13-15【集いし者たち】

俺たちが朝食を食べ終わったころに、半壊したログハウス前に黒馬二頭立ての黒馬車が横付けられた。


馭者は灰色のトレンチコートの下にスーツを着込み、頭にはシルクハットを被っている。


どうやらお金持ちの執事のようだ。


「なんだい、これは?」


俺が言うとスカル姉さんが背後から答えた。


「レンタルよ」


「わざわざ借りたのかよ」


「これから貴族の館に出向くのよ。少しぐらい見栄をはらないとね」


「たかが君主の館に行くだけで、こんなに気取らなくてもいいだろ……」


言いながら俺が振り返ると、そこには赤いドレスを着こんだスカル姉さんが立っていた。


いつもの白衣にボディコン衣装ではない。


いつも通りなのは、顔に被った骸骨マスクだけだった。


本気で気取ってやがる。


「ぷっ!」


思わす吹いた。


俺は堪えきれずに吹いてしまう。


「アスラン、なぜ笑う!!」


俺は顔を逸らしながら言う。


他の皆も必死に笑いを堪えていた。


「いや、笑ってなんかいないよ……」


「いや、笑ってるだろ!!」


俺はグーで顔面をグリグリされる。


「にゃろう!」


グリグリグリ。


「やめろよスカル姉さん。お上品なドレスが台無しになるぞ。ぷぷっ」


それでも笑いが止まらない。


「ほら、早く馬車に乗れ。お前のスーツを買いに行くぞ」


「ああ、分かった……」


「馬子にも衣装だなー(棒読み)」


「なにっ!!」


「きゃふーーん(棒読み)」


アインシュタインがスカル姉さんに蹴られて飛んで行った。


本当に一言多いホビットだな。


ホビットって、あんなヤツばかりなのかな?


だとしたら、ホビットの村は相当ウザイだろう。


まあ、そんなこんなあって俺はソドムタウンの市場で古着のスーツを一着買って着替えた。


なんかシャキッとしないな。


股間がスースーするしさ……。


「スカル姉さん、これ、似合うか?」


俺は買ったばかりのスーツ姿をスカル姉さんに披露して感想を訊いた。


「まあ、アスラン。とりあえずズボンもちゃんと履こうや……」


「あっ、ズボンを履いてなかった。どうりで股間がスースーするわけだ」


俺はズボンを履いて再びスカル姉さんに感想を訊いた。


「馬子にも衣装だな……」


あー、なるほど……。


スカル姉さんがアインシュタインを蹴り飛ばした気持ちが良く分かったぞ……。


ここにホビットが居たら蹴ってたわ。


こうして俺たちはスーツとドレスで着飾って、新君主の洋館に向かった。


洋館は以前にヒルダとプロ子たちが巣くっていた大きな館だ。


鉄格子の門を馬車で通過すると、正面玄関前で停車する。


俺とスカル姉さんが馬車から降りると、馬車は館の脇の駐車スペースに移動して行った。


そこには数台の黒馬車が並んでいる。


どうやら先客は多いらしい。


「お待ちしておりました、冒険者アスラン様。それにドクトル・スカル様」


老いた執事が頭を下げて俺たちを出迎えてくれる。


あれ?


どこかで見たことがある爺さんだな?


