13-10【損害賠償】
昼飯前の僅かな時間、俺はログハウスの前に根付いた木の下で涼んでいた。
遠くにソドムタウンの壁が見える。
平原から乾いた微風が吹き込んで来た。
少し埃っぽい。
きゃっきゃきゃっきゃと騒いでいた凶子はログハウス内で昼食の準備を手伝っている。
人間の暮らしがなんでもかんでも珍しいのか、何をやるにしても飛びつくように感心を持つのだ。
お陰で五月蝿くて仕方がない。
そんな凶子から解放された俺は、木の下で騒音から逃れるように寛いでいたのだ。
さて、唐突だが、新スキルチェックでもしますか~。
「ステータス、オープン!」
おっ、新スキルは二つか。
どれどれ、1つ目は~。
【気配感知スキルLv1】
ある程度の範囲まで、他人の気配を感知する。
おおう、これは役立つスキルだな。
殺気感知スキルよりも静かな気配まで感知できるのかな?
これで俺のレーダーもビンビンだろうさ。
さて、二つ目は~。
【打撃耐性スキルLv1】
打撃攻撃に対して耐久力が向上する。
んん?
これは殴られ強くなったってことかな?
鈍器に殴られるのは強いが、刃物に切られるのは普通に痛いのかな?
分かりやすく言うと、女性にピンタされるのは耐えられるが、ネイルが剥げるのを覚悟で顔面を引っ掛かれるのは耐えられないみたいなもんかな?
いや、後者の例えはよく分からんな……。
それに痛覚耐性スキルとは少し違うのかな?
よう分からんな……。
まあ、今回はだいぶ殴り合ったもんな~。
これは覚えそうなスキルだよ。
でも、俺も拳法とか覚えたかったな。
なんかカッコイイものな~。
今度エルフの町で社長エルフから教えてもらおうかな。
それと素手での格闘系スキルが幾つかレベルアップしているぜ。
おっ──。
早速だが、俺は気配を感じとる。
木の裏側から誰かが近寄って来るのを感じた。
俺は慌ててステータス画面を閉じた。
誰かに見られたら大変だもんな。
すると木の陰からヒョッコリとシルバーウルフが顔を出す。
「んん、 どうした、お前?」
俺がシルバーウルフの頭を撫でてやると、シルバーウルフは甘えるように体を擦り付けて来た。
すると続々とシルバーウルフたちが木の陰から姿を表した。
最後に全裸のカンパネルラ爺さんが歩いて来る。
「よ~、若いの~。こんなところで暇潰しか?」
「カンパネルラ爺さんこそ、狼たちの散歩かい?」
「まあ、そんなところだ」
「それにしても、だいぶ狼たちに慣れたようだな、爺さん」
「ワシとてテイマーだからの。ざっとこんなもんよ!」
「でぇ、なんで全裸なん?」
「こいつらワシが服を着ていると吠えるんよ……」
「なんで?」
「たぶんだが、全裸だと同じ狼だと思ってくれてるんじゃないかな」
「そんなわけがあるか」
相変わらず変態爺さんだな。
「まあ、服だけ着なければ、このように仲良しだから問題ないがのぉ!」
別の問題が生まれていることには気付いていないんだな、この糞爺は。
もう、見るのもおぞましい!!
「そうだ、そろそろ昼食だからって、呼びに来たんだ。皆が家の中で待ってるぞ」
「ああ、分かった。行くよ」
俺はカンパネルラ爺さんやシルバーウルフたちと一緒にログハウスに向かった。
狼たちはちゃんと調教されているようで、ログハウスの中には入って行かない。
玄関前でお座りして待っている。
その狼たちの前にカンパネルラ爺さんが空の器を置いて行く。
すると家の中から鍋を持ったスカル姉さんが出て来た。
シルバーウルブスがソワソワし始める。
「さーー、お前たち。ご飯だよ!」
狼たちはクゥンクゥンと鼻を鳴らしながらお座りして前足をバタつかせていた。
飯が待ち遠しいようだ。
そしてスカル姉さんが狼たちの前の器に食事を盛って行く。
狼たちは盛られた餌を涎を垂しながら凝視して待つ。
「ちゃんと待てが出来てるじゃあないか。これも調教の成果か」
スカル姉さんが怪しく微笑みながら言う。
「どうだ、アスラン。こいつらもだいぶ私に慣れてきただろう」
「毎日エサをくれるひとをボスだと認識しているだけだろうさ」
「そうだ、私がボスだ。崇めろアスラン!」
「崇めねぇ~よ……」
スカル姉さんは全ての器に餌を盛り付けてから、両腕を組んで嫌らしく微笑んでいた。
その前で狼たちがお座りをして待っている。
一匹たりともエサに食いつかない。
だが、狼たちはソワソワが止まらない。
中には待ちきれずに涎を垂らしている狼もおおかった。
焦らしていやがるんだ。
可愛そうな狼たちよ……。
狼たちも、スカル姉さんの顔を無垢な眼差しで見つめている。
しかし、スカル姉さんは何も言わない。
じっとしている。
狼たちも動かない。
そして突然にスカル姉さんが「よし!」っと言った。
するとシルバーウルフたちが餌にガッついた。
満足気なスカル姉さんは踵を返して室内に戻って行く。
なんだかカンパネルラ爺さんよりも、スカル姉さんのほうが狼たちを手なずけてないか?
