第十章【蠱毒のヒロイン編】

10-1【リザードマン】

「アンデッドのメイドを預かってもらいたいだと……。それも21人いるだと」


「ああ、少し数が多いが頼めないかな、スカル姉さん」


「はぁ~……」


スカル姉さんは呆れたような深い溜め息を吐いたのちに言う。


その口調は少し怒っていた。


「アスラン、お前はまたどこからそんな物を拾ってきたのだ。しかもアンデッドで21体だと……。呆れてものが言えんぞ」


「呆れてても構わないから、少しの間、ここで預かってくれ」


スカル姉さんは即答する。


「無理だ」


「なんでだよ」


「よく見てみろアスラン。この空き地を」


「んん?」


「こんな建物も無い空き地に21体のアンデッドをどうやって預かれと言うのだ。無理だぞ。そもそもアンデッドだろ、屋根の無いここでは太陽光からアンデッドを守れない」


「あー、なるほどね……」


だとするならば、やはりミイラメイドたちを雇うには、それなりの規模を有した屋敷レベルの施設が必要ってことなのか。


ならばしばらくヒルダたちには異次元宝物庫内で過ごしてもらうしかないだろう。


彼女たちが自由気ままに奉仕に打ち込めるだけの場所は、魔王城を占拠してからになるな。


まあ、そんなこんなでソドムタウンを離れた俺は、転送絨毯を使って鉱山町ランバラルルのドリフターズ亭の一室に帰って来ていた。


ソドムタウンでなんやかんやあった次の日の朝である。


昨晩はドリフターズ亭で、ベッドに横になり休息を取ったのである。


やっぱりちゃんとベッドで寝ないと駄目だよね。


疲れが取れないよ。


そして俺は現在のところ転送絨毯の片割れをクルクルと巻いている最中であった。


とりあえず今日でこの町を離れて次の目的地に向かう予定だ。


次の目的地はターナーと言う小さな村である。


おそらくアキレスで疾風のごとく走れば、一日弱で到着できると思われる距離だ。


だから今から出発すれば夜までには、ターナーの村まで到着出来ると思う。


俺は転送絨毯を異次元宝物庫に仕舞う。


その際に異次元宝物庫内のヒルダに話し掛けられた。


「アスラン様、我々の移住につきましてはどうなりましたか?」


「あ~、悪いな、ヒルダ。話がこじれて、お前らが奉仕できる場所は、やはりまだ手に入っていない古城になるわ」


「その古城はいつごろ手に入りますか?」


「まだ分からん。だが絶対に手に入れてやるから、それまで異次元宝物庫内で待っててもらえないか」


「畏まりました。我々ミイラメイドに取っては時間はほぼ無限。なのでいつまででもお待ちいたしましょう」


「物分かりがよくて助かるよ、ヒルダ」


「今は我々メイドたちの主はアスラン様です。なので約束を守ってもらえれば問題ありません」


「約束か……。まあ、もうしばらくの辛抱だ。我慢してくれ」


「はい、畏まりました」


すると異次元宝物庫の扉が閉まる。


マジで助かる。


ヒルダが物分かりが良いメイドさんでマジ助かったぜ。


でも、これ以上は約束を違えられないだろう。


これは早く魔王城まで到着して古城を占拠しなければならないだろう。


そして俺はドリフターズ亭を出た。


再び魔王城へ向かって旅立った。


そこからひたすら岩が多い草原をアキレスで走っていると、森の側の泥道で、泥の窪みに車輪が嵌まって動けなくなっている商人の荷馬車と出くわす。


中年男性が二頭立ての馬を引き、残りの若い男性二人が山盛りの荷馬車を後ろから押していた。


「ありゃあ、重量オーバーだな」


俺はアキレスの上から荷馬車を脱出させようと奮闘している一団に声を掛けた。


「あんたら、大丈夫かい?」


すると馬を引いてた中年男性が答えた。


「駄目だぜ。もし良かったら、あんたの馬の力も借りたいんだが、いいかね?」


「いいよ、分かった」


協力を承諾した俺は、アキレスの鞍にロープを括って荷馬車を引いた。


すると嵌まっていた車輪が泥の窪みから出る。


流石は我が愛馬アキレスだな。


パワフルだぜ。


「よーし、抜けたぞ!!」


中年男性が嬉しそうに笑った。


後ろで押していた若い二人も笑いながら前に出て来る。


「有り難う、若いの。助かったよ」


いえーい、誉められたぜ。


ちょっとしたことだが、感謝されてうれしいわん。


「いやいや、困った時はお互いさまだよ」


って、俺が言った刹那だった。


突然ながら矢が飛んで来てトントントンっと荷馬車に刺さる。


「なにっ!!」


俺は咄嗟にアキレスから飛び降りると、すぐさまアキレスをトロフィーに戻して荷馬車の陰に隠れる。


すると中年男性が声を上げて騒ぎ出す。


「うわぁぁああ、なんだこれは!?」


俺はチラリと中年男性を荷馬車の陰から覗き見るように確認した。


中年男性は、足元から生えた緑色の蔓に下半身を絡め取られていたのだ。


まさになんだあれ!?


