18-4【有象無象】
俺はアマデウス派の冒険者たちとソドムタウンのゲートの外に出ると、しばらく一緒に壁沿いを歩いて進んだ。
アマデウス派の冒険者たちは俺を囲んで歩いている。俺に背を向けて歩いている奴ら以外が俺のことを怖い顔で睨んでいた。
恨みがあって睨んでる顔じゃあないな。警戒しているのだろう。それだけ俺の実力も内外で認められてきているってことだろうさ。
「なあ──」
俺は前を歩く大男に声を掛けた。
「いったいどこまで行くんだ?」
大男はチラリと振り返ると言った。
「いいから黙ってついてこいよ」
「俺をボッコボコの袋にするんだろう。これだけの人数が居るんだからどこでもいいじゃんか。早くやろうぜ」
俺的には、さっさと揉め事をすませて皆と一緒に朝食を食べに行きたいんだよね。
どうせこいつらのレベルなら、全員ワンパンで終わりだからさ。
「ちっ……」
大男は舌打ちの後に言う。
「いいから黙ってついてこいよ。クラウドさんが待ってるんだから……」
「クラウドさん?」
クラウドさんって、あのクラウドだよな?
俺と以前、冒険に出掛けたところをリックディアスに騙されて荷物をガメられたクラウドだよな?
あいつはこいつらに「さん」をつけられるほどに偉くなったのか。あの甘ちゃん坊やが出世したもんだな~。
「もうそろそろ目的地につくから黙ってついてこいや」
「へいへい」
すると前方に木材置き場の建物が見えて来た。建物の前には沢山の大木が積まれている。その積まれた大木の前に、数人の冒険者風の一団が屯していた。
人数は六人だ。
また六人増えたぜ。これで三十人か……。あれ、15+6だから32か……。
いや、違う……。
え~と、本当は分かるんねっ!
足し算ぐらい出来るんねっ!
ただ今はちょっと慌てただけなんだよ!
ええい、足し算なんてどうでもいいや!!
それより積まれた大木の前に居るのはクラウドだな。白銀のプレートメイルなんて着込んじゃって、なんだかリッチになりやがってよ。
顔付きも凛々しくなってるじゃんか。間違いなく成長してやがるぞ。まあ、俺ほどじゃあないけれどね。
それよりも──。
クラウドの後ろに立ってる角刈りポニーテールの野郎は何者だ?
穏やかな顔をしているが、こいつが間違いなく一番強いぞ。とてつもなく強い気を放ってやがる。
フルプレートに腰にはロングソード。背中にカイトシールドを背負ってやがる。
こいつだけは、警戒しないとならんぞ。
「クラウドさん。アスランを連れてきたぜ」
「ああ、ご苦労さん……」
大男の言葉に答えたクラウドの声から勇ましさの他に暗い思いが伝わって来た。何か寂しげな声色だな。久々の再会を祝うって感じじゃあないぜ。
「やあ、アスラン君。久しぶりだね」
クラウドは微笑みながら言ったが、立ち姿に敵意が感じられた。
俺は真っ直ぐにクラウドの微笑みを見つめながら答える。
「そうだな、久しぶりだな、クラウド。元気だったか?」
「ああ、頗る元気だったとも」
クラウドは微笑みながら返すが、周りの男たちの表情は硬い。いつ剣を抜いても可笑しくない空気だ。
「それにしてもクラウド。随分と出世したみたいだな」
「ああ、今じゃあアマデウスさんの右腕を勤めさせてもらっているからね」
「右腕……」
可笑しいな?
クラウドよりも、後ろに居る角刈りポニーテール野郎のほうが明らかに強いはずだ。それなのにクラウドのほうが格上なのか?
