第十四章【太陽のモンスター編】
14-1【新診療所完成】
俺が魔王城からソドムタウンのログハウスに帰って来ると、ゴリたちが引っ越しの荷作りを行っていた。
ゴリ、バイマン、オアイドスたちが中心で荷物を運び出しては荷馬車に積み込んでいる。
それをスカル姉さんが大将気取りで指示していた。
ガイアはパンダと遊んでばかりで手伝う気は無いようだ。
「はーい、それは要らない。それは持ってくわよ!」
「スカル姉さん、この熊の置物は要る物か~い?」
「それは要らないわ。ゾディアックが王都土産に買ってきた要らない物だから捨てて良いわよ」
「スカル姉さん、このスライムが入ってる筒は要るのかい?」
「それはオアイドスの私物でしょう。彼に訊いてみなさい」
「オアイドス、これ要るのか?」
「それは私のジョセヒィーヌ。当然連れていきますよ」
「そうか……」
そんな騒がしいログハウスの外では大工たちが破壊された天井を修復作業に取り組んでいた。
トンテンカンテンっと金槌を振るう音が騒がしい。
「よー、スカル姉さん、おはよう~」
「ああ、アスランか、おはよう」
「もしかして、引っ越しの荷作りってことは、ソドムタウン内の診療所が完成したのか?」
「そうよ。だからこれから引っ越しなの。これで一階に作った転送絨毯の大部屋から職人たちを魔王城に送れるわよ」
「おお、マジか!」
でもまだ俺の大型転送絨毯は完成していない。
今俺が持っている大型転送絨毯は試作品の借り物だ。
しかも転送時の合言葉がムカツクからあまり使いたくない。
「でも、私たちもだいぶ貯金を使ったわ。そんなに職人を雇うお金も無いわよ。それが問題ね」
「資金不足ってことか?」
「あとはスポンサーたちがどれだけ資金を融通してくれるかだわ」
スポンサーか~。
商人ギルドを仕切りたいワイズマン商会。
各支部を作りたがってる冒険者ギルド、魔法使いギルド、盗賊ギルド、それに教会。
あとは姉妹都市契約を結びたがっているポラリス。
お金を出してくれそうなスポンサーはこれだけだ。
やはりこれだけでは財政的に足りないか。
各ギルドは自分たちの支部を建てるだけの資金しか出さないだろう。
魔王城の修繕作業や石橋の修繕作業で掛かる代金は出してくれんだろうさ。
それに町の道作りや防壁作り、水路だって作らなければならない。
更に言えば民家もたくさん建てて分譲しないと人は集まらんだろう。
だから、人をたくさん雇う金なんてないぞ。
俺一人で冒険してても稼ぎ出せない金額だ。
そんな感じで俺が悩んでいるとゴリが話し掛けてくる。
「おい、アスラン。これを馬車に積んでくれ」
ゴリがパンパンに詰まったバックパックを投げてくる。
俺はそれを受け取ると荷馬車の荷台に乗った。
「なんだ、この積みかたは?」
荷馬車に乗せられた荷物が乱雑に積まれていた。
かなり効率の悪い有り様である。
積み込んだのはオアイドスのようだ。
オアイドスが言い訳をする。
「いや、渡された物を順々に積んだだけだぞ?」
「これだと一回で引っ越しが終わらないじゃあないか」
そのぐらい積みかたが雑に見えた。
「いやいや二回に別けて運ぶつもりなんだけど?」
「一回全部降ろせ、積み直しだ!」
「ええーー……」
「いいから降ろせよ!!」
俺とオアイドスで一度積まれた荷物を降ろして積み直した。
そして作業が終わったころにはオアイドスが感心の言葉を漏らす。
「凄いな、本当に一回で全部積めたよ……」
「だから言っただろ」
俺は自分の言葉に驚いた。
あれ、これってもしかして、荷物運搬スキルが発動していたのか!?
