13-19【秘密兵器の運搬】

水の王はデカイ。


とにかく巨大なワニである。


俺が向こうの世界で知ってるワニの最大級は、イリエワニの5.2メートルだ。


インドガビアルだって最大で5メートルほどまで育つ。


でも、先程見たシロナガスワニクジラの全長は10メートル以上はあっただろう。


おそらく12メートル前後の超巨体だ。


なんだろうなー……。


最近さ~、大きさで勝負してないか?


ミケランジェロに始まって、エルフ族の破極道山にアンドレアとかさ~。


社長エルフもマッチョで長身だったしよ。


敵が大きければ良いってもんじゃあねえぞ、まったくよ~。


俺は、そんなことを考えながら半壊した石橋の上で胡座をかいていた。


高い場所から湖の水面を眺めている。


そんな俺の横には転送絨毯が敷かれていた。


畳にして二畳程度の大きさだ。


転送できるサイズは、その中に描かれた丸い魔法陣の大きさまでである。


それ以上の大きさの物は転送したことがないが、グラブルの話だと無理っぽい。


「これで、アレを転送できるかな……?」


アレとは水の王討伐に必要な秘密兵器だ。


アレさえあれば10メートルのワニだって一撃だろう。


そう、アレとは───。


俺が顎を撫でながら考え込んでいると、横でゴロゴロしていたアインシュタインが話し掛けてきた。


「なー、アスランー(棒読み)」


「なんだ?」


「オラはー、まだー、ワニの餌にならないのかー?(棒読み)」


えっ、なに、こいつ?


マジでワニの餌になりたいのかな?


「もう少しまってろ……」


「じゃあー、それまでオラはー、ソドムタウンに遊びに行ってていいかー?(棒読み)」


「ああ、いいぞ」


「じゃあー、行ってくるー(棒読み)」


俺の承諾を得たアインシュタインが、ゴロゴロと転がりながら転送絨毯の上に移動すると、「チ◯コー(棒読み)」と言って消えた。


しばらく俺は、水面を眺めながら作戦を考える。


そして、だいたい纏まった。


しかし、足りないものが多いな。


それは、どうしよう……。


悩む……。


アレをどうやって運搬するかが問題だった。


「俺もここで考えていても仕方ないか。一旦ソドムタウンに帰ってコーヒーでも飲みながら考え直そうかな……」


そんなわけで俺もソドムタウンに帰ることにした。


転送絨毯が突然の強風で吹き飛ばないように、念のため端々に手頃な石を乗せて固定しておく。


「よし、これでいいだろう」


そして俺がログハウスに帰るとリビングでガイアとアインシュタインが遊んでいた。


どうやら二人はママゴトをしているようだ。


その後ろで保護者のようにパンダゴーレムが見守っている。


「はい、ご飯よ。おたべ」


「わー、ご飯を食べるふりだー(棒読み)」


「あなた、美味しい?」


「わはー、美味しいふりだー(棒読み)」


「ところであなた、このキャバクラの名刺はなんなの?」


「えっ!! そ、それは、いや、マジで、なんでそれを!!」


「あなたの袖に入っていたわ」


あれ、アインシュタインが棒読みじゃあないぞ!?


マジで戸惑ってるし、マジで目が泳いでるぞ!?


「あなた、このキャサリンって娘がお気に入りなんだ?」


「いや、キャサリンは、ほら、なんて言うか、仕事の付き合い、そうだよ、仕事の付き合いだよ。それ以外に関係ないからさ、あはっはっはっー……」


なに、こいつ!?


これは演技じゃあないよな!?


マジか!?


「まあ、いいわ。でも、浮気はお仕置きね」


「そ、そんなー(棒読み)」


「パンダ、やっておしまい!」


「ひぃーーーー(棒読み)」


突然パンダゴーレムがアインシュタインの首を閉めながら持ち上げた。


パンダのネックハンギングツリーだ。


鋭いパンダの爪がアインシュタインの首に食い込みながら両手で締め上げては小人の矮躯を吊し上げている。


「やめてやめて、止めて止めてー(棒読み)」


なんだろう?


拷問されてるよな。


それでもアインシュタインは嬉しそうに見えるのが不思議だ。


「んっ?」


なんだ!?


