13-12【森の小人】

クレーター山脈を下山した俺は若様エルフの凶介と別れて森に向かった。


凶介は入り口の村に帰り、俺は一人で魔の森に入ったのである。


森の中は至って普通な感じであった。


魔の森と言うからどれほどおどろおどろしい森かと思えば極々平凡な森だったのだ。


怪しい巨大植物のひとつも生えていないし、肉食感満々の野生の猛獣なども見当たらない。


大茂る木々の枝には野鳥がとまり、長閑に囀りを奏でている。


俺は拍子抜けしてしまう。


五百年前に天空の城アヴァロンが降って来て大穴を開けた様相は残っていない。


見た感じ、森!森!森!である。


マジで普通の森に伺えた。


それでも俺は周囲の警戒は怠らない。


曲がりなりにも魔の森と呼ばれている場所だ。


かならずヤバいモンスターが巣くっているのだろう。


「あー……。ここに何が生息しているのかを凶介に訊いておけばよかったぜ。失敗失敗」


俺はショートソードを振るい藪を切り裂きながら森を進んでいた。


「なんか森に入ると殿様バッタちゃんを思い出すな~。あいつは元気でやってるんかな。ホッピーの野郎と上手くやっていけてるのだろうか。そろそろ子供とか産まれたかな~?」


まあ、詰まらんことを考えてないで先を目指すかな。


魔王城まで2キロか3キロだ。


幾ら道が無い森の中でも、夜までには魔王城まで到着できるだろう。


魔王城まで到着したら屋根のある手頃な場所に転送絨毯を敷いてソドムタウンに帰ろっと。


今日の課題はそこまでだ。


まあ、のんびりやるさ。


城内の死霊の退治もあるし、宝物庫の探索もある。


壁や住居の建築は、それらが終わってからかな。


「んん?」


気配だ。


何か来る!?


俺は慌てて短剣を構えて身を低くした。


そして、気配を感じ取った前方を睨み付ける。


来る!!


すると──。


「うわー、たーすーけーてー(棒読み)」


なんだ??


変なチンチクリンなのが叢から飛び出して来たぞ。


頭は人間サイズだが、手足が短く体が小さい。


そしてポッコリお腹が出ていて粗末な服を着ている。


助けてと叫んでいるが、緊張感が無く棒読みだ。


「助けてくりー(棒読み)」


くりー?


なに、この宇宙人みたいな小人は?


いや、小人か??


本物の小人っぽいぞ。


そして小人は俺の足に絡み付くように隠れた。


「旅のーかーたー、たすけーてーくーりー(棒読み)」


「なんだお前は?」


その時である。


殺気!?


強い殺気が迫って来る。


小人が逃げて来た方向からだ。


こいつを追って来たヤツだな。


「さて、何が出るかだ!?」


「クマだーよー、クーマー(棒読み)」


「なんだ、クマか」


クマなら問題無いだろうさ。


今まで野生のクマより狂暴で巨大な敵と戦って来たんだ。


幾らクマとて4メートルのミケランジェロより大きくないだろうさ。


今さらクマの一匹や二匹、敵でもないわ。


「クマに勝てるのかー、あんたー(棒読み)」


「余裕よ!」


「おおー、頼もしーいー(棒読み)」


すると前方の叢が激しく揺れた。


出て来るな、クマさんが!!


「ガァルルルルルルルル!!!」


「えっ、デカ……」


んんー……。


ちょっと予想していたのと違うな……。


なに、この赤いモヒカンのクマさんは?


体長2メートル半はあるじゃんか!?


四足で駆けてくる姿はまるでダンプカーだわ。


ゴツゴツの背中が筋肉で盛り上がってるじゃあないか。


「ガァルルルルルルルル!!!」


「立った……」


うわ!?


立ち上がったら更に大きく見えますよ!!


二足で立ち上がると4メートルあるよ!!


サイズ的にミケランジェロと互角だわ~……。


しかもボディービルダーのようにマッチョだよ。


体毛に覆われているのに、毛の下の筋肉がはっきりと分かるぐらい筋肉質だよ。


なに、このクマ!?


腹筋が六つに割れてないか!?