【荷物運搬スキルLv1】
荷物の積み込みから運搬まで効率良く行えるようになる。
やっぱりスキルってスゲーなー……。
俺が自画自賛していると、皆が馬車に乗り込んだ。
ゴリが馭者を勤める。
馬車が走り出すと、その後ろをシルバーウルフたちが列を成してついて来る。
「なかなかの行列だな」
俺は荷馬車の荷台に腰掛けながら麦畑が広がる景色を眺めると、ほのぼのと一時の急速を堪能していた。
青い空、爽やかな風、喉かな空気。
なんか、久々に心が休まる気分だった。
すると俺の隣にスカル姉さんがやって来た。
膝を抱えて座り込む。
そしてスカル姉さんが質問してきた。
「ところで、魔王城にはもう引っ越しできるんだな、アスラン」
「えっ、なんで。急ぐの?」
「なんでって、診療所には、お前らの部屋は無いぞ。当然ながらシルバーウルフたちを飼うスペースも無いぞ」
「えっ、マジで……」
俺、ゴリ、バイマン、オアイドスがスカル姉さんを見た。
スカル姉さんが言う。
「診療所には、私とガイアちゃんの部屋しかないんだが」
ボケーっとした眼差しでガイアがVサインを作っていた。
俺がゴリに言う。
「ゴリ、馬車を引き返せ。ログハウスに帰るぞ!」
「了解!」
しかしスカル姉さんの追い討ちが続く。
「ログハウスの契約も解除したが」
「マジ……?」
「だから戻っても住めないぞ」
「じゃあ、俺たちはどこで寝泊まりしろと!?」
「魔王城で寝泊まりしろよ」
「まだ魔王城には住めないよ!」
「えっ、そうなの。だって魔王城の幽霊を退治したんだろ?」
「修繕や掃除だって必要だし、まだ石橋だって渡れないじゃあねえか!」
「じゃあ、野宿だな。テントなら人数分あるから問題無いだろ?」
ゴリたち三人が声を揃えて「酷い……」っと呟いた。
「スカル姉さん、あんた鬼だな……」
「よく言われるわ」
開き直りやがったぞ、このペチャパイ女が!!
「まあ、荷物を預かるスペースはあるから、当面の住みかは自分たちでなんとかしな。いつまでも私ばかりを頼るんじゃあないわよ」
「うぐぅ……」
頼るなって言われると、頼りきっている身として何も言えない。
俺たちは完成した診療所に到着すると荷物を降ろした。
男たちの荷物は僅かだったので、大型転送絨毯を敷く予定の大広間に置く。
その広間を見てオアイドスがボソリと言った。
「ここで俺たちは寝泊まりできないか?」
部屋は10メートル四方の大きい部屋だ。
確かに男四人に狼が九匹で、寝泊まり出来ないスペースでもないだろう。
だが、かなり狭くなるだろうさ。
バイマンが相槌を入れる。
「うんうん、ここで寝泊まりできるよね」
俺と並んで立っていたゴリが耳打ちしてきた。
「流石は貧乏暮らしが長い連中は、精神的に図太いな……」
「まあ、あいつらの話も一理有る。新しい住まいが見つかるまでここで我慢しよう。どうせグラブルが大型転送絨毯を完成させるまで、ここは使わない部屋なんだからさ」
この部屋には大型転送絨毯が敷かれる予定だ。
その大型転送絨毯は、先日グラブルが俺に貸してくれた大型転送絨毯よりも大きいそうな。
それが完成したら、ソドムタウンと魔王城の交通が開始される。
それまでこの部屋は使われない。
もしも、ここが転送絨毯の部屋になれば人が多く往来するのだ。
そうなれば流石にこの部屋で寝泊まりは無理だろう。
まあ、それまでに住みかを見つければ良い話なのだ。
それまでの我慢である。
すると女体化したグラブルが突然空から訪問してきた。
人型のグラブルは女体化した背中にドラゴンの翼を歯やし、一目も憚らずに空から診療所の前に着陸したのだ。
その姿を見た通行人たちが目を丸くして驚いていたがグラブル本人は気にもしていない。
来訪者は明るく言う。
「アスラン、お待たせ。大型転送絨毯が完成したぞ」
なに、この馬鹿ドラゴン!!
空気を読めよ!!
通行人たちがめっちゃ騒いでるやん!!
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