んんー、思い出せん。


まあ、いいか。


そして俺たち二人は食堂に招かれた。


食堂には豪華な長テーブルが在り、そこには既に数人の客人が鎮座していた。


知った顔が多い。


ソドムタウン冒険者ギルド、ギルドマスターのギルガメッシュ。


その後ろにバーテンダーのハンスさんが立って居る。


ソドムタウン魔法使いギルド幹部、ゾディアック。


その後ろに火消し班班長、エスキモーが立っている。


ゴモラタウンの大商人、ワイズマン。


その後ろには妻であり秘書のマヌカハニーさんが立っていた。


知った顔はここまでだ。


柄の悪い極道風の男と、その子分らしき連れが二人。


神官着を纏ったおばちゃんと、その後ろには痩せたクララが立っている。


最後に小難しそうな顔をしたテンパの親父と、その後ろには15歳ぐらいの美少年が控えて居た。


これが食堂に居る面々だった。


俺たちが部屋に入ると、座っていたお偉いさんたちが立ち上がり挨拶して来る。


席を立たなかったのは、一番親しいギルガメッシュと、柄の悪い極道風の男だけだった。


ワイズマンが嘘っぽい笑顔で言う。


「やあ、久しぶりだな、アスランくん」


「よう、ワイズマン。元気だったか。あれ、また少し太ったんじゃね?」


「いえいえ、少し痩せたぐらいですよ」


嘘っぽい笑顔のワイズマンを無視して後ろのマヌカハニーさんを見たら優しい笑顔を帰してくれた。


やはり巨乳の笑顔は正義だな。


続いてゾディアックさんが声をかけて来た。


「やあ、アスランくん、ドクトル。こんにちは」


スカル姉さんは軽く会釈を返すだけだった。


「ゾディアックさんまでここに居るのか?」


「僕はギルマスの代行だよ。そうだ、こちらの二人を紹介しよう。君は初見だったよね」


ゾディアックさんに言われて神官風のおばさんが会釈した。


金髪のおばさんで60歳ぐらいに見える。


「こちらの方はソドムタウンの神官長マリア様です」


おばさんは掠れた声で言った。


「よろしくね、アスランさん」


声は掠れていたが、抑揚は優しかった。


この一言だけで善人だと分かる。


「後ろの方は神官のクララさんだ」


「ああ、そいつは知ってるよ。今日は痩せてるんだな」


俺の皮肉にクララが言い返す。


「最近忙しくて、太ってる暇がないのよ!」


「そうか、それはいいことだ」


「フンッだ!」


相変わらず高飛車なツンデレだな。


ところで、その神官着の下はビキニアーマーなのかな?


まあ、ここで訊くのはよしておこうか。


野暮ってもんよ。


更にゾディアックさんが別の人物を紹介する。


「続いてこちらが盗賊ギルドの若頭、バーツ様です。後ろの二人がサジさんとマジさんの兄弟です」


バーツと紹介された柄の悪い男がドスの効いた脅し声で言う。


「お前が全裸冒険者のアスランか?」


うわ、俺ってそんなふうに言われてるのか……。


まあ、事実だから否定できないけれどね。


「初めて見るが、思ったより小さいな」


「だが、あんたより強いぞ」


俺は満面の笑みで言ってやった。


しかし、バーツは怒らない。


「噂はいろいろ聞いている。それは認めてやるぜ。それにこれから付き合いが長くなるやも知れんからな。まあ、末長く仲良くやろうや」


言ってる意味は分からんが、敵意は少ないらしい。


少なくとも殺気感知スキルには微塵も引っ掛からない。


顔は怖いが俺に対しての敵意は無いようだ。


「最後に紹介するのは、王都から御越しいただいた建築家のハドリアヌス様です」


テンパのオヤジが俺の前に立つ。


「変態と聞いてたから、もっと醜悪な容姿を連想していたのだが、思ったより普通だな?」


王都でも俺の噂は広まっているのかな?


しかも変態としてさ。


ならばと俺は言ってやる。


「なんなら脱ごうか?」


「ほ、本当か……」


あれ、引いちゃったかな?


でも、なんか少し反応が可笑しいぞ?


なんだろう、この薄笑い?


って、思っていたらワイズマンが俺の側に寄り耳打ちして来る。


ワイズマン曰く。


「ハドリアヌス様は、王都でも有名な男色家だ。注意しなはれや……」


「ええっ!!」


やばっ!!


危なくヤバイ世界に突入するところだったぜ。


って、ことはだ……。


ハドリアヌスの後ろに立つ美少年は……。


うわわわぁ、薔薇貴族か……。


鳥肌が立ってきたぞ。


呪いで胸は痛まないが、考えるのを止めよう。


想像しただけで地獄だぜ……。


「あっ、そうだ──。ところで新君主って確かポラリスだろ?」


俺が質問を飛ばすと同時に食堂の扉が開いてメイドと兵士二人が入って来た。


その三人を見て俺は驚く。


「パーカーさんに、ピイターさんじゃあないか!!」


それにメイドはスパイダーさんと結婚したはずのデブのアンナだった。


パーカーさんが硬い笑顔で言う。


「やあ、アスラン。久々だな。元気でやってたか」


ピイターさんが柔らかい笑顔で言う。


「久しぶりだね~、アスランく~ん。寂しかったよ~」


二人の後ろでアンナがお辞儀をしていた。


「本当に久々だよ。それにしても二人ともこんなところで何しているんだ?」


ピイターさんが分かりやすく説明してくれた。


「今僕たち四人は、ソドムタウンの君主様に仕えてるんだ~。スパイダーも兵士長として町に居るよ~」


「えっ、そうだったのか。知らなかったよ。なんで言ってくれなかったんだ。直ぐに遊びに行ったのにさ」


「それはな──」


パーカーさんが言いかけた時に、扉の奥から女性の声で回答が飛んで来た。


「それは、わたくしが禁じたからですわ!」


なにっ!!


聞いたことがある声だ!!


この声は!?


出たな!!


「テメー、ポラリスだな!!」


すると扉の向こうからドレスの淑女が堂々と現れる。


「そうよ、わたくしがソドムタウンの新君主、ポラリス閣下よ!!どう、このサプライズ!?」


「なにっ、閣下だと!?」


俺が驚いているとパーカーさんが言う。


「俺とピイター、それにスパイダーの三人も、今じゃあサーだぜ」


「サー? サーって何だ!?」


スカル姉さんが耳打ちする。


「貴族の騎士よ。ナイトってことだ」


騎士ナイト……。


「み、皆して、偉くなったな……」


「うふふふふー」


ポラリスが扇子で口元を隠しながら嫌らしく笑っていた。


あの扇子って、鉄扇だよな?


すげ~、重そうだしさ……。


まあ、こいつも相変わらずってことか──。


ちょっと安心したぞ。


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