9-24【五つのマジックアイテム】
俺は金庫の中身を見て愕然としていた。
金庫の中は2×2メートル四方の部屋で、三方向の壁には棚があり、メイドのコア水晶の他には五個のマジックアイテムが置かれているだけだった。
その他には金目の物は、一つも置かれていない。
そして扉の裏側にも眼球があり、こちらをジィーっと見ていた。
何故に俺が、その金庫内を見て驚愕していたかと言えば、扉の眼球との約束があったからだ。
俺はこいつと約束したのだ。
金庫を壊さない代わりに、扉を開けてもらうと……。
そして金庫の中からマジックアイテムを一つだけ貰う代わりに他の物には手を付けないと約束したのだ。
そして、金庫の中身はマジックアイテムが五つだけだったのを見た俺は、最初はショボいなって思ったが、五つのマジックアイテムを鑑定してみて評価が変わったのである。
その五つのマジックアイテムは、どれもこれもユニークで素晴らしい一品ばかりだったからだ。
生前の魔法使いが金庫内に隠した理由がなんとなく分かった気がしてきた。
この五つのマジックアイテムが、全部欲しいぐらいだったのだ。
扉の眼球と約束なんてすべて破り捨て、五つ全部貰っちゃおうかな~。
強引にさ……。
いやいや、でもそれでは強盗と一緒じゃあないか……。
俺がそんな悪いことをしていいのかな?
野盗と同類になっちまう……。
俺は美形で正義のソロ冒険者アスランだぞ!!
畜生、こんな約束は結ばなければよかったぜ。
まあ、グダグダ言っててもしゃあないか。
五つのマジックアイテムから一つだけ選ぶかな。
では、まずは、俺を悩ませる五つのマジックアイテムが、どんな物かを紹介していこうか。
一つ目はショートソードだ。
【ショートソード+3】攻撃力が超向上する。
はい、これだよもー!!
何これ!?
攻撃力の向上が超になってるじゃんか!!
普通ならこれ一択だよね!!
でも、他の四つが、これに劣らないマジックアイテムだから恐ろしいんだよね。
では、二つ目のマジックアイテムは、丸い円状の盾だ。
【イージスシールド+3】
防御率が超向上する。
はい、これだぁ!!
もう守りを固めたいファイターさんにはこれだよね!!
防御確率が超レベルで上がるなんて素敵じゃあないかよ。
本当に死にたくないのが分かって来るよね!!
ではでは次は、指輪かな。
【レジストリング+3】
魔法の抵抗率が超向上する。
うわー、これも酷いよね……。
てか、これの+1は向上程度なのに、+3だと超向上になるのねぇ~。
欲しい!
超欲しい!!
だって三倍近くも敵の魔法が効かなくなるんだよ。
もうパーフェクトじゃんかよ!!
畜生、これ、欲しいわー。
悩むわー。
超超超の連続だよ。
この三つから選ぶだけでも血の涙が出そうだわ……。
そして四つ目のマジックアイテムだ。
これも以前見たことがあるマジックアイテムだった。
【身代わりの置物+2】
人形の身体に名前を書き込み血判を入れると、窮地に身代わりとなって置物が砕かれる。人形が砕かれる際に、血判を入れた人物の傷がすべて癒される。
うわー、ゴモラタウンの閉鎖ダンジョンで拾った身代わりの置物のパワーアップバージョンだよ……。
窮地の際に身代わりとして砕けるだけじゃあなく、傷まで全回復させちゃうよ……。
以前の身代わりの置物には全回復までは無かったもんな。
何これ、凄くね……。
さて、最後の一つだな。
んん?
今度のは瓶詰めのキャンディーかな?
俺の頭ほどの瓶の中に、ピンポン玉サイズの丸い球体が複数入っている。
これだけはまだ鑑定していない。
なんだろう?
とりあえずアイテム鑑定してみるか?
俺は瓶に手を伸ばしてアイテム鑑定を試みる。
【幻惑の玉+1】
これを身に付けているアンデッドは、その姿が生きた人間の姿に見えるようになる。
俺は思わず声に出してしまった。
「なんだこれ?」
すると扉の眼球が答えた。
『それは前の主が研究中だったマジックアイテムです』
「研究中?」
『まだ未完成だったとか』
「どう未完成なんだ?」
『それをネックレスなどに加工してから上のメイドたちに持たせるつもりだったとかです』
「じゃあ、何故にしなかった?」
『最後にそれを金庫内に仕舞ってから主はこちらに降りて来なくなりましたから……』
「あー、そこで亡くなったのかな」
多分そうだろうな。
じゃあ、これは無視だ。
未完成品には興味無いわ。
いや、待てよ……。
これをヒルダや他のメイドたちが身に付けたら、ちゃんとした人間に見えるのかな?
てか、見えるんだよね?
これとコア水晶があれば上の二十一人のミイラメイドたちは、ちゃんとしたメイドとして次の雇い主に雇われるんじゃあないのか?
そう考えた俺は、瓶詰めのマジックアイテムを手に取った。
そして、扉の眼球に問う。
「この瓶詰めのアイテムは、この瓶詰めで一つだよな。この玉っころ一つで一つとかってカウントしないよな?」
『え、ええ。それなら瓶詰めで一つでも構いませんよ』
「じゃあ、これにする」
『本気ですか!?』
「ああ、マジだよ」
『他のマジックアイテムのほうが冒険者として有効的じゃあないですか?』
「まあ、本来ならそうだけど」
『じゃあ何故に?』
「これとコア水晶があれば、あいつらが次の雇い主にすんなり雇われるかなって思ってさ」
扉の眼球は、少し沈黙してから言った。
『意外と優しいのですね……』
「言うなよ、照れるじゃあねえか」
そして俺はコア水晶と瓶詰めのマジックアイテムを抱えて金庫を出た。
扉を閉める。
「じゃあ俺は行くぞ」
『はい、分かりました。最後に念を押しますが、次の主にワシのことをお伝えくださいませ。忘れられて、このままこのリトルダンジョンに放置されたら堪らないですからね……』
「じゃあ、最後にお前の名前を訊いておこうか?」
『インテリジェンスドアと申します』
「味気ない名前だな」
『ただの金庫の扉ですから』
「じゃあ次の主には、こう名乗れよ」
『はい……?』
「ドコデモってな」
『ドコデモ?』
「俺の国で、一番便利なドアの名前だ」
『分かりました。私の名前は、今後はドコデモです。名前までくださって有り難うございます』
「感謝は要らないぜ。じゃあな」
『ちょっと待ってください。あなたのお名前は!?』
「名前か……」
俺は一呼吸置いてから答えた。
「ソロ冒険者アスランだ!」
こうして俺は金庫室を出た。
上の屋敷に戻る。
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