強い気配が急接近して来るぞ!?


空からだ!!


飛んで来るのか!?


俺は壊れたログハウスの天井から外を見上げた。


すると上空に二つの影を見つける。


強い気配の招待はアレだ。


それはこちらに向かって飛んで来る。


「あれは、ドラゴンか?」


大きな翼を広げた二匹のドラゴンだ。


青と赤いのが飛んで来る。


グラブルとアンの兄妹だろう。


いや、そろそろ完璧な姉妹になってるかな?


そしてログハウスの前に二匹のドラゴンが着地した。


すると突風が吹き荒れる。


「うわー、ドーラーゴーンーだー。食ーわーれーるー(棒読み)」


そんなことを言ってるアインシュタインは、まだパンダにベアハッグをされたままである。


「やあ、アスラン♡」


ブルードラゴンが人間の姿に変身した。


長い髪の頭に珊瑚のような角が飛び出た美女である。


前回はオッパイだけ女体化していたが、今回は顔まで女体化が進んだらしい。


かなりクールな美面であった。


続いてレッドドラゴンも人間の姿に変身する。


アンのほうは相変わらずのロリロリなリボンスタイルのままだ。


なんだか見慣れると、ドキドキ感もワクワク感も薄れるな。


とても詰まらん。


「アスラン、元気元気元気だったか?」


俺はウザイ娘のアンを無視した。


「よう、グラブル。今日はどうした?」


グラブルが自分の頬に手を当てながら言う。


「ほら、顔が女体化できたから見せに来たんだよ。結構美人さんだろ♡」


確かに美人さんだ。


スラリとしたシャープな顎のラインがスマートで、クールな表情が照れ臭くピンクに染まっているのが色っぽい。


なんとも妖艶で大人びた美人さんである。


俺はチラリとグラブルの下半身を見た。


「でも、まだチ◯コがあるんだろ?」


「当然」


「うげー……」


「なに、ぶちこんで貰いたいの?」


「それは断る……」


「どう、無くなる前に、最後に一発やらせてよ♡」


「断じて断る!!」


「もー、つれないなー」


グラブルは形の良い胸を左右に揺らしながら照れていた。


なぜ、ここで照れる!?


ぜんぜん分からんぞ!?


まあ、いいか……。


「ところでグラブル。ちょっと訊きたいんだが、いいか?」


「スリーサイズを?」


「いや、それは……」


「下半身も女体化が進めば、もっとクビレるからセクシーになるわよ」


「いや、今後のスリーサイズも気になるが、今訊きたいのは別の話だ」


ここで元気良くアンが口を挟んで来た。


「じゃあじゃあじゃあ、アンのスリーサイズを訊きたいのか!?」


「いや、貧乳のスリーサイズなんて、どーーーでもいいよ。興味ねーわー」


「うわー、貧乳差別だ!!」


ガイアが言う。


「ロリコンをディスるといろいろな方面から叩かれるぞ。早く謝っておけ、アスラン」


「こわ!! ごめんなさい!!」


「世界中の乳無し乙女に謝罪しとけー(棒読み)」


「てめー、これ以上誤解を招くようなことを口走るな!!」


マジでクレームが来るから怖いんだよ!!


本当に読者から意見が来るんだからね!!


