10-5【プロフェッショナル】

「へぇ~、あれがカンタタの家なのか~。なかなか大きいじゃんか」


俺はカンタタの家の向かえの家の陰に潜みながらロングボウ+1の弦を引いてレッドリザードマンの一匹を狙っていた。


まずは扉の前に立つ二匹の見張りを矢で射抜くつもりだ。


それで騒ぎになるだろう。


そしたら一気に作戦開始だ。


メイドたちは戦闘に長けてると聞く。


メイド長のヒルダほどではないが、他のメイドたちも戦闘訓練は積んでいるとのことだ。


特にクロスボウの射撃はプロ並みらしい。


そもそもが、奉仕と警備を主体として作られた戦闘メイドらしいのだ。


だから普段は屋敷などを警護しているから、今回は逆のことをすれば良いだけである。


守る側から攻める側に変わるだけだ。


むしろ警備のプロフェッショナルからしたら、レッドリザードマンの警備はお粗末過ぎると述べていた。


穴だらけの隙だらけで腹が立つぐらいだそうな。


なので、今回はメイドたちの力量も見て見たいのである。


「さて、じゃあ始めますか」


レッドリザードマンの身なりは革鎧に革のヘルムを被っている。


腰には各々別の武器を下げ、手には長槍を持っていた。


この距離ならスキルを使えば革鎧ごと射抜けるだろう。


よーく、狙って……。


「それ、スマッシュアロー!」


俺のスキルを乗せた矢が放たれた。


僅かな風切り音を奏でて矢が飛翔する。


初弾は村長家の玄関前に立つ見張りの一匹を射抜いた。


矢は喉に突き刺さり首を貫通する。


射ぬかれたレッドリザードマンは悶えながら前に倒れた。


そして、直ぐに絶命して動かなくなる。


それを見ていた相棒のレッドリザードマンが大声を上げた。


「敵襲だぁぁあああ!!」


その大声が、村の中に響き渡った。


だが、次の瞬間には、俺が放った二発目の矢が、叫んでいたレッドリザードマンの頭を射抜く。


俺は建物の陰から歩き出ながらロングボウを異次元宝物庫に閉まった。


周囲を見渡せば、前後の門の見張りと、櫓の見張りが、メイドたちのクロスボウで射抜かれるところだった。


見張りたちは壁の内側で上がった声に反応して振り返ったのだろう。


まさか壁の内側から大声が上がるとは考えてもいなく、何気無く振り返ったのだろうさ。


その刹那を壁の内側に隠れていたメイドたちにクロスボウで撃たれたのだ。


しかもメイドたちの狙撃スキルは高いようだ。


八匹の見張りを外すことなく一撃で射抜いている。


しかも頭部を確実に射貫いていた。


あれではレッドリザードマンも即死だっただろう。


「狙撃の腕前は、スゲーな」


それで、俺が別のログハウスのほうを見れば、メイドたちが二人一組で中に押し入るところだった。


クロスボウを構えたメイドが警戒しているところで、もう一人のメイドが呼吸を合わせて扉を開く。


するとクロスボウを構えていたメイドが先頭に中腰でログハウス内に突入して行くのだ。


その後は室内で惨劇が繰り広げられたのだろう。


そんな光景があちらこちらのログハウスで窺えた。


まるで洋画のスワットチームが犯罪現場に突入するシーンのようだった。


こりゃあ、完全に訓練どころかプロの特殊訓練を受けていますわ……。


これだと、蛮族のレッドリザードマンじゃあ太刀打ちできないわな……。


完全に格が違っているだろう。


俺が村の中央で見ていると、周回していた見張りを片付けたヒルダがレッドリザードマン二匹の死体を両手で引き摺りながら運んで来た。


「アスランさま、片付きました」


そう言うとヒルダは引き摺って来たレッドリザードマンの襟首を放した。


そのレッドリザードマン二匹は喉を切られて絶命したようだった。


「わざわざ死体を運んで来なくてもいいのに」


「自分が任された任務の達成を知らせたく思いまして」


「そうなん……」


意外にヒルダって、かまってちゃんなんだな~。


自分の手柄を見せびらかしたい子猫のようだぜ。


俺とヒルダが村の中央で、呑気にそんな話をしていると、メイドたちが突入していないログハウスから武装したレッドリザードマンたちが、チラホラと走り出て来る。


おそらく寝ていたレッドリザードマンが装備を身につけるのに時間が掛かって時間差が生まれているのだろう。


