第十三章【魔王城攻略編】

13-1【取り囲む者たち】

空を見上げれば透き通るように青くて、清々しい雲がワタアメのようにプカプカと浮いていた。


そして太陽は暖かく、風が爽やかに草木の穂を揺らしている。


「満点の天気だな~」


再び優しい風がゆるりと吹いた。


そんな気持ち良い風が俺の髪を優しく揺らす。


俺は長閑な草原をアキレスにまたがりながら、パカラパカラと呑気に進んでいた。


見渡す限りの草原の果てに黒い色の山脈が見える。


サラサラの麦畑のような草原の先に見える山脈の向こう側っと言うか、山脈に見えるクレーターの中に旧魔王城があるのだ。


ついにここまで来たもんだ。


思えば遠くに来たもんだ。


長かったな~。


あの山脈のように見えるクレーターの窪みを越えれば目的地の旧魔王城があるのである。


旧魔王城とは、張るか昔に魔王軍が陣取っていた城だから魔王城なのだ。


魔王が仕切っていた城のわりにはこじんまりとした古城らしい。


だが、立地が厄介で、魔王城は直径3キロ程度のクレーターに囲まれ、そのクレーターは山脈のように険しいと語られている。


クレーター山脈とは、天然の防壁なのだ。


魔王城はクレーター山脈や魔の森に困れ、更にはお堀代わりの湖の上に建築された難攻不落の古城らしい。


だが、魔の森にも古城にもモンスターが巣くっているらしく、魔王軍亡きあとはモンスターに占領されているらしいのだ。


まあ、噂程度でしか情報が集まらなかったから真相はどうだか分からないけれどね。


そして、最初に俺を待ち受けているのはエルフの村である。


なんでもクレーター山脈から内部に進める一本道に村を築いているらしい。


彼らが魔王城に進む峠の番人を努めているとか。


しかし、この世界のエルフについての情報がそれ以上は無い。


昨晩のうちにスカル姉さんに訊いておきたかったのだが、スカル姉さんは君主に呼ばれたまま帰って来なかった。


朝になって俺が家を出る直前に帰って来たのだけれど、酷い顔で二日酔いの様子であったのだ。


君主のところで夜通し飲んだらしい。


スカル姉さんの酔った時の姿も酷いけれど、二日酔いの時の姿もかなり酷い。


姿と言うか、態度もだ。


そして、どんなに酷いかと言えばだ。


十歳以上歳を取ったかのように老けてしまうのだ。


柄も悪くなる。


ある時に俺が「二日酔いか、スカル姉さん? 今日はかなりババァだぞ」って言ったら起き上がりこぼしジャーマンで連続三回も投げられたもんな。


流石に連続三回のジャーマンスープレックスは死ねるよ……。


てか、二日酔いでもジャーマンって撃てるのかよ……。


それと何故か朝起きて朝食を食べようとしたらログハウスの台所が吹き飛んでいた。


綺麗さっぱり台所だけが瓦礫の山になっていたのだ。


俺は眠たい頭を抱えて少し考え込んだが、何故に台所が吹き飛んだか心当たりがなかった。


なので見なかったことにする。


必殺の現実逃避である。


あまり考えると剥げるだろう。


悩むのは禁止である。


まあ、とにかくだ。


俺はエルフの村の情報を持たぬまま旅立ったのである。


こんなことならミケランジェロに訊いてくれば良かったよ。


ドワーフたちに訊いても「エルフのことなんか知らん!」っの一点張りだったからな。


本当は知っているはずなのにさ。


どうやらこの世界では、エルフとドワーフの仲が悪いらしい。


古風なファンタジーワールドのパターンだよね。


エルフとドワーフが犬猿の仲ってのはポピュラーだわな。


俺は草原の果てに見える山脈の麓を眺めた。


そこには森がある。


あそこら辺にエルフが住んでいるのだろうが、たぶん堅物のエルフじゃあないかと予想した。


さてさて、どんなエルフ族が出てくるか楽しみだぞ。


今時の、豊満ムチムチのエルフがいいよな~。


ボインボインのさ~。


うぐっ、いたたた……。


でも、古風なペチャパイガリガリのエルフだとダサイよね~。


それはなしなしだよ。


あってはならないエルフだわ。


とにかくだ。


俺は巨乳エルフが大好きです!


あたたったった……。


危ない……。


最悪は劇画タッチのアメリカンなエルフだけど……。


それはマジで勘弁な……。


んんっ?


アキレスが走る速度を落としたぞ?


何故だ?


俺がアキレスの背中から顔を覗き込むと、アキレスは周囲を気にしている様子だった。


それを察して俺も馬上から周囲の草原を見渡す。


ガザガサ……。


何か居るのかな?


草原に生えた茂みの中を何かが移動している。


複数だ。


既に囲まれている。


かなりの数だぞ。


しかし、まだ距離があるな。


20メートルほど先だ。


いや、今20メートルのラインを越えてきたぞ。


茂みの高さは2メートルは無い。


その茂みに潜んで移動できるんだから、こいつらのサイズは人間程度かな。


そんな大柄な連中じゃあないぞ。


馬上から見ていると、ちらほら影が窺える。


多いな。


十、否、二十かな?


殺気だ。


15メートルのラインを過ぎたところで殺気が感じられた。


こいつら、敵意以上の殺気を持ってやがる。


俺を殺す気だな。


いや、こいつらは俺を狩るつもりなのかな?


だとすると、エルフではないぞ。


平和主義のエルフがここまで殺気立つとは思えない。


まあ、どちらでもいいか。


要するに敵であるってことだ。


それは変わらない。


さてさて、どうする?


戦うか?


