16-2【金塊の禁欲】

魔王城前の森の中で、俺と凶介で金塊を埋めては掘り返し、埋めては掘り返しを繰り返していた。


指先程度の大きさの金塊がドンドンと増えていく。


二つが四つに、四つが八つに、八つが十六に──。


十六個が三十四個に──。


んん?


埋めては掘り返し、埋めては掘り返し──。


あっと言うまに金塊が倍々に増えていく。


「凶介、これは凄いな……」


「ですよね、アスランの兄貴……」


俺は掘り出された金塊の山を両手に持って眺めた。


もう何個に増えたかも分からない。持ちきれない程の金塊だ。


ただ、これは警戒が必要だと思う。


財力は人を狂わせる。


どんな善人でも、多額のお金をいきなり掴めば人格が変貌する場合も少なくない。


ここに居る凶介だって、この機能を最初に気付いてから俺に報告するまでの間に、ソドムタウンでゴージャスに遊んでしまったぐらいだ。


だが、神々のスコップを持ち逃げしなかっただけ誉めてやりたい。


これもすべて俺の人望の高さがなしえた功績が大きいのだろう。


うんうん、たぶんそうだ。


「なあ、凶介……」


「なんすか、兄貴?」


「お前、金に目が繰らんで俺を裏切らないよな?」


俺が確認すると、凶介が胸の前で両腕を組んで少し考えた。小首を傾げて唸っている。


そして、考えが纏まったのか意思を語る。


「アスランの兄貴、俺が兄貴を裏切るわけないじゃあないですか!」


「お前、今少し考えたよね?」


「考えてません!」


「本当?」


「本当です!!」


「本当に本当?」


「…………」


凶介が黙る。


俺は沈黙を威圧的な視線に代えて凶介の瞳を凝視した。


すると、いたたまれなくなった凶介が視線を逸らしてゲロった。


「…………ちょっと考えました」


「正直だな、おい……」


「すんません……」


俺は両手で凶介の両肩を掴んで語った。


「なあ、凶介。このスコップに関しては俺たち二人の秘密だ。何故か分かるか?」


誠実な視線で凶介が俺の瞳を見詰めながら答えた。


「大体は……」


でも、何故か喉に魚の骨が引っ掛かっているような歯切れの悪い返事だった。


俺は更に目力を強めて言う。


「金は人の目を眩ます。欲望は人を狂わす。このスコップの存在が他の人間に知れれば争いが始まるぞ」


「争い……」


「スコップを巡って奪い合いだ」


「奪い合いの争い……」


「このスコップのもたらす規模からして、喧嘩レベルじゃあねえぞ。それは戦争レベルだ。下手をしたら世界大戦レベルの戦争になるぞ!」


「せ、世界大戦……」


凶介が喉をゴクリと鳴らして唾を飲む。


「だから、このスコップの存在は、誰にも知られてはならないんだ……」


「分かりました。このスコップを封印するのですね。兄貴の異次元宝物庫に入れてしまえば誰も引き出せません。兄貴以外には……」


「封印?」


「はい……」


このヤンキーエルフは何を言い出してんだ。やっぱり凶介は馬鹿である。


俺はサラリと言った。


「そこまでする気は無いぞ」


「えっ?」


凶介はキョトンとしてしまう。俺が言い出した意味が理解出来ていない様子である。


「まずは一財産築いてからだ」


「は、はあ……」


凶介が気の無い返事を溢した。


それでも俺はテンションを上げて話を続ける。


「これで一財産築いて、魔王城の町をガンガンと築くんだよ!!」


「は、はあ……」


「だからお前は無限に金塊を増幅しろ。掘って埋めて、また掘り返せ!!」


「は、はあ……」


「いいか、この金塊は見た目が同じだ。だから金塊は溶かしてから市場に流せよ。宝石類は複製するな、足が尽きやすいからな!!」


「は、はあ……」


「とにかく警戒だ。警戒心を研ぎ澄まして作業しろよ。誰にも気付かれないようにだ!!」


「は、はあ……」


「そして一財産築いたら、その金で作業員を沢山雇って一気に町を作り上げるぞ!!」


「は、はあ……」


「これでしばらくはお金に困らないぜ!!」


「は、はあ……」


お金の心配が無くなった。これであと必要なのは人脈だ。


お金を積めば容易く町を築けるが、町を維持するならば人脈が大切だろう。


そう、マネーパワーだけに頼っていたら足元を掬われる。


「凶介、とりあえず金塊を樽一杯の二つ分ほど作ってくれ」


「は、はい……」


「一樽は俺に、もう一樽はお前にやるぞ」


「マジっすか!?」


凶介の表情が歓喜に輝く。エルフでも金欲はあるんだな。


「それでお前はエルフの村に貢献してやれ」


「はい!」


「その金で俺は魔王城を復元させるからよ」


「一石二鳥ですね!」


「それで一旦スコップは封印する」


「やっぱり封印するんですか?」


「こう言うアイテムは、使いすぎると災いになりやすいからな。程々に使うか、ピンチのみの使用だ」


「俺も、そのほうがいいと思うッす」


俺は微笑みながら凶介の肩を叩いた。


「思ったよりも、俺たちって小心者なのかな?」


「俺には家族が居ますから。親父や妹の凶子を泣かせられません……」


「家族か~……」


俺の頭の中にも何人かの顔が思い浮かんだ。


スカル姉さん、スバルちゃん、その他の面々……。


皆、血が繋がっていない。


でも、一緒に飯を食い、同じ屋根の下で寝て、一緒に暮らして、一緒の飯を食っているんだ。


あっ、飯を二回言ったな──。


まあ、とにかくだ。


それって、家族なのかな?


家族だといいな。


「とにかくだ。凶介、俺はお前も家族だと思ってるからな。信じているぞ」


「アスランの兄貴……。俺も兄貴を本当の兄貴だと思っていやすから!」


凶介が俺の言葉に感動している。まったく単純なヤンキーだぜ。


「そうか……。だが、俺が凶子と結婚したら、お前を兄貴と呼ぶかもしれないがな」


「それはダメでしょう。妹は兄貴みたいな変態の嫁には出せませんよ!!」


「誰が変態だ!!」


「兄貴が!」


「きぃーーーー、こんにゃろう!!」


俺は凶介に掴み掛かりリーゼントをグシャグシャにしてやった。




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