たぶんこの家ではスカル姉さんがピラミッドの頂点に君臨しているのだろう。
間違いないな……。
そして俺が家に入るとテーブルには粗末な食事が並んでいた。
どうやら今日の昼飯を準備したのはバイマンとオアイドスの二人のようだ。
吹き飛ばされた台所跡地には焚き火が炊かれて火には鍋がかけられている。
「キャンプ飯かよ……」
俺は更に盛られたスープを見て脱力した。
所詮はキャンプ飯である。
スープに角切りの肉がゴロリと入っているだけだった。
あとはパンのみ。
まあ、こんなもんだろ。
それにしても誰だ?
うちの台所を全壊させたのは?
俺は部屋の隅に立ち尽くしているパンダゴーレムをチラリと見た。
しかしパンダは動かない。
こいつも今度修理にださないとな。
いつまでも故障中ってわけにもいかないだろう。
凶子がスプーンでスープの中の角切り肉を突っつきながら訊いてきた。
「これは何……?」
バイマンが答える。
「ケルベロスの肉だよ。今ソドムタウンで、一番ホットな食材さ」
一番ホット?
ただ一番余ってて安い肉なだけだろ。
価格は鶏肉の半分だ。
「こんな肉肉しい物を、森の民で有名なエルフのあたいに食べさせる気かよ……」
「「んん?」」
食事を準備したバイマンとオアイドスが首を傾げた。
俺が小声で二人に助言する。
「エルフは肉を食わないんだよ」
「えっ、そうなの!?」
「その噂、本当なんだ!」
知ってて試したのか?
「じゃあ魚のスープにすれば良かったかな?」
「だから、動物も魚も食べないんだよ」
「えっ、なに、宗教?」
「それに近いがそうじゃない……」
凶子がプリプリしながら言った。
「あたい、もう帰る。アスラン、送ってくれない!?」
「帰りたきゃあ帰れよ、一人でさ。転送絨毯に乗って、チ◯コって言えば帰れるからよ」
「そんなこと花も恥じらうエルフの可憐な乙女が言えないから送ってって言ってるんじゃないか!!」
こっちも分かって言ってる。
「なに照れてるんだよ。生娘でもあるまいし」
「生娘よ!!」
「お前さ、幾つよ?」
「まだ160歳よ!!」
「もう160年物の骨董品じゃあねえか。チ◯コぐらい一人で言えろよな」
「誰が骨董品だ!!」
「あー、もー、これだからヤンキーは面倒臭いんだよ……」
「なんだとーー! 変態のくせにーー!!」
怒った凶子が風林火山の木刀を振りかぶった。
凄い殺気だ。
こわっ!!
それにしても沸点が低すぎだろ。
なんか木刀から鋭利な強風が渦巻いた。
凄い突風に皆の髪がバタバタと靡く。
「なんかヤバイは!!」
スカル姉さんがガイアを抱えて一目散にログハウスを掛け出た。
それにパンダも続く。
「ヤバイ、みんな逃げろ!!」
「あわわわわっ!!!」
「ひぃーー!!!」
だが、俺、ゴリ、バイマン、オアイドス、カンパネルラ爺さんが同時に出口に駆け寄って団子になる。
狭い入り口に皆が引っ掛かって誰も出れない。
「みんな、飛んでけ! 鬼畜ども!!」
凶子が風林火山の木刀を全力で振るった。
すると室内に竜巻が吹き上がる。
「どわーー!!!」
賃貸のログハウス半壊。
賠償金、500000G支払う。
日本円に換算すると、約500万ぐらいの損害である。
ちくしょーーー!!
社長エルフに損害賠償を払ってもらうからな!!
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