まあ、いいか……。
「それでクラウド。俺に朝からなんのようだ?」
クラウドが明るい笑みで言う。
「ああ、ちょっとね。アスラン君に死んでもらいたくってさ」
おれは満面の笑みで返した。
「おいおい、そんな殺伐としたことを笑顔で言うなよな、クラウド」
「あははは~。すまない、アスラン君。これもすべてアマデウスさんの命令なんだ」
俺は笑顔を止めて真剣な眼光でクラウドを睨んだ。
「友達を殺す気か、クラウド?」
クラウドも微笑みを止めて真剣な眼光で俺を睨みながら答えた。
「僕はキミを友達だと考えたことは無い!」
殺気──。
クラウドからハッキリとした殺気が飛んで来る。その殺気が威圧となって俺の身体を押して来た。
マジだ──。
マジだぜ、このボンボン野郎が──。
マジで俺を殺す気でいやがる。
でも、なんだろう……。
殺気の奥に、何か寂しい色が見え隠れしてやがる。
迷いか──。
これは、クラウドの迷いだ。本心から俺を殺したがっているわけじゃあないんだな。
「命令とは言え、お前に俺が殺せるのか、クラウド?」
「命令じゃあなければ、僕は誰も殺さない!」
クラウドが後ろに下がって行く。すると俺の背後で鞘から剣を抜く狂気な音が聴こえてきた。アマデウス派の冒険者たちが剣を抜いたんだ。
背後でポツリポツリと殺気が沸き出す気配が感じられた。こいつらも俺を殺す気だな。
しゃあねえな~。
「面白い。受けてやるぜ、クラウド!」
「やれっ!!」
クラウドの掛け声と同時に数人の冒険者が俺の背後から飛び掛かって来た。
しかし俺は流れる体術の動きで右に身を躱す。すると俺の居た場所の地面を冒険者三名が様々な武器で叩いていた。
空振った三人が驚いている。
振り向かずにこいつらの攻撃を躱したんだ。そりゃあ、驚くわな。
「なにっ!?」
「消えたっ!?」
「違う、躱されたんだ!!」
雑魚たちには俺が消えた風に見えていたらしい。それだけ実力の差が開いているってことだ。
「驚いてる場合じゃあねえぜ!!」
俺は振りかぶった拳で一人の冒険者を狙う。
「パーーンチ!」
「フゴっ!」
俺のストレートパンチが一人の顔を横殴ると、パンチの勢いで飛んだ頭が隣の男の顔面に直撃した。それは頭と頭の玉突き衝突だった。殴られた男は顎が砕かれ、玉突き衝突された男は鼻を潰されて失神している。たった一発のパンチで二人の冒険者をKOしたのだ。
「おおう……。流石はスターメリケンサックだぜ。軽く殴ったのにこの威力か」
あれ、スターメリケンサックってプラス2だけれど威力向上は無かったよな。これは純粋に俺のパンチ力が凄いのかな。
そんな感じで俺がメリケンサックを眺めていると大男が激を飛ばす。
「アスランを打ち取った奴にはボーナスが出るぞ。みんな気合いブッ込んで行けや!」
「「「「おおーー!!」」」」
「はいはい、気合いが入ってますね。じゃあ、ブッ倒されたい奴から掛かって来な!」
「おらぁぁあああ!!!」
ロングソードを振りかぶった冒険者が一人で飛び掛かって来る。
馬鹿なぐらい勇ましいね~。だが、俺はそいつよりも早いダッシュで間合いを詰めた。
おそらくこいつ的には、一瞬で自分の目の前に俺がテレポートして来たように見えたんだろうな。
「がはっ……」
次の瞬間には、俺はそいつの金玉を膝で蹴り上げていた。
「ぐうぼおぉぉぅ~……」
男はロングソードを落とすと股間を押さえながら倒れ込む。その表情は苦悶に歪み口からは泡を吹いていた。
「はい、一丁あがりだ」
「嘗めやがって!!」
「何人かで、一斉に掛かるぞ!!」
「「「「おーー!!」」」」
今度は四人が四方向から同時に切りかかって来た。