エンタメなんだからジョークで流してくださいよ。


「ところでアスラン。僕に何が訊きたいんだ?」


グラブルが脱線した話を正常な道に戻してくれた。


「いや、前に言っていた大型の転送絨毯はいつごろできるかなってね」


「急ぐかい?」


「出来れば直ぐに使いたい」


「試作品だが、10メートル四方のサイズの絨毯なら持ってるぞ」


「おっ、マジで。じゃあそれを貸してくれ」


「いいけど、貸す代わりにキスしてくれる?」


「こ・と・わ・る!!」


「じゃあ、ほっぺにチューでいいよ」


「い・や・だ!!」


「じゃあ、足の甲でいいよ」


「それならしゃあないか……」


足なら我慢できるぞ。


するとグラブルがアインシュタインに命令する。


「そこのホビット。僕の前で四つん這いになって踏み台になりなさい」


「はーいー(嬉しそうに棒読み)」


アインシュタインがグラブルの前で四つん這いになると、その背中にグラブルが足を乗せる。


ハイヒールの踵がホビットの背中にめり込んだ。


「はぁぁーぅぅ(切なそうに棒読み)」


「さあ、アスラン。僕の足に口付けするんです」


「あ、ああ……」


これも大型転送絨毯を借りるためだ。


仕方ないんだ。


俺が望んで足にキスをしたいわけではないのだ。


少し胸が呪いで痛むが本当だぞ。


この背徳感が堪らないわけではない。


そして、俺がグラブルの足に顔を近付けてから気がついた。


「なんか、ムキムキっと筋っぽいし、脛毛が生えてないか……?」


「ああ、そりゃあそうさ。だって下半身はまだ男だもの」


わーすーれーてーたーー!!


美しいのは上半身だけだ。


下半身は女体化が進んでいないのだった。


「う、うぐぅぐぅ……」


やべ、なんか臭って来た。


マジで加齢臭がするぞ。


「ほら、早くキスしてくださいな」


「やっぱ、無理……」


俺が顔を逸らそうとした時である。


ガイアが言った。


「パンダ、やっておしまい」


「のわっ!!」


俺はパンダゴーレムに後頭部を押されてグラブルの雄足に顔面をぶつけてしまう。


ぶちゅ~~~~う!


パンダの凄いパワーに押されて、脛毛男足に事実上の接吻キスをしたこととなる。


「おええぇーーー!! 吐きそーーー!!!」


「失礼だな、アスランは……」


「羨ましいな、オラもキスしたい(棒読み)」


「と、とにかくだ。これで大型絨毯を貸してもらえるな……」


「ああ、いいよ。貸して上げようさ」


グラブルが自分の異次元宝物庫から大きな絨毯を二枚出す。


丸められた大型転送絨毯は、ピンク色のふざけた生地を使用していた。


なんだか卑猥な色合いである。


「これは試作品だから、転送時の合言葉は試運転の時に僕が決めてあるからね。悪いがそれを使ってくれ」


言いながらグラブルが転送絨毯をログハウスの外で広げる。


絨毯の中央には本来ならば六芒星の魔法陣が描かれているのだが、この転送絨毯はハート型のヘンテコな魔法陣が描かれていた。


「なんだ、この魔法陣は……。ふざけ過ぎてね?」


「問題無い。ちゃんと転送するからさ」


「でえ、合言葉は?」


俺の転送絨毯は『チ◯コ』だ。


人によっては恥ずかしがるが、俺には問題無い。


この大型転送絨毯にも合言葉があるはずだ。


そして、グラブルが合言葉を教えてくれる。


「アスランがグラブルを愛しているだ」


「えっ、なんて……?」


「アスランがグラブルを愛しているだよ」


「マジで……?」


「ああ、本当だよ」


「書き換えられないの?」


「試作品だから変更は出来ないんだ」


「嘘だ……」


「本当だよ。嫌なら借りなくても構わないんだが」


「ぅぅ……」


「どうする、アスラン?」


「借りさせてください……」


グラブルがニンマリと笑った。


畜生が……。


人の足元を見やがって……。


こうして俺は大型転送絨毯を借りられた。


しかし、転送するたびに憂鬱になりそうだ。


でも、これで目的のアイテムを運搬できるぞ。


まずは目的地までアキレスで走らなければならない。


確か歩いて二日ぐらいだったから、アキレスで走れば半日で到着できるだろう。


ならば出発は明日の朝かな。


俺の転送絨毯は魔王城に置いとかないとならないから、大型転送絨毯でソドムタウンに運搬したら、大型転送絨毯を回収して、またアキレスでソドムタウンに戻って、今度は魔王城に大型転送絨毯で運搬か……。


転送絨毯があるから運搬は楽になるが、それでも行ったり来たりで時間が掛かりそうな作業だぜ。


しかも一人で運搬は無理だろう。


五人か六人ぐらいの人手が居るな。


それも何とかしないとならんか。


んんー……。


ゴリやオアイドスたちじゃあ人手不足だな。


バイマンとカンパネルラ爺さんは非力だしさ。


そうだ、サンジェルマンさんのパーティーに応援を求めよう。


冒険者ギルドに居てくれるかな。


冒険に出てなければいいのだが……。



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