相手は徒歩だ。


その気になればアキレスで走り抜けられる。


逃げるのは簡単だ。


だから相手は気付かれまいと潜みながら接近を試みているわけで──。


まあ、俺は見付けちゃってるけどね。


よし、相手が何だろうと、敵意があるなら戦おうかな。


折角アキレスに乗ってるんだから、ランスと盾でも使って戦うか。


いや、立地が悪い。


草原には背高い茂みが多すぎる。


馬で走り抜けるスペースが少ないな。


万が一にもブッシュに突っ込んだら、足がズタズタになりそうだわ。


しゃあない、馬から降りるか。


あっ、そうだ。


新スキルの試し撃ちを忘れてたぜ。


ソニックウェーブとワイルドクラッシャーを試さないとな。


そうだよ、丁度いいや。


こいつらで試させてもらおうか。


俺はアキレスの背中から降りるとトロフィーに戻して異次元宝物庫に仕舞った。


代わりに二本のメイスを取り出す。


【パワーメイス+2】

腕力が小向上する。命中率が向上する。


【マジックメイス+1】

クラッシュウェーブが一回使える。


これでも新スキルは撃てるはずだ。


今回はメイスの二刀流である。


んんー……。


メイスだから二棍流なのかな?


まあ、とにかくだ。


メイススキルも上げてみたいし、メイスの二棍流だと何か新スキルを覚えるのかも試してみたいのだ。


「よ~~し、一丁頑張るか」


そして、周囲から近付く二十の気配からは、強敵の気配は感じられない。


力量はザコなのかな。


ならば、余裕で行かせてもらうぜ。


てか、気配で実力をはかるスキルなんて持ってないから、本当は分からないんだけどね。


まあ、とにかく、様子を見ながら戦えばええっしょ。


「さて、何が出てくるか?」


殺気はだいぶ接近したぞ。


あと、10メートルを越えて来たかな。


カサッ!!


草が小さく揺れた。


何かが飛んで来る。


矢か?


矢だな。


だが、その矢は俺の寸前で大きく曲がって逸れた。


更に別の方向からも矢が飛んで来た。


その矢も俺の寸前でコースを歪に変える。


これは俺が身に付けているマジックアイテムの効果だ。


ただし自動で矢を外してくれるのは二発までである。


【シルバーネックレス+2】

矢の直撃を二回だけ避ける。


まあ、大概の奴等は二発も矢が不自然に曲がれば飛び道具は諦めるんだけどね。


ほら、やっぱりだ。


ヤツらが接近してくるのが揺れる草で分かるぞ。


飛び道具が効かないと判断したのだろうさ。


そしてヤツらが叢から一斉に出て来る。


姿を現したヤツらはコボルトだった。


コボルトの群れである。


手には槍やら短剣やら様々な武器を持っている。


防具は無い。


粗末な服だけを着込んでいる。


でも、俺が知ってるワンちゃん顔のコボルトとちょっと違うぞ。


この頭は、ハイエナかな?


ハイエナでもコボルトなのかな?


そうだ、ネーム判定をしてみよう。


【ハイエナコボルトです】


なるほど、ちょっと亜種なコボルトなのね。


まあ、こいつらは鼻の頭に威嚇的な皺を寄せながら牙を剥いて、涎をダラダラと垂らしているから、やる気満々だね。


舌もでろぉ~んって出ているしさ。


この人数だから俺を容易く狩れると思っているのだろうさ。


浅はかだ!!


狩り返してやるぜ!!


「グルルルルっ!!」


さあ、どいつから来る!?


「キャン!!」


えっ、悲鳴……?


すると一匹のハイエナコボルトが俯せに倒れた。


その背中には矢が刺さっている。


それを機にハイエナコボルトたちが狼狽え始めた。


キョロキョロと辺りを見回し始める。


新手か!?


しかも、こいつらの敵か!?


俺は腰を低くして草むらに頭を隠した。


「キャン!!」


また一匹のハイエナコボルトが倒れた。


その頭には矢が刺さっているが、明らかに飛んで来た方向が違う。


着弾位置からそれがはっきりと分かった。


「複数か?」


狙撃者は複数居やがる。


更にハイエナコボルトたちも囲まれているのか?


俺は身を屈めたまま周囲を警戒した。


すると別のハイエナコボルトの頭がパンッと破裂する。


なんだ!?


魔法か!?


いや、魔力感知には何も引っ掛からないぞ。


パンッ!


また、ハイエナコボルトの頭が破裂した。


今のは破裂した瞬間が見えていたぞ。


破裂の原因は矢だ。


矢が貫通して頭が粉砕するように破裂してるんだ。


まるでマグナム弾で頭を撃たれたような破壊力の矢なのかも知れない。


ハイエナコボルトたちも俺を真似てしゃがみ込む。


しかし───。


「キャン!!」


また、ハイエナコボルトが射ぬかれた。


だが、今度の弾道は上からだ。


真上だ……。


矢が天から降ってきて、ハイエナコボルトの頭の天辺に突き刺さったのだ。


脳天を撃たれたハイエナコボルトはぐったりと酔い潰れるかのように絶命する。


すると次々と空から矢が降って来てハイエナコボルトたちの脳天を貫いて行った。


ハイエナコボルトたちがバタバタと倒れて行く。


なんだ!?


なんなんだ!?


この矢の攻撃パターンは!?


そして、一匹のハイエナコボルトが走って逃げ出した。


ハイエナコボルトは叢の中に飛び込んで行く。


すると「キャン!」っと叢から悲鳴が聞こえたのだ。


殺られたな……。


逃がしもしないのか。


慈悲の欠片も無いヤツだわ。


さて、敵は何処だ?


矢を放つヤツらの殺気は勿論のこと、気配すらない。


これは、エルフの仕業なのか……?



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