だが俺は、一瞬のダッシュで前進すると、一人をぶん殴って突破口を切り開く。
俺は既に残りの三人の輪から離れていた。離れたついでに別の場所で武器を構えて立っていた関係無い二人をぶん殴ってKOしてしまう。
そしてスェーバックで三人の前に戻ると振り向き様のバックスピンブローで一人の頬を裏拳で張り倒した。俺の裏拳で殴られた野郎は錐揉みしながら飛んで行く。
更にバックスピンブローの勢いを殺さずに大振りのフックで一人の顔面を打ち殴った。そいつも錐揉みしながら飛んで行く。
更に更にと今度はフルスイングのアッパーカットだ。
眼前で仲間が錐揉みしながら飛んで行く光景を唖然としながら見ていた野郎の顎をカチ上げた。アッパーが命中すると同時に全力で腕を振り切ると、顎を殴られた野郎が宙に浮き上がる。
「高く飛んだなぁ~」
顎をカチ上げられた男は1メートルぐらい足が地面から離れたかな。そして、空中で一回転すると頭から地面に落ちる。一人バックドロップ状態である。
「この糞が!!」
続いて盗賊風の女が腰のベルトからダガーを抜くと、少し離れた場所から投擲して来た。
「はっ!!」
「よっと~」
俺は投擲されたダガーの柄を掴んでキャッチすると、今度は女盗賊目掛けてダガーを投げ返す。
そして、投げ返したダガーで女盗賊のベルトを切り裂いてやった。
「キャッ!!」
ベルトと一緒に女盗賊のズボンが落ちる。しかし、見えたのはボクサーパンツだった。
年増で賞味期限が切れ掛かってるのに、エロイスケスケパンツの一つも履けないのか!!
なんて残念な女盗賊だよ!!
恥を知れ、恥を!!
だからいつまで経っても名も無いモブキャラなんだよ。
俺の怒りを余所に、唖然とした表情で大男が呟く。
「嘘だろ……」
俺はたった一歩の踏み込みで大男の前に移動すると、大男に正面から抱きついた。
「本当だよ」
「ぬはっ、動けない!!」
俺は大男の両腕ごと身体をベアハッグで掴んでいた。そして、嘘のような怪力で絞め上げる。
「うがあぁぁあぁぁ……」
俺の両手は大男の背後でクラッチしていなかったが、それでも大男に力で勝っていた。
「な、なんて、パワーだ……!」
「力は身体の大きさだけでは決まらないんだぜ」
そう言ってから大男の巨漢を持ち上げる。
そのままの
ドゴンっ!!
「ふにっ!!」
頭から地面に叩きつけられた大男が変な声を漏らしていた。投げた俺は立ち上がったが、投げられた大男は立ち上がって来ない。受け身は取れてなかったようだから気絶したみたいだ。
「に、逃げろ。こんな変態に勝てるかよ!!」
一人が叫んで逃げ出すと、残りの冒険者たちも続いて逃げ出した。その光景はまさに蜘蛛の子を散らすって奴である。
「だーれーがー変態だ!?」
怒鳴る俺の周りに数人の気絶した冒険者たちだけが残る。
後は───。
「やっぱり、あんな雑魚どもじゃあ無理か」
述べたのはクラウドだった。
逃げなかったのは、クラウドと角刈りポニーテールの野郎だけだ。そのクラウドが鞘から剣を抜いた。
ロングソードより、少し長いな。バスタードソードってやつだな。
「やっぱりアスラン君を斬れるのは、僕だけのようだね」
「クラウド、お前……。俺に勝てる気でいるのか?」
バスタードソードを両手で確りと構えたクラウドが真剣な眼差しで言う。
「勝てるか勝てないかだと、今はまだ勝てないかも知れない……」
「勝てないと知ってて挑むのか?」
「いずれ勝てると知ってるから挑むのだよ、アスラン君」
何を言ってるんだ、こいつ。ワケワカメだわ。頭が可笑しくなったのかな。
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