「人間ー、早くやっつけてくれよー(棒読み)」


「んんー、どうしたものかな……」


ジャイアントクマさんは空腹なのか、涎をダラダラと垂らしながら威嚇していた。


鼻の頭に深い皺を寄せて瞳が釣り上がっている。


俺の殺気感知スキルもビンビンに殺気を感じ取っていた。


もう、やる気MAXだわ……。


「ならば!!」


俺は足元にしがみついていた小人の首根っこを掴むと持ち上げた。


「なーにーすーるーだー(棒読み)」


「すまん、これも戦術だ!!」


「えーえー(棒読み)」


俺は小人を全力でジャイアントクマさんの顔に投げつけた。


「うーわー(棒読み)」


すると自分の眼前に飛んで来た小人をクマは真剣白羽取りでキャッチする。


「ガルッ!!」


「ひーどーいー、食ーわーれーるー(棒読み)」


「今だ!!」


俺は手にあるショートソードから新スキルを放った。


「ソニックウェーブだ!!」


【ソニックウェーブLv1】

長刃の武器で、射程距離15メートルほどの斬激破を放てるようになる。一日に撃てる回数は、スキルレベル分だけ撃てる。


俺が振るったショートソードの切っ先から輝く半月の残光が飛んで行った。


その残光が、ジャイアントクマさんの股間を切り付ける。


「キャイン!!」


ジャイアントクマさんは雄だったのか、小人を投げ捨て踞る。


どんなにマッチョだろうと股間は筋肉で守れない。


それは人間も熊も同じなのだろう。


金的が抜群に効いている。


股間を両手で押さえながら踞るクマさんに俺は飛び掛かった。


追撃の新スキルを打ち放つ。


「ワイルドクラッシャー!!」


【ワイルドクラッシャーLv1】

すべての武器で、強打力が2.5倍された一撃を放てるようになる。一日に撃てる回数は、スキルレベル分だけ撃てる。


「とりゃぁあああ!!」


会心の一撃が踞るジャイアントクマさんの頭をカチ割った。


クマの頭蓋骨を真っ二つに割ったショートソードの刃先が胸を割き腹を割いて振りきられる。


一刀両断!


試し切り完了だ。


「決まったぜ!!」


「すーごーいーなー(棒読み)」


ジャイアントクマさんは、その一撃で絶命した。


ピクリとも動かなくなる。


「見かけよりも容易い敵だったぜ」


どれ、せめてモンスターネームだけでも見ておくか──。


【レッドヘルムベアーです】


うわ、最強のクマを倒したかもしれないぞ……。


「人間、おまえ、やるなー(棒読み)」


頭からダラダラと血を流している小人が俺の側に駆け寄って来た。


「おい、お前……。大丈夫か? 頭からスゲー血が出てるぞ……」


「ああ、食われかけたからなー。いつものこーとーよー(棒読み)」


「そ、そうか……。ヒールをかけたろか?」


「おおー。人間、ヒール使えるか。掛けて掛けてー(棒読み)」


「どれどれ……」


俺が小人の頭を見たら、クマの両手分の鉤爪傷がハッキリと刻まれていた。


こんな深傷だと、馬鹿以外は直ぐに出血多量でしんでますぞ……。


とにかく俺はヒールで小人の傷を癒してやった。


「うわー、傷が治ったぞー(棒読み)」


「よ、良かったな……」


小人はピョンピョン跳ねながら喜んでいる。


「ところで小人よ。こんなところで何をしているんだ?」


「おいら、キノコ取ってたー(棒読み)」


そう言うと小人はキョロキョロと自分の周りを確認し始める。


「おー、どうしようー(棒読み)」


「どうした?」


小人は涙目で言う。


「取ったキノコ、全部落としたー(棒読み)」


「んん、あそこに鞄が落ちてるぞ」


「あー、あれだー、オラのキノコだー(棒読み)」


「良かったな、見つかって」


俺は小人の頭を撫でた。


「おまえ、いいやつか?(棒読み)」


「ああ、当然だ」


「じゃあ、キノコをご馳走してやるー。オラの家に来いよー(棒読み)」


そう言いながら小人は鞄の中のキノコを俺に見せた。


俺にはスバルちゃんとの愛の結晶的に取得したキノコ鑑定スキルがある。


【キノコ鑑定スキル】

食用か毒茸かの判定が可能になる。


このスキルが俺に知らしていた。


鞄の中に見えるキノコは全部毒キノコだと──。


しかもかなり猛毒だ。


こんな物を食べたら幻覚を見たあとに三日三晩はトイレで寝泊まりする運命がまっているだろう。


煮ても焼いても食べれないキノコである。


「おい、このキノコは全部毒キノコだぞ……」


「大丈夫、ホビットは毒キノコで死なないからー(棒読み)」


「人間は死ぬから、やたら滅多にご馳走するなよ……」


「人間って、胃が弱いんだなー(棒読み)」


「お前らの胃が可笑しいんだよ。このキノコは猛毒だぞ」


「このぐらいの毒キノコも食べれないならー、人間のチ◯コは小さいのかー?(棒読み)」


「チ◯コは関係無いだろ!?」


小人は哀れむように俺の顔を見上げていた。


同情されているのか?


こいつは俺のチンチロリンが小さいと思い込んで同情してやがるのか?


そうだとするなら、屈辱!!


「デケーよ、超ドデカチ◯コだよ!!」


「そう言うことに、しといたるー(棒読み)」


「うわ、超むかつく!!」


それにしても──。


また、可笑しなファンタジー住人が出て来たもんだわ……。



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