあねえか」
「あれ、アスラン。お前も祭りに来ていたのか?」
「お前こそ」
「俺はこの町の出身だからな。毎年祭りの時期には帰ってきているんだ」
「そうだったのか」
するとゴリの背後から別の顔が姿を表す。パンダゴーレム、ガイア、フルプレートメイルの男だ。
ガイアはパンダゴーレムとフルプレートメイルの男に挟まれながら両手を繋いでいた。まるでガイアは、夫婦二人に手を繋がれている娘のようだった。
「なんだ、ガイアも来ていたのか」
ゴリが答える。
「ガイアちゃんが祭りを見たいって言うから、ドクトルに許可を取って連れてきたんだ」
「このフルプレートは誰だ。ハイランダーズの誰かか?」
フルプレートメイルの男はヘルムの前で手を振りながら言った。
「ちゃいますよ。俺はメタルキャリアですがな~」
「なんだ、メタルキャリアか。お前も祭りが見たかったのか?」
「ちゃいますわ~。俺は土木作業なんてしたくないから、ガイアちゃんの子守りで来たんですわ~。重労働とか身体はった仕事は苦手でね~」
「人には得意不得意が有るんだな……」
こいつは土木よりも子守りのほうが楽なんだろう。保育士向きな魔人だな。
するとゴリが俺の肩を叩いてから言う。
「それにしても、お前がガルマルに来ているなんて思わなかったぞ」
「いや、本当はドズルルの町に向かっている最中だったんだがな。たまたま祭りに行き当たったんだ」
「ドズルルに向かうのか。あんな田舎町になんの用事だ? 仕事か?」
「ちょっと会いたい野郎が居てな。それで向かってたんだ」
「会いたい奴って、誰だい?」
「ギレンって言う呪術師だ。ゴリは知ってるか?」
「ああ、名前だけは知っているが、詳しく知らない。ただ、評判はあまり良くないな」
「どんな評判だ?」
「金次第で誰でも呪い殺すとか、呪いのアイテムを売っているとかかな。真相は知らんがな」
「そうなんだ~」
俺とゴリが道の真ん中で話していると、ガイアが不貞腐れたように言う。
「ゴリ~。私たちは、祭りを見て回ってて良いか~?」
「ああ、構わんぞ。満足したら俺の家に帰って来いよ」
「うん、分かった」
「メタルキャリア、面倒を頼むぜ。迷子になるなよ」
「任せておけ」
ガイアはメタルキャリアとパンダゴーレムの間でブランコに乗っているかのように振る舞いながら人混みに消えて行った。
「なんだ、ゴリ。この町に家が在るのか?」
「家って言っても実家だ。俺の親父は町外れで農夫をやってるんだ。小さいが家もある」
「両親も居るのか」
「なあ、アスラン。宿は取れているか。まだ取れてないなら俺の実家に泊まっていけよ」
「おお、その誘いは有難い。部屋が取れずにテントを張っていたんだ」
「なら、丁度良いな。今頃、お袋が晩飯を作っててくれているから、食べに来いよ」
「おお、それは有難い。くうくう」
こうして俺はゴリに連れられてゴリの実家に向かった。
まあテントはいいや。あとで回収しよう。
俺とゴリは、町を出て直ぐの家の前に立つ。そこは二階建ての大きな家だった。その家を見上げながら俺は呟いた。
「ぜんぜん小さくないじゃんか……。部屋は幾つあるんだよ」
「使われていない客間が三つだ」
「親父は農夫とか言ってなかったっけ……。なんで農夫がこんな大きな家に住めるんだ?」
「親父は、この辺の畑の地主だからな」
俺は周囲を見渡した。見渡す限り麦畑だ。
「この畑は、全部がお前の家の畑なのか?」
「殆ど人を雇って耕しているがな」
こいつ、ボンボンだったのか……。ゴリラ顔なのに……。
「まあ、家に上がって酒でも飲まないか。両親に紹介するからよ」
「酒は飲めんって、言ってるだろ」
「そうだったな。じゃあ飯だ」
俺はゴリに続いて家に入った。
「親父、お袋~。もう一人知り合いを連れてきたんだが、泊めてもいいかい」
ゴリの声に釣られて家の奥からオバサンが出て来る。
「ああ、ゴリや。構わないわよ。ウホウホ」
オバサンはニコリと微笑みながら言った。だが、その微笑みを見て俺は驚愕に固まった。
「かーちゃんもゴリラ顔かよ!!」
しかもウホウホ言ってたぞ!!
更に家の奥から父親だと思われる男性が現れた。
「ゴリのお友達かい?」
その人物の顔を見て俺は本日二度目の驚愕に固まった。
「父ちゃんは、美形かよ!!」
父親だと思われる親父は口髭を生やした美形の男性だった。どんだけ美形かと言えば、瞳が少女漫画のようにキラキラしているのだ。
「ゴリってかーちゃん似なんだな……」
「そうなんだ。昔っから良く言われるよ」
更に家の奥から少女が二人、賑やかに走って来る。
「お兄様、お客様ですか~」
「今度はどちら様ですの~」
俺は本日三度目の驚愕に固まった。その理由は、二人で仲良く駆けて来た少女たちの顔を見たからだ。
「なんだ、この瓜二つのゴリラたちは!?」
「ゴリラじゃあないぞ。妹たちは一卵性の双子なんだ」
「双子っ!!」
俺の硬直した身体は暫く動かなかった。それは、世にも恐ろしい双子の姉妹を目撃したからだ。
「なまら、かーちゃんの遺伝子が強すぎじゃねえか……」
ゴリラの遺伝子は最強なのか……。しかも双子のゴリラだよ……。
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