魔法か!?


魔法ならばシャーマン魔法かドルイド魔法なのかな?


これは攻撃だ。


襲撃である。


俺は腰からロングソードを抜くと荷馬車の陰で、じっと待機した。


敵が何だかも分からない、数も分からないのだ。


これでは対策も打てない。


矢が飛んで来たのは馬車から見て左側だ。


俺は右側に隠れている。


馬車の左側には25メートルほど先に森があったから、そこから矢が飛んで来たのだろう。


矢の数は四から五本ぐらいだったと思う。


そうなると敵の数は五人以上居るってことになるな。


あっ、若い兄ちゃんが馬車の後方に向かって走って逃げてるよ。


あれじゃあ矢のいい的じゃあねえか。


殺られるぞ……。


あらら、あいつも下半身を植物の蔓で動きを封じられたわ。


動けなくなって、あたふたと立ち尽くしている。


あともう一人はどこに行ったのかな?


俺は荷馬車の下を覗き込んだ。


するともう一人の兄ちゃんを見つける。


咄嗟に荷馬車の下に隠れたのね。


でも、それは時間の問題だぞ。


誰かが戦ってくれなければ、この荷馬車は野党に囲まれるんだ。


その時に見つかるやんか。


さて、まあ戦えるのは俺だけか……。


勝てるかな?


馬車の右側は平原だからアキレスで走れば逃げきれるかも知れないが……。


そうなると、アキレスをトロフィーに戻すんじゃあなかったわ。


あのまま走り去れば良かったよ。


そうすれば、俺だけでも逃げられたかも知れないのにさ。


失敗失敗、てへぺろっと。


さて、じゃあ反撃しますか。


相手が馬車に接近して来たら応戦だ。


敵の一人には魔法使いが居るはずだ。


動きを封じる魔法を得意としているみたいだから気を付けないとならんぞ。


動きを封じられたら、マジでアウトだもの……。


さてさて、次に敵はどう来るかな。


「ゲコ」


えっ?


ゲコって?


俺は上を見た。


すると荷馬車の荷台に蜥蜴頭の野郎が槍を構えて立っていた。


ヤバイ!!


上を取られた!!


俺は馬車から咄嗟に離れる。


そして、馬車の周りを見て驚いた。


馬車の周りには、二十匹近くの蜥蜴人間が、槍や弓矢を構えて取り囲んで居たのだ。


ヤバイは~……。


ちょっと数が多くね……。


あんな数の槍や弓矢を一斉に放たれたら蜂の巣ですわ~……。


半分諦めた俺がネーム判定をすると、ヤツらは【リザードマン】だった。


全員が、腹や腕は出ているが、部分部分を隠しているレザーアーマーを身に付けていた。


完璧な戦士である。


俺が緊張しながらロングソードを力強く構えていると、白いフード付きローブを被ったリザードマンが前に出て来た。


ボスかな?


そいつが俺に言う。


「すまぬ人間。野盗のような真似をして……」


蜥蜴なのに悠長に人語をしゃべっていた。


てか、野盗じゃあないのかよ?


「命までは取らん。旅に問題ない程度に食料だけ奪わせてもらいたい……」


なんだろう、済まなそうに言ってるぞ。


でも奪うのね。


白いローブのリザードマンが言うと、他のリザードマンが荷馬車の荷物を漁りだした。


そして、僅かな食料を見つけると白いローブのリザードマンに見せる。


すると──。


「すまぬ、人間。これも我々一族のためだ」


そう言うと、リザードマンたちはゾロゾロと森の中に去って行った。


しばらくすると蔓の魔法で動きを封じられていた二人も自由になる。


中年男性が戸惑いながら皆に言った。


「だ、大丈夫か、みんな!?」


すると若い二人が大丈夫だと答える。


どうやら全員無傷のようだ。


俺が問う。


「取られた荷物は?」


若い兄ちゃんが荷台を調べて報告する。


「食料だ。食料だけ取られた……」


「金目の物は取られていないのか?」


「ああ、食料以外は取られていないぞ……」


俺はリザードマンたちが去って行った森のほうを見ながら三人に問う。


「あの森にはリザードマンが住んでいるのかい?」


「ああ、森の奥に沼地があるらしく、そこにリザードマンの集落が在るとは聞いたことがある……」


俺はロングソードを鞘に収めながら言う。


「あんたら三人はターナーの村に向かいな。あの村までなら、食料なんて要らんだろ?」


「ああ……。ターナーの村で食料を補充できれば、なんの問題もないはずだ……。あんたはどうするんだい?」


訊かれた俺は、満面の笑みで振り返りながら言った。


「面白そうだから、ちょっと首を突っ込んでみるわ」


そう述べると俺は、森の方向に歩き出した。


リザードマンたちの足跡を追う。


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