10-3【乗っ取り】

俺は地べたに胡座をかいて座っていた。


ずぅ~~~っと、コカトリスの焼き肉を食べるリザードマンたちを眺めていたのだ。


時間が経ち腹が満たされたリザードマンたちは、段々と緊張感が解れて俺がいることを忘れたかのように振る舞い始めた。


大人たちが笑いだし、子供たちが元気に走り出す。


そして、二兎分のコカトリスを食べ終わるころには怠惰にまみれて多くのリザードマンたちが寝そべりながらだらけ出していた。


なんだろう……。


すげー、フレンドリーな空気になってないか……?


いや、もうさ、だらけてね?


飢餓からの緊張感が解かれて、なごんでませんか?


しかもさ、なんだかこいつら太って来てませんか?


最初のころは痩せてたけれど、段々と脂肪を蓄えて、肥えて来てませんか?


腹がポッコリと出てるし、体型が変わって肥満化してないか?


完全に体型がツチノコスタイルだよ。


もうデブじゃんか。


てか、爪楊枝で歯と歯の間をホジリながらシーシー言うのはやめなはれ……。


なに、この光景は……。


俺がリザードマンたちの変わりようを眺めて呆然としていると、白いローブのリザードマンが俺の側に寄って来た。


「いや~、人間の兄ちゃん、悪いな~、こんなにご馳走になってさ~」


うわ、なに、この砕けよう!


最初と態度が全然違うじゃんか!


口調も変わってるしさ!


最初は武士のように堅苦しかったのに、今じゃあ近所のおじちゃんだよ!


土下座していた時が懐かしいわ!!


なんなのさ、これは!?


俺は白いローブのリザードマンに言ってやった。


「なあ、お前ら急に砕けてませんか?」


「いゃ~、ワシらさ~、内と外で態度が変わるんだべさ~。だから、皆がこうして本性をあんたに曝け出しているってことは、飯を恵んでくださったあんたを仲間だと認めとるんだべさ~」


だべさって、訛りすぎじゃね?


「そうなん……。なんか嬉しいやらなんやらだわな……」


正直嬉しくない……。


微妙だわ……。


「ところで俺の名前はアスランだ。あんたの名前は?」


「ワシの名前はリザードマン族の族長カンタタだべさ」


「でえ、なんでこんなにあんたらは飢えてたんだ、カンタタさんよ?」


俺が訊くと、カンタタの表情が緊張感に引き締まった。


「村を乗っ取られただべさ……」


「村を、乗っ取り?」


「ワシらは、本来もっと森の奥に村を築き静かに暮らしていたんだべさ。そこはここと違って水も緑も豊富だべからの~」


「へぇ~」


「ワシらは、遥か昔、やんちゃでブイブイ言わせていたんだがね。人間の冒険者にこてんぱにやられてからは、それを教訓にひっそりと沼地で暮らしていたんだべさ」


「人間の冒険者は怖いだろ~」


俺は自慢気に言ってやった。


「ええ、もー、あいつら鬼ですわ。鬼強で、鬼怖ですわ~」


相当こてんぱにやられたんだな。


「まあ、そんなこんなでワシらは森の奥の沼地で静かに暮らしていたんだべさ。沼地は魚も取れるしワニも取れるから食料に困ることはなかったんだべさ」


ワニを食ってたんかい……。


「それが……」


カンタタの顔色が悪くなる。


「それが、なんだ?」


「それが……、それが、ヤツらがやって来たんだべさ。レッドリザードマン族が……」


「レッドリザードマン族って、お前らリザードマン族と違うのか?」


「根本的にはリザードマンですが、我々はノーマルのリザードマンで、レッドリザードマンはドラゴンを崇める狂暴なリザードマン族ですがな。ヤツらはリザードマンでも上位種だべさ」


「へぇ~」


スライムとスライムベースの違いなのかな?


てか、ドラゴンを信仰しているから生意気なのかな?


「我々とレッドリザードマン族は外見もちょっと違ってますがな。我々は見ての通り緑色で艶々な鱗ですが、ヤツらは赤いし刺々しい鱗を有してるべ。何より体格も我々より大きい戦士だべさ」


ツルツル蜥蜴とザラザライグアナの違いかな?


「それで、敵わず逃げて来たと?」


「はいだべさ……」


「でえ、レッドリザードマンたちは、略奪が目的だったのか?」


「略奪どころじゃあなかっただべさ。ヤツらは土地ごと奪いやがったんだべさ……」


「なんで土地ごと?」


「さっきも言った通り、ワシらの村は魚も取れるしワニも取れる恵まれた沼地だったから、ヤツらも住みやすいと思ったんだろうさ……」


「取り返そうとはしなかったのか?」


「無理だべさ。こっちは戦える戦士は二十匹程度、向こうは倍の四十匹程度いましたからのぉ。一流の戦士族相手に、流石に無理だべさ……」


レッドリザードマン族が四十匹か~。


悪いリザードマンなんだよな~。


殺しても良さそうだよね?


戦士族だもの、戦いで死ぬのは問題無いよな。


うーむ……。


やっちまおうかな。


皆殺しにしちゃおうかな?


絶対にレベルアップするよね。


悪いリザードマン族なら構わないよね~。


少なくとも追い払うぐらいはしてやろうかな。


「よし、分かった。俺が村を取り返してやろうか」


「な~にをおっしゃいますか、アスランさん。冗談はあきませんよ~」


うわ~、こいつ信用してないわ。


俺が冗談をぬかしていると思ってますよ。


俺は異次元宝物庫から羊皮紙と筆記用具を取り出した。


「カンタタ。これに村の図面を詳しく書いてもらえないか?」


するとカンタタは表情を硬直させる。


「アスランさん、マジだべか……?」


「ああ、大マジだぜ」


「あきませんがな。絶対に無理だべさ。自殺行為だべさ!!」


「なに、ゲリラ戦なら得意中の得意だからよ。心配要らないってばよ」


「ワシらは手伝えませんよ。ワシらには子供や老人も居るんだべさ。ワシらの男衆が死んだら子供や老人たちが飢えて死んでしまうだべさ!!」


「お前らに手伝えなんて言わないぞ。これは人間の冒険者が勝手に始めた戦いだ」


「だども……」


「人間が襲ってきたんだ。ヤツらレッドリザードマン族だって、お前らが話に絡んでるとは思わないだろうさ」


「だども……」


「気にすんな。お前らはここで待っていろ。村は俺が取り返してきてやるからよ!」


俺はカンタタの背中をパンパンと叩いた。


「だから村の図面を書け!」


「は、はいだべさ……」


さてさて、こうして俺とレッドリザードマン族との戦いが、勝手に始まったのである。



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