13-21【人生経験の経験値】

俺と全裸パーティーたちが、トリンドルの塔の屋上からクインクレイクロスボウ改めバリスタを、魔王城前まで運搬し終わったのは日が暮れたころだった。


もう空が暗い。


運搬作業の始まり直後から一人欠番となったために若干だが作業が長引いたのだ。


しかし、バリスタの代金5000Gが恋人紹介と言う案件で浮いたのはありがたい話であった。


トリンドルの奴がスケベで本当に助かったぜ。


あとはマヌカビーさんが干からびないのを祈るばかりだ。


南無南無……。


そして、バリスタの設置作業が終わる。


「よし、ボルトで固定したぞい!」


工具を持った手で汗を拭ったサンジェルマンが言った。


首には手拭いを下げているが、何故か全裸だ。


他の作業をこなしていたパーティーメンバーも全裸である。


まあ、全裸はいつものことだ。


もう珍しくもないだろう。


それにしても流石は熟練された年頃の多い全裸パーティーだぜ。


下手な職人たちよりも仕事が速い。


正直冒険者にしておくのが勿体ないぐらいだ。


そして、バリスタは半壊した石橋の上に設置された。


2メートルほどの台座を作って、その上にバリスタを設置したのだ。


石橋の高さは約25メートル。


更に台座で高さを増したバリスタの射程範囲は広い。


これならだいぶ湖を射程範囲に収められるだろう。


「サンキュー、おっさんたち」


俺は全裸パーティーにお礼を述べた。


「これでシロナガスワニクジラだってバッチリ狩れるだろうさ! わはっはっはっ!!」


サンジェルマンがバリスタをペシペシと叩きながら豪快に笑った。


「じゃあ、日も暮れ始めたからソドムタウンに帰ろうか」


「そうだな、アスラン!」


俺たちは石橋の上に建てられたテントの中に入って行った。


テントの中には小型の転送絨毯が敷かれている。


俺たちはゾロゾロとソドムタウンに帰還して行く。


そしてログハウス前で全裸のサンジェルマンが嫌らしい笑みを浮かべながら俺に言った。


全裸のまま肩を組んで来る。


「なあ、アスラン」


「な、なんだよ、サンジェルマンのおっさん……」


サンジェルマンの目付きが怪しい。


これは悪いことを企んでいる大人の目だ。


「お前、うちのマヌカビーをあの好き者女魔法使いに売って、逆に儲けただろう?」


ヤバイ、バレてる……。


「いや、ちょっとだけな……」


「幾ら儲けたんだ?」


「1000Gだ……」


「嘘じゃろ? 本当のことを言いやがれ!」


「う、嘘なんか言ってないよ……」


「中古とは言え破壊力満点のバリスタが、たったの1000Gで買えるわけがないじゃろ!」


「でも、嘘じゃあないもの……」


「本当は幾らだ。本当は幾らで買い取るつもりだったんだ?」


「3000G……」


「ワシはトリンドルから聞いたんだ。本当は5000Gだろ!」


「知ってるんじゃあねえか!!」


「おごれ!」


「何を……?」


「酒をだ。俺たちパーティー五人分の酒をおごれ!」


俺は苦手な計算をどんぶり勘定でフル回転させた。


こいつらおっさん冒険者五人が一日飲みまくっても、全員で1000Gは飲めないだろう。


せいぜい全員で700Gぐらいだ。


ならばまだマイナスにはならないな。


「分かった、今回の依頼料の他にボーナスとして一晩の酒代を払おう!」


「「「「「ヒャッハー!!」」」」」


俺の言葉に全裸のおっさんたちが喝采を上げた。


全裸ではしゃぎ回る。


「ただし、酒代だけだぞ! 女性のサービス代や他人の酒代までは払わんからな!!」


「よっしゃー、とにかく高価な酒ばかり飲むぞ!!」


「ちょっと待て! そういうのも駄目だ!!」


「「「「えー……」」」」


「飲み放題のメニューはエールだけだからな!!」


「「「「えーー……」」」」


「うだうだ言うな、アスラン。こっちとらパーティーのホープを生け贄に出したんだ。そのぐらい良かろうて!!」


「くぅ~……、こん畜生が……」


こうして全裸パーティーの夜の宴が冒険者ギルドの酒場で始まった。


俺は念のためにハンスさんに釘を指しておいた。


俺が払うのは全裸パーティーの酒代だけだからなって……。


もちろん次の日に来た請求書は、俺の予想よりも高額だった。


朝イチでハンスさんが俺に請求書を届けて暮れたのだ。


「はい、アスランくん。これが昨日の請求書だよ」


「あー……、なにこれ、冗談……?」


俺は請求書の額面を見て自分の視力を疑う。


俺ってこんなに視力が悪かったかな……。


何故かゼロが二つ多く見えるのだが……。


念のためにハンスさんに訊いておこう。


「ハンスさん、この50000Gって、なに……?」


ハンスさんは優しく微笑みながら答えた。


しかし、笑顔がビジネススマイルだ。


「夜の冒険者が本気を出すと怖いね。ここまで飲むとは私も思わなかったよ」


「なんか別の代金も加算されてない……?」


絶対に何かが盛られてるぞ。


「このベテランプロバーテンダーのハンスを疑うのかい?」


ハンスさんの笑みの向こう側が怖かった。


夜のプロが見せる極道の笑みだ。


笑顔で脅してやがる。


「分かりました、払います……」


俺は全額即金で払った。


「まいどあり、アスランくん」


畜生……。


これならワイズマンに発注して新古のバリスタを買ったほうが良かったぜ。


マヌカビーさんを売って得しようと考えた俺が悪かったのか……。


今後は人権を優先させよう……。


今回はいろいろ人生の勉強になったぜ……。


【おめでとうございます。レベル37になりました!】


ウソ!!!


何故にレベルが上がるの!?


どこにレベルの上がる要素があったんだよ!?


もう、ワケワカメだわ!!



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