しかし、自分たちが突入してレッドリザードマンを早々と始末していたメイドたちが、その出て来たレッドリザードマンを次々とクロスボウで片付けて行く。


もう、モグラ叩き状態だった。


家の中から出て来るレッドリザードマンが、呆気なくクロスボウの一撃で射抜かれて行くのだ。


しかも無駄撃ちが無い。


必ず一発一撃で頭を射貫いて倒すのだ。


複数居るメイドたちが代る代る撃っている。


クロスボウは次の矢を装填するのに時間が掛かってしまう武器だ。


その欠点を補うために、メイドたちも分かっていて、代る代る交代でクロスボウを撃っているのだろう。


なんの合図も無いのにそれが出きるってことは、全ては訓練の賜物だろうさ。


マジでこのメイドたち怖いわ……。


するとだいぶ遅れて村長のログハウスから巨漢のレッドリザードマンが出て来た。


その姿は全身頑丈そうなフルプレートを装備している。


頭部には爬虫類顔がすっぽり収まるような金属ヘルムを被っていた。


まるでスピードを捨てた戦車のような成りである。


防御に秀でたタンカーと言うクラスだろう。


そして、その甲冑がメイドが放ったクロスボウの矢を容易く弾く。


クロスボウの矢が頭に当たっても甲冑の装甲に弾かれるのだ。


矢が三発弾かれたところでメイドたちの狙撃が止まった。


メイドたちもクロスボウが通じないと悟ったのだろう。


クロスボウの矢では鋼鉄のヘルムを射貫けないのだ。


そして、巨漢のレッドリザードマンがガシャンガシャンとプレートメイルを鳴らしながらログハウスの階段を降りて広場に出て来る。


手には槍の先にシミターの刃が付いたポールウェポンを持っていた。


三國志などで良く使われていた武器で、斬馬刀と呼ばれる武器だ。


日本の斬馬刀と言えば大きく長い日本刀だが、中国だとこれが斬馬刀と呼ばれている。


巨漢のレッドリザードマンは、ログハウスから出て来ない仲間を疑問に思ったのか大声を張る。


しかしやはり仲間の姿は現れない。


たぶん全員メイドたちに始末されたのだろう。


残っているのは、この巨漢のレッドリザードマンだけだろうさ。


巨漢のレッドリザードマンも気付く。


広場に立つ俺とヒルダの姿。


それにログハウスからクロスボウで狙うメイドたちの姿。


その結果から、自分の仲間が全滅したことを巨漢のレッドリザードマンも悟れたのだろう。


だが───。


巨漢のレッドリザードマンは片拳で激しく胸を叩くと雄叫びを上げる。


そして、斬馬刀を両手で確りと構えた。


その構えから溢れるは闘志。


フルプレートのリザードマンが俺とヒルダに叫んで述べる。


「我が名はレッドリザードマン族の族長タイタスだ。貴様らのリーダーと一騎討ちを願いたい!!」


最後の一匹になっても虚勢を張りますか。


戦闘部族の族長としての誇りなのかな。


じゃあ──。


「わたくしがお相手いたしましょうか?」


おいおいヒルダさんよ、俺の出番まで奪うなよな。


俺に見せ場をくださいよね。


俺は慌ててヒルダを止めた。


「いや、相手はリーダーを所望だ。俺に任せろ」


「だからこそ、わたくしが」


うわー、なに、ヒルダさん……。


あなたがリーダーですか……。


俺をリーダーだと思ってもいないのかな……。


「これは男の勝負だぜ。ヒルダは引っ込んでろ!」


「畏まりました、アスランさま」


よし、畏まってくれたぞ!!


畏まってくれなかったら、どうしようかと思ったわ。


俺は腰の二本差を引き抜いた。


そのまま巨漢のレッドリザードマンの前に立つ。


二刀流でロングソードとショートソードを構えた俺が名前を名乗る。


「俺の名前はソロ冒険者のアスランだ!」


すると、巨漢のレッドリザードマンが述べた。


「仲間が沢山いるじゃあないか、マジでソロかよ!?」


「あー、確かにソロじゃあないわ……」


今度からメイドたちを連れて冒険をするのはやめようか……。


てか、便利すぎるし、強すぎるわ。


これじゃあ冒険じゃあないよね。


ちょっとと言いますか、だいぶ詰まらないわ……。


俺は殺戮部隊を編成して冒険をクリアーしたいんじゃあないからな。



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